【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第十章 されど幸せな日々

58 寒いけど暖かい一日  成人

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「夜ご飯だ」
 
 緋色ひいろの声で起こされた。
 起こされた?
 
「あれ?」
  
 寝てたってこと? うわー、しまった。

「俺、寝すぎ」
「いいじゃないか。寝られるときに寝ておけば」
 
 ええー? 大人はそんなに昼寝しないって聞いたんだけどなあ。

「来るときのバスの中でもお風呂の中でもちょっと寝たのに。末良すえよし亀吉かめきちでもお昼寝は一回だよ?」
「そうなのか?」
「そう」
「ちび達は、疲れたらいつでも寝るだろ? ご飯を食べながら舟をこいでいる時もよくあるじゃないか」

 あるある。口に食べ物を入れたまま、頭が、がくんがくんとしてる。名前を呼んだら、はっとしてまたお口をもぐもぐするんだけど、結局途中で寝ちゃうやつ。あれ、可愛い。動いて遊んでいたら気付かなかった眠気が、座ってご飯を食べ始めたら急に来るんだよね。分かる。
 なに? 緋色ひいろ? にやにやしながらこっち見てさ。

「俺は、食べながら寝たりしないからね! 今は」

 そう、今は。
 前は、そういうこともあったかもしれないけど、今はそんなことはない。俺も大きくなったのでね。

「そういやそうだな。最近ないな」
「ふふん」
「たまには、あってもいいんだが?」
「ええー? もうしないよ」
「そうか。残念」
 
 残念ってなにー? 最後までちゃんとご飯を食べられた方がよくない?
 あ、でも。亀吉かめきち末良すえよしが食べながら寝ちゃうの可愛いから、見られなくなったら残念って気持ちは分かるかも。

「風呂に入るのは疲れるから、寝といて正解だ。夜ご飯をしっかり食べられるな」
「うん」

 生まれて初めて、あんなに長く湯につかったもんなあ。
 気持ち良かった。

 夜ご飯は、美味しいお鍋だった。
 器に取り分けてもらって、ふーふー冷ます。白菜がとろとろに柔らかくなっていて、大きいのをぱくりと食べた。
 
「味噌味だ」
「お口に合いましたやろか?」
「おーいしいー」
「ほな、良かったです」

 千代ちよが料理人の顔で笑った。千代ちよの料理は何でも美味しいって、俺はもう知っている。
 また、広末ひろすえ村次むらつぐを連れて来よう。美味しい料理を作る人同士はすぐに仲良しになるから。そして、仲良く話しているうちに、作れる料理が増えるんだ。料理人たちはいつもそう。
 ここなら、壱臣いちおみも大丈夫な気がする。ここの人たちの着物はとても動きやすい作りになっていて、壱臣いちおみが苦手だっていう着物とちょっと違うように見える。

「すごく旨い。初めて食べたが、猪というのは美味しいものだな」
「お口に合って良かったです、緋色ひいろ殿下」
「こんなに旨いなら、退治した肉を売ったらいいんじゃないか」
「いや。まあ、それができたら万々歳なんですけど、退治するんも大変やし、いつ入荷するか分からんし、売るんは難しいですなあ」

 梅光うめみつが言って、緋色ひいろはすごく残念そうに、そうかって答えた。
 緋色ひいろ、すごく好きだったんだね、猪のお肉。俺も食べてみよう。
 おお。美味しい。すごく美味しい。噛めば噛むほど味が。味が……。うん。なくなってきたな?

成人なるひと。お前には少し硬い、ってもう口に入れてしまったか。飲み込めなければ、出せ」
「ん。んー」
成人なるひと殿下。お肉をもう少し小さくお切りしますんで、そちらを食べてみてください」

 俺の器にまだ入っていたお肉を取り箸で持ち上げた千代ちよが、大きなはさみで小さく切ってくれた。口の中のお肉は、残念だけどお皿に出させてもらう。

「ごめんね」
「いえ。少々噛み応えがありますよね。お伝えするのを忘れとりました」
「切ってくれてありがとう」
「どういたしまして」

 味噌を塗って焼いたおにぎりもすごく美味しくて、俺はまた、体の中からぽかぽかになった。

 
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