【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

45 許せる筈がない  源之進

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 たこ焼きの皿を手に、主役の一人が歩いてきた。先ほど、おみが大きなプレゼントの包みを渡して笑いあっていた男。たこ焼きも、おみが自分の焼いたものを渡していた。余程、親しい間柄の方なんやろう。おみがこちらに来てから仲良うなった方か。二十歳はたちになった、と紹介されとったから、おみ年齢としが近いという訳でもないようやが。

「こんにちは。ご挨拶が遅うなりました。九条くじょう三郎さぶろうと申します」
「あ、ああ。源之進げんのしんです。ご丁寧に、どうも」

 九条。これまた結構な身分の若様が、名字も持たん一介の料理人に深々と頭を下げてくる。ここの人間はどうにも、誰も彼も頭が低くて困る。手術後の足はまだ立ち上がることもできないから、椅子に掛けたまま頭を下げ返すしかない。

「お聞きしております。その、い、壱臣いちおみさまの育て親でいらっしゃる、と」
「……?」

 三郎さぶろうと名乗った九条の若様は、頭を下げたまま言葉を続けた。

「ありがとう……ございました。壱臣いちおみさまの御命を長い間御守りくださり……。その、誠に、ありがとう、ございました……」

 は? と顔を上げる。男の顔は見えない。たこ焼きの皿を大切に持ったまま、ただ深々と頭を下げている。
 一体、なにが……。

「ご不快を増すばかりになると分かっております。お前なんぞに言われる筋合いはない、とお思いになられることでしょう。それでも。それでも、私は……」
三郎さぶろう?」
「申し訳ありませんでした。壱臣いちおみさまの御命を常に危険に晒し続けたこと、謝っても謝っても足りるものではありません。私は」
三郎さぶろう

 おみが呼びかける声に反応することなく、男は絞り出すように俺に向かって話しかけ続ける。

「私は、私の生涯をかけて償いをする覚悟でおります。どうか、どうか源之進さま。私が壱臣いちおみさまのお傍にあることを、お許しください」

 西国の訛り。十月生まれ。二十歳はたち。上品な物腰。

「なんや、それ……」

 喉が張り付いて声がうまく出なかった。
 なんで、なんで此処に? おみと共におる?

「なんで三郎さぶろうがうちの傍におることに源さんの許可がいるん? そんなん、いらんよ。償いとか訳分からん。何言うてんの、もうっ。うちのお父さんが来てくれたから紹介するって言うただけやのに」

 思わず振り返って半助はんすけを見た。無表情に、小さく頷くのが見えた。
 の旗印。行方知れずと聞いて、どこかで再起を図りはしないかと少々不安に思うとった。おみや殿、新しい若様の脅威にならん為に、しっかり見つけて処分してほしいと願っとった。
 おみの傍におることを許せ、やて? 聞くな、そんなこと。言うな、そんなこと。
 聞かれたら、許せる筈がない。
 
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