【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

118 一番がいっぱいある所  成人

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「寄ってってや。寄ってってや。うちが一番安いよー」
緋色ひいろ、一番安いって」
「そうか」
「一番美味しいのはうちやでー。うちの食べたら、他は食べられへんでー」
緋色ひいろ、一番美味しいって」
「へえ? 食うか?」
「うーん」

 一番美味しいの、食べたい。あ、でも、これを食べたら他のを食べられなくなるのは困る。これも食べて、他のも食べたい。
 じゃあ、今はこれはやめておくか。うーん、でも、たこ焼きの一番。食べてみたいような? でも、たこ焼きなら、うちで作るのもすごく美味しい。でもでも、大きな声で一番って言うくらいだから、うちのより、とんでもなく、すごーく美味しいのかもしれない。気になる……。

「ちょっと、そこの格好良いお兄さん! こっちこっち。うちの食べてって。弟さんも一緒に味見せえへんか?」
「!!」

 格好良いお兄さん? 緋色ひいろの事に違いない! ん? 弟さん? 力丸りきまるのこと? じゃ、格好良いお兄さんは常陸丸ひたちまる

成人なるひと。いちいち反応すんな。キリがねぇぞ」

 力丸りきまるが、少し前を進みながら振り返って言った。
 あちらこちらから声がかかるから、あっち見てそっち見てってしていたら、ちっとも進まない。楽しいんだけどさ。
 人が多すぎて、いつもみたいに少し離れて歩くことはできず、常陸丸ひたちまる力丸りきまるもじいじも、俺と緋色ひいろのすぐ近くにいてくれた。他の人にぶつかったりしないように守ってくれているんだ。後ろから押されたりもしていないから、上手く囲ってくれているんだろう。

「ま、いいじゃないか」
緋色ひいろ、ほどほどで頼む。いくら何でもこれは……」

 常陸丸ひたちまるが小声で言った。とにかく人が多いし、こっち来てーっていう声が大きいし、これは護衛が大変だよね。ごめん。
 全部見るんじゃなくて、見たいのを選ぶことにしよう。よく聞いたら、皆、うちが一番安い、うちが一番美味しい、うちが一番品揃えがいいって言っている。一番がいっぱいだ。一番って一つのはずなのにさ。ちょっと面白い。これ、勝手に一番って言ってるやつだ。本当に一番なのかは分からないやつ。
 そういえば、真中だった人も自分のことをお城の人に「上様」って呼ばせていたな。西の国で一番上の人って意味の、壱鷹いちたかのことを表す言葉。ここの人は、一番って勝手に言うのが好きなのかもしれない。

「あ」

 あれ、何だろ。見たことない食べ物を焼いている。

「さかな?」
「魚だな」

 魚の形の甘い匂いの食べ物?

「鯛焼きを見るんは初めて?」

 並んでいる人が、声をかけてくれた。
 うんうんと頷くと、並んでいる人たちが、見えやすいように少しすき間を開けてくた。優しい。

「お兄さん、格好ええねえ。弟さんと観光かい?」
「伴侶だ」
「え?」
「弟じゃなくて、伴侶」
「え? あ、女の子やったんか。ズボン履いとるから、あたしゃてっきり……」
「男で合ってる」
「へ?」 

 何人かが、ぽかんと口を開けたけど、すぐに、ま、いいかって一人が言った。最初に声をかけてくれた人だ。

「皇国の皇子様の伴侶も男やって言うしな。珍しいけど、そういう人もおるってことやな」
「そういうことだ」

 皇国の皇子様って、緋色ひいろのこと? 伴侶は俺だから、男だね。合ってる。それ、俺たちです。
 でも、この人には内緒。赤色が、見えにくいところにしか付いていない服を着たら、それが皇子様と伴侶ってことを内緒にする合図。

「ま、初めてなら食べていき。おすすめやで。うちが作ったんやないけど」

 周りで、わははと笑い声が上がった。

「そやそや、おすすめや。ここの美味しいで。うちが作ったんでもないけどな」
「わはは。こりゃ、宣伝料払わなあかんな、店主」
「客寄せしとんやから、一つくらいおまけくれるやろ」
「ええな、それ。それなら、うちも声かけよかな?」
「あれ? あんたも、こんなん初めて見た言うて並んでなかったっけ?」
「あはは。実はそうですー。おまけ貰えるかな思て」
「調子ええなあ。ま、ええか。ほな店主、うちら客寄せしたるから、おまけよろしくな」
「頼んでへんわ」
「わははは」
「あははは」

 お店の人もお客さんも、皆知り合いなのかな? 仲良しだね。

「俺、食べる」
「おお、並べ並べ」
「うん」

 甘いお魚だ。楽しみ。
 緋色ひいろは、匂いがもう甘い、って眉をしかめながら、一緒に並んでくれた。

 
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