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番外編
ひとりぼっちになって気付くバカ(中)
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※side霧島
大晦日を現場のオッサン達との飲み会に費やして、いつの間にか年を越して、気が付けばもう朝に近い時刻になっていた。
「どんだけ年取っても、やってること変わんねーな、おい」
「……疲れた」
フラフラになりながらコウと部屋に戻って即効で寝た。体感では一瞬意識を失ったかどうかという感覚だったが、自分のスマホが鳴り出したからとりあえず確認する。
「んだよ、うるせーな……」
液晶にはニーナの文字。嬉しい気持ちと憎らしい気持ちが半々くらい。ともかく言いたいことがあるので電話に出る。
「こないだ俺からの電話ブチったくせによく掛けてこられたな、このバカ野郎が」
「淳平さん、これからみんなで一緒に初日の出見ましょうよ」
「は? バカか。いま俺らがどこいると思ってんだよ、ふざけんな。行かねーぞ」
どうやって茨城にいる俺らが千葉にいるお前らと一緒に……ちょっと待て。
「お前、今どこにいんだよ?」
「もうすぐ茨城の初日の出が見えるっていう海岸に着くとこっすね」
「……どうやって来た?」
「淳平さんの車で」
「お前なぁ!!」
「お母さんに車のキー借りて、小野さんに運転してもらってます。小野さんは酒飲んでないから問題ないっすよ」
「そういう話じゃねぇんだよ。お前は車乗んねぇから分かんねぇだろうけど、もし事故ったら小野さんが色々責任感じたり、つーかまだローン残ってるし、その車スタッドレスでもねぇし、危ねぇんだよ!!」
「大丈夫ですって~。じゃあ現在地送るんで。間に合うように来てくださいよー」
「てめーぜってぇ許さねぇからな! 今すぐ行くから殴られる覚悟して待ってろ! このバカが!」
電話を切って、苛立ち紛れに枕にスマホを投げ付ける。伝わらなさ過ぎて苛つく。何だあいつは。クッソが!!
「風呂、5分で入って交代な。すぐ出発するぞ」
キョトンとしているコウを放っておいて先にシャワーを浴びる。イライラし過ぎてコウに気を使う余裕もない。
急いで身支度をして、ホテルを出たのが6時20分だった。スマホのアプリでは目的地まで17分。日の出には間に合う。いや日の出なんてどうでもいいんだよ! そんなことよりこんな寝不足で朝っぱらから運転する羽目になったコウに謝るべきだ。
「お前、運転大丈夫か?」
「うん、平気。ちょっと寝たし、シャワー浴びたし、酒は抜けてるよ。まあ検問があったら終わりだろうけどね」
「ねーだろ。元旦から」
「逆にあるんじゃない? 俺らみたいなの取り締まるために」
「もし罰金食らったら、あのバカに払わす」
なんかあったら全部あのバカのせいだ。それとあのバカに甘いうちの母親が悪い。車なんて普通貸さねぇだろ、ふざけんな。なにが『いいじゃないの』だ! 一個も良くねぇよ!!
「つーかさ、お前の家族になんでそんな新見が気に入られてんの」
「知るかよ。母さんと姉ちゃんが尋常じゃないくらい可愛がっててさ。俺がいなくても俺ん家で平気でメシ食ったりしてるよ、あいつ。親父まで一緒になって可愛がってるしよー。あいつの茶碗とか箸まであんだよ。あとパジャマ。俺ん家の家系は遺伝子レベルでニーナを可愛いと思っちまうんじゃねーかと思うくらいだぜ」
つまり俺も可愛いと思ってんだよ。そうだよ、可愛いよ。めちゃくちゃ可愛いと思ってるよ。やることたまにくそうぜーのに、顔もちょいブサなのに、なんか知らねぇけど可愛いんだよ。
「で? 会ったら殴んの?」
「さあな。なんせ遺伝子レベルだからな。あいつの顔見たらそんな気も失せるかもしんねー。代わりにお前殴っといて」
「やだよ。めんどくさい」
「くっそ、まじでムカついてんのに……」
顔を見たらちょっと怒るくらいで済ませてしまうだろう自分が目に浮かぶ。それを分かってるからニーナも母親も『いいじゃないの』と思ってるんだろう。
「お前から見てニーナってどうよ?」
「……うざい?」
「だよな。それが普通の反応だ」
そう。うざいんだよ。でもそのうざさも俺にしたら可愛いんだ。意味分かんねぇ。
ナビアプリの通りの時間に海岸に着いた。他にもチラホラと車が停まっているが、自分の愛車はすぐに見つかった。コウに伝えて近くに停まってもらって降りて、愛車の横で馬鹿面をしているニーナの手首を掴んだ。
「ニーナ、ちょっと来い。小野さん、キーいいっすか」
ニーナの手首を掴んだ手と反対の手で、投げて渡された車のキーを受け取り、後部座席へ乗り込んだ。ヘラヘラ笑っているニーナの顔を見ると、やっぱり怒る気なんか失せてしまった。
久しぶりに会えて嬉しいという気持ちの方が圧倒的にでかい。不愉快で堪らないこのむずむずするどうしようもない感情が、恋をしているということなんだろう。
大晦日を現場のオッサン達との飲み会に費やして、いつの間にか年を越して、気が付けばもう朝に近い時刻になっていた。
「どんだけ年取っても、やってること変わんねーな、おい」
「……疲れた」
フラフラになりながらコウと部屋に戻って即効で寝た。体感では一瞬意識を失ったかどうかという感覚だったが、自分のスマホが鳴り出したからとりあえず確認する。
「んだよ、うるせーな……」
液晶にはニーナの文字。嬉しい気持ちと憎らしい気持ちが半々くらい。ともかく言いたいことがあるので電話に出る。
「こないだ俺からの電話ブチったくせによく掛けてこられたな、このバカ野郎が」
「淳平さん、これからみんなで一緒に初日の出見ましょうよ」
「は? バカか。いま俺らがどこいると思ってんだよ、ふざけんな。行かねーぞ」
どうやって茨城にいる俺らが千葉にいるお前らと一緒に……ちょっと待て。
「お前、今どこにいんだよ?」
「もうすぐ茨城の初日の出が見えるっていう海岸に着くとこっすね」
「……どうやって来た?」
「淳平さんの車で」
「お前なぁ!!」
「お母さんに車のキー借りて、小野さんに運転してもらってます。小野さんは酒飲んでないから問題ないっすよ」
「そういう話じゃねぇんだよ。お前は車乗んねぇから分かんねぇだろうけど、もし事故ったら小野さんが色々責任感じたり、つーかまだローン残ってるし、その車スタッドレスでもねぇし、危ねぇんだよ!!」
「大丈夫ですって~。じゃあ現在地送るんで。間に合うように来てくださいよー」
「てめーぜってぇ許さねぇからな! 今すぐ行くから殴られる覚悟して待ってろ! このバカが!」
電話を切って、苛立ち紛れに枕にスマホを投げ付ける。伝わらなさ過ぎて苛つく。何だあいつは。クッソが!!
「風呂、5分で入って交代な。すぐ出発するぞ」
キョトンとしているコウを放っておいて先にシャワーを浴びる。イライラし過ぎてコウに気を使う余裕もない。
急いで身支度をして、ホテルを出たのが6時20分だった。スマホのアプリでは目的地まで17分。日の出には間に合う。いや日の出なんてどうでもいいんだよ! そんなことよりこんな寝不足で朝っぱらから運転する羽目になったコウに謝るべきだ。
「お前、運転大丈夫か?」
「うん、平気。ちょっと寝たし、シャワー浴びたし、酒は抜けてるよ。まあ検問があったら終わりだろうけどね」
「ねーだろ。元旦から」
「逆にあるんじゃない? 俺らみたいなの取り締まるために」
「もし罰金食らったら、あのバカに払わす」
なんかあったら全部あのバカのせいだ。それとあのバカに甘いうちの母親が悪い。車なんて普通貸さねぇだろ、ふざけんな。なにが『いいじゃないの』だ! 一個も良くねぇよ!!
「つーかさ、お前の家族になんでそんな新見が気に入られてんの」
「知るかよ。母さんと姉ちゃんが尋常じゃないくらい可愛がっててさ。俺がいなくても俺ん家で平気でメシ食ったりしてるよ、あいつ。親父まで一緒になって可愛がってるしよー。あいつの茶碗とか箸まであんだよ。あとパジャマ。俺ん家の家系は遺伝子レベルでニーナを可愛いと思っちまうんじゃねーかと思うくらいだぜ」
つまり俺も可愛いと思ってんだよ。そうだよ、可愛いよ。めちゃくちゃ可愛いと思ってるよ。やることたまにくそうぜーのに、顔もちょいブサなのに、なんか知らねぇけど可愛いんだよ。
「で? 会ったら殴んの?」
「さあな。なんせ遺伝子レベルだからな。あいつの顔見たらそんな気も失せるかもしんねー。代わりにお前殴っといて」
「やだよ。めんどくさい」
「くっそ、まじでムカついてんのに……」
顔を見たらちょっと怒るくらいで済ませてしまうだろう自分が目に浮かぶ。それを分かってるからニーナも母親も『いいじゃないの』と思ってるんだろう。
「お前から見てニーナってどうよ?」
「……うざい?」
「だよな。それが普通の反応だ」
そう。うざいんだよ。でもそのうざさも俺にしたら可愛いんだ。意味分かんねぇ。
ナビアプリの通りの時間に海岸に着いた。他にもチラホラと車が停まっているが、自分の愛車はすぐに見つかった。コウに伝えて近くに停まってもらって降りて、愛車の横で馬鹿面をしているニーナの手首を掴んだ。
「ニーナ、ちょっと来い。小野さん、キーいいっすか」
ニーナの手首を掴んだ手と反対の手で、投げて渡された車のキーを受け取り、後部座席へ乗り込んだ。ヘラヘラ笑っているニーナの顔を見ると、やっぱり怒る気なんか失せてしまった。
久しぶりに会えて嬉しいという気持ちの方が圧倒的にでかい。不愉快で堪らないこのむずむずするどうしようもない感情が、恋をしているということなんだろう。
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