そばにいられるだけで十分だから僕の気持ちに気付かないでいて

千環

文字の大きさ
45 / 46
番外編

ひとりぼっちになって気付くバカ(後)

しおりを挟む
※side新見

 どうやら怒っているらしい淳平さんに後部座席に乗せられた。でも、俺は知っている。淳平さんは怒ったって優しいこと。

「お前な、事故なく来られたからよかったけど、なんかあったら大変なことになるんだぞ? 運転するってことは簡単そうに見えるかもしんねぇけど、危険なんだ。小野さん以外運転できる奴いねぇなら、今日はどっかで仮眠してもらってから帰れ。分かったな?」

「はーい、分かりました」

「返事だけいいんだよな、お前。くそ、バーカ!」

「だって俺、淳平さんに会いたかったし。研修とか言って置いてかれて寂しかったし、初日の出見るなら一緒がよかったんすもん」

「あー……もう、くそ。怒る気が失せた」

 しばらく項垂れていた淳平さんがまたこっちを向いた時には、もうその目から怒りの色は消えていて、いつもの優しい目に戻っていた。

「悪かったよ。何も言わなくて」

「うん、淳平さんが悪いすよ。俺に寂しい思いさせたから」

「俺がいないと寂しいの?」

「寂しい。めちゃくちゃ」

「なに、素直じゃね?」

 ねぇ淳平さん。俺、気付いちゃったんすよ。俺だけが淳平さんのことを独り占めしたいって思ってること。
 女の子と遊んだり、合コン行ったり、しないで欲しいって思ってること。そりゃちょっとは遊んでもいいけど、ホテル行ったりとかはやめてほしいし、俺んとこに帰ってきてほしいこと。
 俺だけを、可愛がってほしいこと。

「俺、淳平さんが好きみたいす」

「……は?」

「女の子と遊んでもいいから、俺んとこに帰って来てくんないすか?」

 淳平さんが何とも言えない顔をしている。しばらくして、片手で顔を隠して、考え込み始めた。

「ニーナぁ」

「なんすか」

「お前それ、まじで言ってる?」

「まじっすけど」

「俺けっこう重いけど、耐えれる?」

 重い? 淳平さんが? 軽すぎるくらい軽いじゃねぇか。

「ニーナが女の子と会っていいのは俺と一緒の合コンだけ。男でも二人きりは誰とどこに何しに行くか俺に言わないとだめ。週に三回は二人で会いたいし、連絡もこまめにしたい」

「え、待って」

「無理?」

「無理ってか……それって付き合うって感じってこと?」

「は?」

「待って待って」

「待つのはお前だろ。お前どういうつもりで好きとか言ったんだよ」

「俺は好きだから好きだっつったんすよ。でも淳平さんが付き合うとかありえねぇから」

 だって淳平さんだぞ? 特定の女の子作らねぇで取っ替え引っ替え遊びまくってるあの淳平さんが、俺と付き合う? なんで!?

「ありえねぇよ。まじでありえねぇくらいお前が可愛いし、お前を俺だけの物にできるんなら逃がさねぇ」

「ちょ、ちゃんと言ってよ。俺バカだから分かんねぇすよ」

「お前が好きだ」

 真剣な表情で俺の目を真っ直ぐに見て、ストレートな言葉でそう言った淳平さん。いや待て、かっこよすぎんだろ、ふざけんな。

「……淳平さんが俺に、そんな条件付けんなら、淳平さんだってそれ、守ってくれんの?」

「当たり前だろ。お前と会う時間のが大事だから合コン行く回数も減らすし、お前も連れてくし、お前しか持って帰らねぇ」

「合コン行かねぇとは言わないとこが淳平さんらしいすよ」

「イベント企画すんのも、騒ぐのも飲むのも好きだし……でももう女の子とホテル行ったりはしてない。女の子といてもお前のことばっか浮かぶからな」

「え、嘘だぁ」

「嘘じゃねぇよ。クリスマスイヴにデートなんかしてるお前と俺は違ぇの。どうせお前、俺のこと好きかもって思ったの昨日とか一昨日とかそんなだろ」

「な、んで分かったんすか」

「お前が隠し事なんかできる訳ねぇもん」

 ぐうの音も出ない。
 好きだって気付いたから、会いたいって思って、会えたから、好きだって言った。もう会ってしまったら、好きな気持ちがぶわーっと出ちゃったんだ。

「なぁ、もういい?」

「え、なにが?」

「キスしていい?」

 うぐっと喉が変な音を出して、恥ずかしさが爆発した。待って、まじで待って。かっこよすぎる。淳平さんのことはかっこいいってずっと思ってたけど、今日はもうかっこいいが突き抜けてる。どうしよ、やべぇ。

「ニーナ」

 俺を呼ぶ声が、初めて聞くような甘さを含んで……顔が熱い。やばい。まともに淳平さんのこと見れない。
 思わず下を向いて赤くなってるだろう顔を隠しす。すると、フッと鼻で笑うのが聞こえた。

「そんな可愛い反応すんな」

 うわやばい、かっこいいと思った瞬間。淳平さんの手が俺の頬に触れて、軽く上を向かされたと同時にキスされてた。
 チュ、と軽く触れて俺の顔を覗き込む淳平さんはどこか不安げで、俺が嫌がってないか確認してるみたいに見えて、なんかそれがめちゃくちゃ可愛く感じて、二回目は俺からキスをした。

「おいバカ。止まんねぇぞ?」

「止まんなくていいし。……もっと、いっぱぃんんっ!」

 いっぱいしたいって言いかけて、口を塞がれた。なんだよもう、かっこよすぎる。主導権が相手にあるキスは初めてだけどめちゃくちゃ良くて、角度が変わる時にうっすら目を開けて見たら眉間に皺寄せて俺を見てる淳平さんと目が合って、それがまたかっこよくて。まじ待って、好き。

「じゅ、んぺいさ……」

「……ん?」

 チュ、チュ、とキスされる合間に淳平さんを呼ぶとえぐいくらい優しい顔で俺を見るからもうほんとにまじでやばい。

「すき。淳平さんすき」

「あーくそ可愛い。なんなのお前、可愛すぎ」

「淳平さんはかっこよすぎ、好き。やばい」

 ギュー! って痛いくらいに抱き締められて幸せなんて、なんだこりゃ。

「もう、俺だけの淳平さんじゃないとやだ」

「そういうのが、めちゃくちゃ可愛いし嬉しいって思うくらいには俺もお前が好き」

「超好きじゃん」

 俺がそう言うと、鼻で笑って馬鹿にして、でも否定しないから、淳平さんは俺のことが超好きなんだろな。俺も、超好きだけど。
 付き合った記念日が元日だから、忘れなくていいなって思った。


end.
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

君の恋人

risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。 伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。 もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。 不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

【完結】好きな人の待ち受け画像は僕ではありませんでした

鳥居之イチ
BL
———————————————————— 受:久遠 酵汰《くおん こうた》 攻:金城 桜花《かねしろ おうか》 ———————————————————— あることがきっかけで好きな人である金城の待ち受け画像を見てしまった久遠。 その待ち受け画像は久遠ではなく、クラスの別の男子でした。 上北学園高等学校では、今SNSを中心に広がっているお呪いがある。 それは消しゴムに好きな人の前を書いて、使い切ると両想いになれるというお呪いの現代版。 お呪いのルールはたったの二つ。  ■待ち受けを好きな人の写真にして3ヶ月間好きな人にそのことをバレてはいけないこと。  ■待ち受けにする写真は自分しか持っていない写真であること。 つまりそれは、金城は久遠ではなく、そのクラスの別の男子のことが好きであることを意味していた。 久遠は落ち込むも、金城のためにできることを考えた結果、 金城が金城の待ち受けと付き合えるように、協力を持ちかけることになるが… ———————————————————— この作品は他サイトでも投稿しております。

【完結】初恋は檸檬の味 ―後輩と臆病な僕の、恋の記録―

夢鴉
BL
写真部の三年・春(はる)は、入学式の帰りに目を瞠るほどのイケメンに呼び止められた。 「好きです、先輩。俺と付き合ってください」 春の目の前に立ちはだかったのは、新入生――甘利檸檬。 一年生にして陸上部エースと騒がれている彼は、見た目良し、運動神経良し。誰もが降り向くモテ男。 「は? ……嫌だけど」 春の言葉に、甘利は茫然とする。 しかし、甘利は諦めた様子はなく、雨の日も、夏休みも、文化祭も、春を追いかけた。 「先輩、可愛いですね」 「俺を置いて修学旅行に行くんですか!?」 「俺、春先輩が好きです」 甘利の真っすぐな想いに、やがて春も惹かれて――。 ドタバタ×青春ラブコメ! 勉強以外はハイスペックな執着系後輩×ツンデレで恋に臆病な先輩の初恋記録。 ※ハートやお気に入り登録、ありがとうございます!本当に!すごく!励みになっています!! 感想等頂けましたら飛び上がって喜びます…!今後ともよろしくお願いいたします! ※すみません…!三十四話の順番がおかしくなっているのに今更気づきまして、9/30付けで修正を行いました…!読んでくださった方々、本当にすみません…!!  以前序話の下にいた三十四話と内容は同じですので、既に読んだよって方はそのままで大丈夫です! 飛んで読んでたよという方、本当に申し訳ございません…! ※お気に入り20超えありがとうございます……! ※お気に入り25超えありがとうございます!嬉しいです! ※完結まで応援、ありがとうございました!

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

幼馴染が「お願い」って言うから

尾高志咲/しさ
BL
高2の月宮蒼斗(つきみやあおと)は幼馴染に弱い。美形で何でもできる幼馴染、上橋清良(うえはしきよら)の「お願い」に弱い。 「…だからってこの真夏の暑いさなかに、ふっかふかのパンダの着ぐるみを着ろってのは無理じゃないか?」 里見高校着ぐるみ同好会にはメンバーが3人しかいない。2年生が二人、1年生が一人だ。商店街の夏祭りに参加直前、1年生が発熱して人気のパンダ役がいなくなってしまった。あせった同好会会長の清良は蒼斗にパンダの着ぐるみを着てほしいと泣きつく。清良の「お願い」にしぶしぶ頷いた蒼斗だったが…。 ★上橋清良(高2)×月宮蒼斗(高2) ☆同級生の幼馴染同士が部活(?)でわちゃわちゃしながら少しずつ近づいていきます。 ☆第1回青春×BL小説カップに参加。最終45位でした。応援していただきありがとうございました!

処理中です...