【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

83 返事がないのは  緋色

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「ここの責任者はこれか?」

 少し待ったが、どこからも返事はない。返事がなくては埒が明かぬ。鶴丸つるまるも笑顔で黙ったままであるから、堪えきれずに口を出した。せっかく遊びに来たのに、いつまでも成人なるひとと離れていたくない。何かあっても守れば良いだけなのだから、帰すのではなかったな。
 亀吉かめきちめ。一人では帰らないだの何だのごねて、うまいこと成人なるひとを連れ帰りやがった。この程度の荒事なら、共にいた方が楽しかった。まあ、長引きそうだから、たぶんこれで正解だったのだろう。
 髪を切られてしばらく取り乱していた男を示して、屋敷の方へ目を向ける。男は今は、髪に手をやって呆然としているから、まだまだこちらの話にまともな答えは返ってきそうにない。

「殿下」

 鶴丸つるまるが笑顔のまま振り返る。

「もうちょいゆっくり反応を楽しもう思たのに」
「ここでは旨い昼飯を調達できそうにない。あと、昼寝から起きるまでに帰りたい」
「あー。はいはい」

 常陸丸ひたちまるが前に出る。

鶴丸つるまるさま、すみません。楽しみを奪ってしまいますけれど、交代します」
「いえいえ。充分、堪能したんで」

 鶴丸つるまる松吉まつきちが、俺の隣に移動してきた。

「確かに、答えの分かっとる問いの答えをいつまでも待つんは、時間の無駄ですね」
「返事がないのは肯定、と言うだろ」
「へえ! うちらの周りにはお喋りな者が多いから、誤魔化す時はとにかく色々喋りますねえ。返事がないんは肯定かあ。なるほど」

 所変われば、だな。嘘つきは良く喋る、とも言うか。

「って訳で、口は開かなくていい」

 特に表情の変わらない常陸丸ひたちまるが屋敷の人間を睨みつつ言い、笑顔の力丸りきまるが賊側へ視線を飛ばす。

「今から一つだけ質問をする。首を縦か横に振って答えろ。縦は肯定、横は否定。動かないのは肯定とする」

 交代したから、皇国うちの方の認識で。
 呪縛が解けた者たちが震え出す。動けるようになって何よりだ。

「知り合いか?」

 常陸丸ひたちまるは、淡々と言った。ただ、ひと言。説明なんて要らないだろ? 説明するのはお前たちの方だ。
 屋敷の者は一斉に首を縦に振る。賊の方は、ほとんど動かなかった。
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