【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

165 文官の独り言 1  

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「どーじょ」
「あ、あ、ええっと、あ、あり、ありがとう……ございます?」
「ん」

 この、置かれたお皿はどうしたら? と思うけど、置いた子どもは一つ頷くとまた、玩具のある場所へと戻ってしまった。
 手にはいつも通りの書類。隣には見慣れた同僚の姿。反対隣にもう一人の同僚の姿は無いけれど、自分としてはいつもと変わらない状況や。
 まあ、ええか。手の中の書類をとにかく片付けよう。そうしとったら、周りの不可解な状況をしばし忘れることができる。そうでもせんと、混乱した頭から火ぃ吹きそうや。多分、隣の同僚もおんなじ気持ちなんやろう。黙々と書類を片付けとる途中で顔を上げると、たまに目が合っていた。口を開きかけて、同僚の向こうに、新しい領主様と次期様やと紹介された方々の姿を見てしまい、口を噤む。向こうからは誰が見えとるのか、同僚も同じ動作をして口を噤むから、やっぱり書類へと目を戻して現実逃避した。
 そうしとったら、何故か部屋の隅で遊び始めた子どもたちが、玩具の食べ物を運んできて机に置いた。どーじょ、と言われてもどうしたらええのか分からない。とりあえず礼を言うと満足気に頷いて戻られたから、これで良かったんやろう。
 この城におる、いうことは若様? 何で俺、領主様や次期様、若様のおる部屋におるんやったっけ? この部屋、何やろ? 広いな……。
 ふと、顔を上げて周りを見渡すと、短髪の、非常に整った顔の方が目に入った。短髪……。この城にその髪でおれるなんて……。ああ、そうや、皇国の……。
 皇国の方々は、髪の毛の長さは様々やったな。昨日、俺らをあの狭い部屋から出してくれた人たちも、髪は短かった。
 部屋から連れ出し、温かい飲み物と食事をくれた。食事を終えて仕事に戻ろうとしたら、布団に連行された。暗くて静かな部屋で、寝心地のいい布団に横たわる様に言われた後は、記憶がない。目を覚ましたら明け方やった。呆然としとると、両隣の布団から同僚が同じように起きてきて、呆然としとった。
 朝も早い時間やと思うのに、起きたか、とすぐに確認に来る人がおって。今度は風呂に連れて行かれて、久しぶりに、ほんまに久しぶりに湯に浸かった。手入れの暇もなく絡まった長い髪は洗っても解けなくなっとったけど、とりあえず洗えてさっぱりとして。上がったら、着替えも置かれとるという至れり尽くせり。
 もうその頃には、何かあったんやろ、とは思っとったけど、聞かんかった。
 皇国の皇子様がうちの城を訪問される、いうんで年末の忙しさに輪がかかっとったから、寝てしもた間に溜まった仕事を終わらせなってそればっかり頭にあって。
 少し前に、九鬼の次期様の結婚式に出かけるいうんで、阿呆みたいに金を使たばっかりやのに、また、なんやよう分からん珍味やら取り寄せる言うたり、色々整えようとしたりするから、ほんま大変で。
 しかも、その少し前に急な領主交代の儀をしとって、でも、儀式だけして結局最後の判子は前領主様が持っとるもんやから、ただでさえ遅れがちやった最終決裁が更に遅れがちになっとって……。あ、もう、前前領主様か。
 真面目に同じ部屋で書類仕事をする現領主様を見る。
 進む。仕事がさくさく進んでいく。快適や……。

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