【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
1,310 / 1,325
第十章 されど幸せな日々

101 立ち話では語り切らん  成人

しおりを挟む
 皆が、何だかしゅんとなった所へ、ぐうう、とじいじのお腹が大きな音を立てた。ああ、源さんに手加減できなかったのは、お腹が空いてたから、って事もあったのか。
 俺のお腹はあんまり鳴ったりしないし、俺の周りの人も、ご飯の時間にはご飯をしっかり食べているから、こんなに大きなお腹の音を聞くことは滅多にない。一緒に遊んでいて、力丸りきまるのお腹が鳴るのを聞いたことがあるくらい。
 すっごくお腹が空くと、こんなに大きな音が鳴るんだね。びっくり。

「あ。そやった。ご飯」

 壱臣いちおみが、その音を聞いて慌てている。

「はい。それでは!」

 乙羽おとわが、ぱんっと手を叩いた。

「それぞれ持ち場に戻りましょ。おじさま、三郎さん。いくら自分の家だからってなんの連絡もなく帰れば、すぐにご飯は出てこないものですのよ、普通は。今回は、たまたまお正月だからあるようですけれど」
「うむ。そのようじゃ、姫。面目ない」
「ご迷惑をおかけしました」

 じいじと三郎が、乙羽おとわに頭を下げる。

「はい、よろしい。でもね、自分のおうちなんだから、いつでも帰ってきていいのよ?」
「ははっ。もちろん、そうしよう。なあ、三郎?」
「はい。……はい、ありがたく。あ、その、」

 三郎は、源さんにもう一度頭を下げた。

「私に、こちらで任された仕事がある間は、御目に留まる場にあることをお許しください。なるべく、目につかんよう過ごす事を誓います」

 はあ、と源さんは項垂れる。

「言わんでええこともある。言わん方がええこともある、て孫に教えといてください、利胤としたねさま」

 三郎から目をそらしたまま、源さんはじいじに言った。

「わはは」

 じいじは、がしりと源さんの肩に手を回す。逃げられなかったね、源さん。

「それを決めるのは、当人のみ。違うか」

 じいじは、笑って言った。

「けど。聞かなんだら俺は。気付いとらん振りくらいはできました。腹が立っとっても、許せんくても、目をそらせた」
「それで良かった、と言えんのが、うちの孫の良いところでな。ええ子じゃろう?」
「それを! それを俺に聞きますか」
「まあまあ、落ち着け。まだまだうちの孫の良いところはたくさんある。立ち話では語り切らん。どうじゃ、ちと付き合わんか?」

 じいじは、源さんを捕まえていない方の手で、くいっとお酒を飲む仕草をする。
 なんか格好良いね、それ。

「……長いこと飲んでないんで、飲めるかどうか分かりません」
「え?」

 食堂へ行こうとしていた壱臣いちおみが、源さんの言葉に驚いて振り返った。

「源さん。お酒飲めるん?」
「昔は飲めた。今は、どのくらいいけるか分からん」
「ええー。飲んでるとこ見たことない。飲めんのかと思ってた。学校で、父ちゃんはお酒飲まん、って言うたら、そういう人は下戸げこって言うんやでって教えてもろて、源さんは下戸なんやって思ってた」
「誰が下戸や。ほんで、誰が父ちゃん、いや、まあ、それはええか。そんな金、うちには無かったやろ。どうしても酔いたくて飲んでみた料理酒は、ひどく不味かったしな」

 源さんは、顔を上げてどこか遠くを見た。

「ほな、二本作る。熱っついの二本作ってくる」
「兄上、手伝います」

 ばたばたと壱臣いちおみと三郎が厨房に行って、じいじは源さんを捕まえたまま食堂へ向かう。俺たちも食堂に付いていった。
 じいじがお酒を飲むのなら、朱音あかね殿下とはこの後俺の部屋で遊ぶか、って考えていたら、じいじががらりと戸を開けた先に、はいはいで近寄ってきていた朱音あかね殿下が見えた。

「おや! こんにちは! 可愛いのう!」

 一瞬固まった朱音あかね殿下は、じいじの後ろの俺の顔を見て、みるみる眉を下げた。

「ん? どうした? ほれ、抱っこしてやろう。じいじのとこへ来い」
「う、ううっ。うううー」
「ありゃ。こりゃいかん」
「うわぁあん!」

 うん。声が大きいんだよ、じいじ。
 
しおりを挟む
感想 2,500

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。

処理中です...