【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

115 外へ出るには  成人

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 緋色ひいろたちの近くに、正一郎しょういちろうがいた。
 正一郎はあそこに出入りできたのかな、とちょっと気になった。真中だけ出入りできる、と真中だった人はさっき言っていたな。なら、真中だった正一郎は出入りできるのか。
 あ。
 正一郎は、真中だった人の子どもなんだから、あそこで育ったんじゃない? 出入りできる、というか、出てこれたのかもしれない。大人になったから出れたのかもしれない。
 それなら、もしかしてあそこに、正一郎を産んだ人がいたりしたかな?

「正一郎の、ええっと、母上? とか伴侶、とか? あそこにいる?」
「え……?」

 正一郎は、じっと鈴の付いた戸の向こうを見ていた。誰を見ていたのかは分からないけれど、ずっとそちらを見ていた。

「あ、いや。母上、は、亡くなり、ました……。病気……で。なんや急に、弱って。半年ほど、前に。よう勉強しなさい、とうるさい人で……。小言が多くて、父にも疎まれとって……。でも、母がおらんくなって、父の、今お気に入りのあの女が、あんな、下品な……」

 ひとりごとみたいに、ぼそぼそと正一郎は言う。

「伴侶……は、まあ。領主を継いだんやから、今ここにおったのは、名目上は私の……いや、まあ、おったような、おらんかったような……」
「?」

 正一郎の母上が亡くなっている、ってのは分かった。伴侶がいるのかいないのかは分かんなかった。
 まあ、正一郎に、伴侶がいてもいなくても、どっちでもいいんだけど。ちょっと気になっただけ。正一郎が誰かの事をじっと見ていたから、特別な気持ちで見る人がいるのかな? って。でも、真中の人は伴侶がたくさんいるみたいだから、一人だけ特別に好き、とかは無いかもしれない。
 俺の当たり前が当たり前でない場所だから、分かんないや。
 出入り自由、と言われた人たちは、俺たちが背を向けた後、急いで立ち上がっていた。まずは皆、奥の部屋に向かって行った。誰も、正一郎の方は向かなかった。真中だった人の方も。
 もう外へ出られるのに、全員が奥へ向かって歩いていった。
 お出かけの準備かもな。今、ここの人たちが羽織っていた着物は、白くはないけど、まるで結婚式の時に着るような、床を引きずる長さの着物だったから、とても、歩きにくそうだった。着物はもともと歩きにくい服なのに、それよりもっと歩きにくそう。外なんか歩いたら、裾を持ち上げていても、うっかり汚してしまいそうだ。
 ああ。
 ここの人たちは、本当に外に出られなかったんだなあ。家の中で、綺麗に見えるように作られた着物だ。外に出ることなんて、これっぽっちも考えられていないんだ。
 ここの人たちの荷物の中に、外に出られる服があるといいな。   
 俺の軍服みたいに。
 
 
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