【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

140 それも仕事  成人

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 トイレから出た後、じいやの手伝いはいらないと言われちゃったから少し悩んでいた。じゃあ、今からどこに行こうかなって。力丸りきまるは、早くさっきの部屋に戻るぞって言ってるんだけどさ。俺、あそこに戻っても仕事ないんだよなあ。緋色ひいろはくっつきたい気分みたいだからくっついててもいいんだけど、寝るのは嫌だ。さっき寝たから、もう今日は夜まで絶対寝ない。俺も何か仕事したい。みんなすごく忙しそうだからさ。俺も何かできたらいいんだけど。
 早く戻ろうと言う力丸りきまるに知らん顔してトイレの近くの廊下で考えていたら、廊下の端の方に亀吉かめきちの小さな姿が見えた。とてとてとて、と小さな足が動いて俺の方へとやって来る。速い。

「なーひとでんかー」
亀吉かめきち

 亀吉かめきちが動く時に、ゆっくり歩くところは見たことがない。いつも走っている気がする。うちで末良すえよしと遊んでいた時も、かめしゃ、まって、って言う末良すえよしの声がよく聞こえていた。末良すえよしの方が大きいのに、置いて行かれちゃうんだよね。亀吉かめきちには、ゆっくり動く機能がついていないのかもしれないな。鶴丸つるまるも、動きが素早いから一緒だ。親子は似るんだものね。ふふっ。似てる似てる。

「お散歩?」

 違う違うと亀吉かめきちは首を横に振った。

「違うの? 何してたの?」
成人なるひと殿下、失礼いたします。代わりにご説明申し上げてよろしいでしょうか」

 俺の質問に、んー? と首を傾げる亀吉かめきちの後ろで、何かを抱えた香月かづきが答えた。

「うん」

 亀吉かめきちはまだ小さいから、少ししかしゃべれないからね。お願いします。

「奥の方の整理をしとった奥方様が、使われた様子のない玩具の積まれた部屋を見つけられたんです。この城の奥の方々は皆さん、身の回りの品だけ持って城を出られましたんで、もういらんもんなら遊ばせてもらいって、奥方様が亀吉かめきちさまに渡してくださって。亀吉かめきちさま、しばらくご機嫌で遊んどったんですけど、急に成人なるひと殿下を探され始めてしもて」

 おお、玩具。良かったね、亀吉かめきち

「なーひとでんか。こっち」

 亀吉かめきちは俺の手を引いて、来た方へと歩き始めた。ん? 一緒に遊ぶの? 玩具がある部屋に行く? おお、早い早い。

「あー、亀吉かめきちさま、待ってください。成人なるひと……ええっと、成人なるひと殿下と遊ぶならこっち。こっちで」

 力丸りきまるが、大慌てで俺たちをまとめて抱きとめた。

「玩具、持ってるんだよね?」

 香月かづきを振り返って言うと、香月かづきがうんうんと頷いた。手がふさがってるもんね。それでも、護衛できるってことなんだろうけど、玩具持ってついてきたのすごいな。流石、鶴丸つるまるたちの所の人だな。

「そのまま、こっち行きましょ。亀吉かめきちさまがいるなら、ますます仕事が進むかも。足りない玩具は、後で俺が取りに行くから、こっちです、こっち」

 あの狭い部屋の前の廊下で遊ぶの? いいけどさ。もっと広い部屋たくさんあるのに、あそこ? いいけどさ。
 でも、俺、遊んでていいのかな。亀吉かめきちは遊ぶのが仕事だからそれでいいけど。

「成人。亀吉かめきちさまのお世話はかなり大変な仕事だけどできるか?」

 力丸りきまるに、こそっと言われてはっとした。
 仕事? そうか。亀吉かめきちと遊ぶのって仕事か。
 香月かづきがいつもやってること。
 そういうことなら喜んで!
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