【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

1 大変  西賀国領主

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「殿!殿!大変です!」
「なんや。熊か、猿か、猪か?」

 この西賀国さいかこくで大変なこと、と言えば獣被害か天候不順くらいのもの。天候が乱れとらんことは見たら分かる。なら、獣被害一択やろ。そこまで騒ぐほどのことやない。あ、いや。もしかして、なんぞ農作物の新しい病気でも出たか?いなごがようけ出たか?それなら、大問題やけど。

「ちゃいます!熊でも猿でも猪でもありません。お客さんです。皇国からの御使者やと仰る方が訪ねてこられました!」
「は?」

 なんて?

「やから、皇国からの御使者です。若様にふみを届けに来られたとかで」
「なんで?」
「なんで、て知りませんがな、そんなこと」

 あ、うん、そやな。知っとったら慌てとらんわ。

つるは今どうしとる?」

 つるは、西宗国さいそうこくの次期領主様の結婚式へ松吉まつきちと二人、名代みょうだいとして出かけて機嫌良う帰ってきた。別に、積極的に外交して来いとも言うとらんしその必要もないから、まあ楽しかったんなら良かったなと、そんな詳しい話は聞いとらん。帰った日とその次の日は休みにしたったしな。孫の亀吉かめきちも、三日も親と離れたんは初めてやったからよう甘えとったようやし。やっぱ親には敵わんなあ、じじとばばは。親がおらん間はめちゃくちゃ甘えてくれて、嬉しかったんやけどなあ。
 ほんで、つるは今日は仕事しとるみたいやけど、どこで何しとるとかそんな気にするもんやない。

「山の方、見回り行ってはります」
「ま、部屋におらんしそやろな」
「どうします?」
「どうします、ちゃうやろ。はよ、つる、呼んでこい。ほんで御使者の方をここにお通しして、丁重におもてなしや」

 あいつ、九鬼はどや、て聞いたら、九鬼の若様、話しやすいし、ええお人やったでとか言うてたから、九鬼の若様と気い合うんか、ほな良かったなとか思てたんやけど。それ聞いとっても、九鬼から御使者が来たら驚くやろけど、ひと足飛びで皇国の御使者?……あんだけ楽しそうに帰ってきたから、悪い話やないやろけど。

「そや。松吉まつきちはおるやろ。松吉まつきち呼んでこい」
「殿。若奥様も山です」
「あいつらはほんま、じっとしとらん」

 御使者はどんな風にもてなしたらええんや?一応、こっちが上座でええんか?
 皇国とのやり取りは九鬼の殿様がするから、うちらは九鬼の殿様方とさえ上手くやればええとしか先代から教えてもうとらん。その九鬼の殿様も、近年はごたごたしとったから大して行事ごともなく関わり合っとらんかった。ここんとこは、領地を安堵して税をしっかり納めることさえできとったらそれで良かったから、ますます外交からも遠ざかって、他国とのやり取りの礼儀があやふやや。
 うん。どうしたらええんか分からん。
 つる、はよ帰ってきてくれ。
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