【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

86 身の丈  緋色

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 門が開いた。すました顔で立っていた門番が、驚いた顔で振り返る。来客があるとは聞いていない、と俺たちを足止めした猛者だ。連絡の不備が無いか聞いてくる、と一人が門の内に走って行ったから待ってやったが、もう少し融通は効かせた方がいい。各務かがみ家の紋の入った車だぞ。鶴丸つるまるたちが短気なたちなら、首が飛んでいてもおかしくはない。あ、いや。人を殺してはいけないのだったな。落とすなら髪か? 髪は……。そうだな。この門番の髪は、落としてもいいような気がする。
 随分と色鮮やかな、凝った彫刻が施された門だった。まあ、見目は良かった。門を閉じられ待たされた経験は初めてだから、他所の門を眺めたことは無いが。
 それにしても、自分は気が短い方ではないと思っていたんだが、待たされたことが無くて知らなかっただけか。腹が減っているからか。城の方から慌てて門へ向かってくる者らのはりつけた笑い顔に、無性に腹が立った。鶴丸つるまるの車で門に突っ込んでもしまうのもありだったかもしれん。
 後始末が面倒だから、朱実あけみに言われるまでもなく城をどうこうする気は無かった。だが、門は城ではないのだから、門には突っ込んでもよかったんじゃないか? ……車が壊れると困るか。

「殿下。車に乗ってください。物騒な顔してないで、とっとと行きますよ」
「おう」

 常陸丸ひたちまる、物騒な顔ってなんだ? 
 ま、いいか。
 迎えに出てきたらしき者を横目に、車は門をくぐった。
 城の前までしっかりと車が通れるように整備されている。これはいい。成人なるひとが疲れずに済む。弐角にかくの所は、昔ながらの風情を残しているから、門から城まで少し歩く。風情もあるし、歩いて城へ辿り着けなくなった者は第一線からは引退、と分かりやすいからあれも良い。ん? いや、今は車の通る道が整備されていたか。
 とはいえ、城、とひと括りにはできないほど様々だな。鶴丸つるまるの所は平城で、あれも好きだ。成人なるひとと共に暮らし始めた頃の屋敷を懐かしく思い出した。あの屋敷はすごく好みだった。ちょうど良かった。近しい者の気配だけが、程よくいつも感じられて好きだった。
 いつか。
 いつかまた、あんな屋敷でのんびりと暮らしたい。
 大きく煌びやかな城の真ん前で車から降りる。兵や使用人たちがわらわらと集まってきた。
 ああ、そうか。あの頃の屋敷程度の大きさでは、成人なるひとの、いや、成人なるひとと俺の大事な家族が入りきらんな。いつの間にか、大所帯になったもんだ。
 人は、それぞれに合った住処すみかに居を構えるもの。そう考えると、この城は真中まなか家には大き過ぎる。
 俺がいると聞いてさえ、まだ城の前に出てこられないとは。
 
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