【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第十章 されど幸せな日々

75 それは強さにもなる  成人

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「さて。壱臣いちおみ殿が来たら半助はんすけはよい具合の加減ができん。終いだな。常陸丸ひたちまる、少し体を動かしていってはくれんか」
「へ? 俺?」

 抱き上げた亀吉かめきちがもぞもぞしているのを、よしよしとなだめていた常陸丸ひたちまるがびっくりした声をあげた。常陸丸ひたちまるの腕の中の亀吉が、びくっと体を揺らす。もうほとんど寝てるな、あれ。

常陸丸ひたちまるさん、若様は私が」
「おう。そうか」

 香月かづきの差し出した手に亀吉が移る。ううーん、って声はしたけど、亀吉の目は開かなかった。目をつぶったまま頭の位置を確かめた亀吉は、これこれって感じで体を完全に香月かづきに預けた。分かる。いつもの腕の中は居心地が良い。

香月かづき

 俺は小さな声で言った。

「お布団に寝かせてあげて」
「はい。ありがとうございます」

 亀吉を抱っこしたまま上手に頭を下げて、香月かづきがお城の方へ戻っていった。
 お昼ご飯の後で、真剣に厨房の様子をのぞいていた末良すえよしも、もう寝たかな。二人は、一番楽しいと思うものが全然違う。でも、仲良し。一緒におままごとをするし、剣舞の振り付けのまねっこもする。一緒に遊んだりお散歩したり、今みたいに別々の場所にいたりする。別々の場所にいると時々、すえーしは? とか、かめちちしゃまは? って聞いてきたりする。気になるんだね、離れていると。仲良し。俺も、力丸りきまると長く離れていると、力丸りきまる、今何してるかなって気になったりするのかな。
 んー。どうだろ? お仕事してるって分かってるからなあ。気にならないなあ、別に。
 
「お前も布団行くか?」
「行かないよ」

 やだなあ、緋色ひいろ。俺はもう、そんなに昼寝しないってば。

常陸丸ひたちまるの見てから戻る」

 はあ、と緋色ひいろはため息を吐いた。

「好きだな、こういうの」
「え?」
「お前は、亀吉と同じで鍛錬所が好きなんだな」
「……!」

 そうか。そうかも。
 鍛錬所の様子を見るの、俺、好きだ。亀吉と一緒。

「おお」
「なんだ。自分で気付いていなかったのか?」
「うん」
「そうか」

 緋色ひいろが笑う。
 緋色ひいろはいつだって、俺より俺のことを知っている。すごい。

「ふふ」
「なんだ?」
緋色ひいろのこと、好きだなあって」
「当たり前だろ」
「うん」

 ちょっとかたいこの腕の中が、俺の居場所。ちょうどよく収まると、背中をぽんぽんとされる。

「寝ないよ?」
「分かってる」
「あっちもこっちも甘ーい」
「伴侶に甘ーい」
「ええな、あれ」
「うん、ええなあ」

 ん? なになに? つごもりたち、なにー?

「あんなに大切なもんを作るんは、弱点になりはしませんか、荘重むらしげ殿?」
「そう習ったか?」
「俺の前任の叔父上は、独り身のままです」
「弱点にはなる。だが、守りたい思いが強さにもなる」

 大切なものを守るために、常陸丸ひたちまる半助はんすけも強くなった。緋色ひいろも。俺だって、あきらめてはいない。いざというときは、何としても緋色ひいろは守る。
 壱臣いちおみたちのように戦うことのできない人たちも、いろんな方法で大切な人を守ろうとしている。
 
「とんでもなく大切なもんも、あってええんか」

 ぽつりと呟いたつごもりはこの後、あっという間に常陸丸ひたちまるに吹っ飛ばされた。

「こんなん、無理。強すぎやろ」
「いや、つごもりさま。とてもお強いです」
「世辞はええ。あんたにも、大切な者がおるんか? あ、いや、そうか、緋色ひいろ殿下か」
「ああ。殿下はもちろん大切ですけど、殿下より大切な伴侶がいます」
「うわー。皇族より大事って言いきった。ええの、それ」
「もちろん。殿下公認です」
 
 はあ、とつごもりはため息を吐いた。

「なんか、頭も疲れてきた」
「ほどほどにね」
荘重むらしげ殿に言うたってください、成人なるひと殿下」

 つごもりと話している間に、他の三人がいっぺんに常陸丸ひたちまるに倒されていた。

「戻るぞ」

 緋色ひいろが俺を抱いたまま、すたすたと歩き出すした。
 わ、待って、緋色ひいろ
 まだ、じいやに、ほどほどにって伝えられてないよ?
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