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第十章 されど幸せな日々
14 しなくてよかった 成人
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「緋色殿下。成人殿下。おはようございます。本日はお手数をお掛け致します」
竹光が言って、頭を下げた。一緒にきた鶴丸や松吉、玉鶴、護衛たちもぴしりと止まって頭を下げる。周りに控えていた軍人たちも一斉に頭を下げた。
俺に何かを言いかけていた亀吉が口をきゅっと閉じる。こういうとこ、亀吉はすごい。
「ああ。まあ運ぶだけだ。気にするな」
「はい。ありがとうございます」
緋色は話しながら、ひらと手を振る。頭を上げていいよ、の合図。皆分かっていて、背筋は伸ばしたまま頭を上げる。揃ってて格好良い。こういうのだよ、こういうの。こういうやり取り、格好良いでしょ? 元真中。
……あんまり、格好良いとは思ってなさそうだな。元真中は座り込んだまま、じろりと竹光たちの方を見た。正一郎や他の人は、皆が頭を下げているのを見て慌てて頭を下げていたんだけれど、それもしなかった。緋色に頭を下げることも忘れてしまったのか。今まで、それだけはやっていたのに。
決められた動きがあるっていうのは、やる事が分かっていて楽なんだけどな。覚えてしまえばちゃんとできるし、気持ちが引き締まる。いい事ばかりだ。ちゃんとしてても、殴ったり怒鳴ったりするような上司や司令官がいなければ。
「この、簒奪者が!」
あ、そうか。元真中は、ちゃんとしてても殴ったり怒鳴ったりするような上司だったんだな。
「さんだつしゃって何?」
緋色を見上げたら、権力を奪い取った者って事だ、って教えてくれた。
え? 竹光たち、奪い取ってないよ。任されたんだよ。大変なのに引き受けてくれたんだよ。元真中は、本当に勉強が足りない。
「こりゃ、大一郎! しかと礼を取らぬか!」
元真中の声よりもっと大きな声が、元真中を叱りつけた。これは、ちゃんとしてないから叱られたやつ。じいじは正しい。
威圧を込めた訳じゃないけれど、亀吉が俺にしがみつく手の力がぎゅって強くなった。じいじの声は、よく響くからねえ。末良なら泣いてたな、これは。今、いなくて良かった。泣かない亀吉、強い。
「何度でも言うてやろう。今この場で、最も身分の低い人間がお主じゃ。礼をとれ! この場の全ての人間にな」
「わしが、わしが、何故……。何故このような……」
「無礼を働いたからじゃろう?」
「無礼を! わしに無礼を働いたんは、そこの各務の小倅で!」
「鶴丸は、無礼を働いたことなんてないよ?」
最初からずっと、俺にも緋色にも、壱鷹や弐角にも、丁寧に礼をしていた。元真中には礼をとる必要が無かっただけだ。あの時の鶴丸は、竹光の代わりとして弐角の結婚式に参加していた。だから、元真中と同じ身分だった。それでも、挨拶はちゃんとしていたよ。していなかったのは、元真中だけ。
「い、いや、わしに、無礼を……」
「無礼じゃなかった」
「わしこそが、西国の、まことの……」
「ちゃんと勉強しないと、本当に無礼討ちされちゃうよ?」
あまりに無礼な人は、無礼討ちしてもいいって言ったのは元真中だ。
「そうじゃな。成人殿下への度重なる不敬は、我ら、緋色殿下ご夫夫直属には少々腹に据えかねる事態であったからな。皇太子殿下の厳命が無ければ、城ごとうち取っておったな」
「まこと、残念でした」
あ、じいや。静かに俺たちの近くに来たから、軍人たちが武器を構えそうになってるよ。もう少し、気配を出して来ないと。
お見送りに来てくれたのは嬉しい。
「城ごと……」
「緋色殿下の直属だけで、城ごと……」
「できるんや……」
「まあ、剛毅な……」
竹光と鶴丸、松吉、玉鶴がそっくりな仕草で城を見上げながら呟いた。
うん。まあ、できる。
できるけど、でも、しなくてよかった。お仕事してる人がたくさん居る場所だったから、落としてたら、後で、仕事をする場所を探すのに困ったと思う。朱実殿下は、後のことまで考えて、建物を壊しちゃ駄目って言ってたんだな。すごい。
いつも後のことまでたくさん考えていてすごいです、って次のお手紙で朱実殿下に伝えよう。
本当にすごいからね。
竹光が言って、頭を下げた。一緒にきた鶴丸や松吉、玉鶴、護衛たちもぴしりと止まって頭を下げる。周りに控えていた軍人たちも一斉に頭を下げた。
俺に何かを言いかけていた亀吉が口をきゅっと閉じる。こういうとこ、亀吉はすごい。
「ああ。まあ運ぶだけだ。気にするな」
「はい。ありがとうございます」
緋色は話しながら、ひらと手を振る。頭を上げていいよ、の合図。皆分かっていて、背筋は伸ばしたまま頭を上げる。揃ってて格好良い。こういうのだよ、こういうの。こういうやり取り、格好良いでしょ? 元真中。
……あんまり、格好良いとは思ってなさそうだな。元真中は座り込んだまま、じろりと竹光たちの方を見た。正一郎や他の人は、皆が頭を下げているのを見て慌てて頭を下げていたんだけれど、それもしなかった。緋色に頭を下げることも忘れてしまったのか。今まで、それだけはやっていたのに。
決められた動きがあるっていうのは、やる事が分かっていて楽なんだけどな。覚えてしまえばちゃんとできるし、気持ちが引き締まる。いい事ばかりだ。ちゃんとしてても、殴ったり怒鳴ったりするような上司や司令官がいなければ。
「この、簒奪者が!」
あ、そうか。元真中は、ちゃんとしてても殴ったり怒鳴ったりするような上司だったんだな。
「さんだつしゃって何?」
緋色を見上げたら、権力を奪い取った者って事だ、って教えてくれた。
え? 竹光たち、奪い取ってないよ。任されたんだよ。大変なのに引き受けてくれたんだよ。元真中は、本当に勉強が足りない。
「こりゃ、大一郎! しかと礼を取らぬか!」
元真中の声よりもっと大きな声が、元真中を叱りつけた。これは、ちゃんとしてないから叱られたやつ。じいじは正しい。
威圧を込めた訳じゃないけれど、亀吉が俺にしがみつく手の力がぎゅって強くなった。じいじの声は、よく響くからねえ。末良なら泣いてたな、これは。今、いなくて良かった。泣かない亀吉、強い。
「何度でも言うてやろう。今この場で、最も身分の低い人間がお主じゃ。礼をとれ! この場の全ての人間にな」
「わしが、わしが、何故……。何故このような……」
「無礼を働いたからじゃろう?」
「無礼を! わしに無礼を働いたんは、そこの各務の小倅で!」
「鶴丸は、無礼を働いたことなんてないよ?」
最初からずっと、俺にも緋色にも、壱鷹や弐角にも、丁寧に礼をしていた。元真中には礼をとる必要が無かっただけだ。あの時の鶴丸は、竹光の代わりとして弐角の結婚式に参加していた。だから、元真中と同じ身分だった。それでも、挨拶はちゃんとしていたよ。していなかったのは、元真中だけ。
「い、いや、わしに、無礼を……」
「無礼じゃなかった」
「わしこそが、西国の、まことの……」
「ちゃんと勉強しないと、本当に無礼討ちされちゃうよ?」
あまりに無礼な人は、無礼討ちしてもいいって言ったのは元真中だ。
「そうじゃな。成人殿下への度重なる不敬は、我ら、緋色殿下ご夫夫直属には少々腹に据えかねる事態であったからな。皇太子殿下の厳命が無ければ、城ごとうち取っておったな」
「まこと、残念でした」
あ、じいや。静かに俺たちの近くに来たから、軍人たちが武器を構えそうになってるよ。もう少し、気配を出して来ないと。
お見送りに来てくれたのは嬉しい。
「城ごと……」
「緋色殿下の直属だけで、城ごと……」
「できるんや……」
「まあ、剛毅な……」
竹光と鶴丸、松吉、玉鶴がそっくりな仕草で城を見上げながら呟いた。
うん。まあ、できる。
できるけど、でも、しなくてよかった。お仕事してる人がたくさん居る場所だったから、落としてたら、後で、仕事をする場所を探すのに困ったと思う。朱実殿下は、後のことまで考えて、建物を壊しちゃ駄目って言ってたんだな。すごい。
いつも後のことまでたくさん考えていてすごいです、って次のお手紙で朱実殿下に伝えよう。
本当にすごいからね。
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