【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第八章 郷に入っては郷に従え

110 間違いなく殿下の連れ  鶴丸

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祈里いのり
「はいいぃ!」

 緋色ひいろ殿下に名を呼ばれた若い女性が、上擦った声で返事をした。他の者に比べて殿下に呼ばれ慣れていない様子で、殿下の方を体全部で向いて緊張して背筋を伸ばしている。緋色ひいろ殿下は、その様子を面白そうに見ながら言った。

「客人がお前に用があるそうだ。話を聞いてやれ」
「へ?私にですか?」
「ああ」
「ひえぇ。な、な、何でしょう……」
「くっ。くく。いや、お前に用なんて、衣服の話に決まってるだろ」
「あ、や、あは。あはは。そ、そうですね。あは」

 つまり、この若い女性が衣装の担当者?皇族専用の?
 驚いて奥さんと顔を見合わせとると、祈里いのりと呼ばれた女性は机を回り込んで奥さんの横にぺたんと座った。そのまま、うちの方の作法で深々と頭を下げる。

「皇城の衣装部に勤めております。祈里いのりとお呼びください」
「あ、はい。よろしゅう」
「よろしゅう。頭を上げてええよ。そんな畏まらんと気楽にな、気楽に」
「はいっ。ありがとうございます」

 腰の低さに驚く。城勤めの者いうたら、うちみたいな田舎でもすこーし矜持が高うて、偉そうに胸を張っとるもんやのに。

「あの。どういったご用件でしょう?」
「あ、そや。あのな、あの成人なるひと殿下が今身に付けてはるくまの服なんやけど、祈里いのりさんが作ったいうて緋色ひいろ殿下にお聞きしてな。あれがとても可愛らしいからうちの子に着せたいな思て、相談したかったんや」

 奥さんが説明した途端に、祈里いのりの顔がぱあっと輝いた。

「嬉しいです!はい、あのくまの服は私のデザインです。成人なるひとさまを思い浮かべながら作製しましたが、乙羽おとわさまにも大層お似合いでいらしてですね。あ、乙羽おとわさまというのは常陸丸ひたちまるさまの奥様で、成人なるひとさまととても仲がおよろしい大人の女性の方なのですが、つまり何が言いたいかと言いますと、男性でも女性でも大変お似合いになります。生地が最高級のものを使用しておりますので少々値が張りますが、デパートの一角に置いて頂いて、小さなお子さま向けのサイズから大人のサイズまで、大変によく売れていると聞いております。あの、全体の色も茶色の他に白もございまして、目や服の裾にさり気なく入っている赤色は、皇族専用の赤色を使用しているので成人なるひとさま専用となるのですが、それらのデザインを少々変えたものが様々なサイズでご用意できますので、どんなサイズでも仰ってください。他にもうさぎのデザインもございます。うさぎは成人なるひとさまと乙羽おとわさまは要らないと仰られたので見本の品があるだけなのですが、お子さまがもしお気に召されるようであれば、うさぎでの服の制作も可能でございます」
「そ、そうか。ありがとう。うちの子は今一歳半の男の子でな」

 まだ何か話そうとする祈里いのりに向けて、奥さんが口を開いた。すごいな、うちの奥さん。うち、口を挟める気がせんかったわ。
 うん。分かったで。情報が多すぎて話のなかみはよう分かっとらんが、祈里いのりがどんな人かはよう分かったよ。
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