聖女の力を姉に譲渡し国を出て行った元聖女は実は賢者でした~隣国の後宮で自重せずに生きていこうと思います~

高井繭来

文字の大きさ
59 / 297

【51話】

しおりを挟む
 やっかいな大型犬に懐かれた気がする…。
 それがサイヒの感想だった。

(又会えるかと言っていたしな…つまりは又会いたいと言う事と思って間違いないだろう。それにしても泣くほど女嫌いとはアンドュアイスの過去に何があったんだ?その辺りを突き止めれば何か有利に働く事柄が見つかるかもしれん……)

 頭に浮かぶのはポロポロ涙を流すアンドゥアイスの顔。
 顔の造形は似ていないのに泣き方がルークによく似ていた。
 なので、敵だからと一蹴してしまう事が出来なくなった。
 
 それなりの罪の償いはさせねば、とは思うのだが。
 少しくらい温情をかけてやる余地はないかと、つい考えてしまう。

 もし今のサイヒの脳内をルークが覗くことが出来たなら、おそらくサイヒが見た事のない嫉妬に狂ったルークが見れた事だろう。

 【認識阻害】をかけているのでワンピース姿だが、誰にも咎められずに後宮に入ることが出来る。
 そのまま宦官用宿舎の自室へ帰る。

 ワンピースを脱いだら晒を巻き、着慣れた宦官用の服に着替える。

「すっかりコッチの方が着慣れてしまったな」

 そして香袋を取り出し懐にしまった。
 これでサイヒから香るのは香袋の匂いのみだろう。
 決してアンドゥアイスの匂いを消すためではない。

 もしアンドゥアイスの匂いを消すだけだったらサイヒは【消臭】の魔術を使う。
 アンドュアイスの匂いを誤魔化すためでなく、自らから出る血液の匂いを隠すためだ。

 コンコンコン

 何時もの時刻、軽いノックの音。
 ドアの向こうには愛おしい気配。

「おかえり、ルーク」

「ただいまサイヒ」

 ルークがサイヒを腕の中に閉じ込める。
 首筋に顔を埋めその香りを堪能しようとして。

「何時もの匂いじゃない…?たまに使う香の匂いだ……」

 ルークが首を捻った。

「あぁ、血の匂いを誤魔化したくてな」

「怪我をしているのかっ!?」

「そう定期的に怪我はせんよ」

 クスクスとサイヒが笑う。

「女特有の月の物だ」

「月の物……っ!?」

 サイヒの言葉の意味を理解してルークが少し赤くなる。

「何だ、私に月の物があるのは不自然か?これでも私も年頃の女だぞ」

「不自然…と言うか、しっくり来ない……」

「素直だな。まぁ私も今まで自分のこの現象が煩わしくて、何度機能停止させてやろうと思ったことか。だが今ではこの煩わしいのも腹が痛むのも悪くない。これのお陰でルークの子を宿せるからな」

「私の子?」

「私との間の子はいらないか?」

「いる!私はサイヒに似た男の子が欲しい!!」

「私はルークに似た女の子が欲しいな」

「では双子だな」

「ふふ、気の早い事だ。だがそれも悪くない」

 唇を合わせ【解毒】の法術を体内に流し込む。
 何度も角度を変えて口付ける。
 ルークもすっかり口付けの仕方を覚えたようで、最初の頃のように呼吸が困難になることはない。

「今日は私がサイヒに所有印を付けたい」

「ルークのしたい様に、好きに自分のモノだと言う証を付けるがいい」

 結局、ルークはサイヒの首筋に所有印を1つ付けるに終わった。
 脱がそうと思ったら、前に見たサイヒの裸体を思い出して男の生理現象が起きたので。
 今のサイヒにはそう言う行為は負担になる訳で。
 手を繋いでベッドで昼寝をするだけになった。

 :::

 モキュモキュとサイヒはビスコッティを頬張る。
 実に幸せそうである。
 今日も手作りの菓子にはルークの愛情がたっぷりだ。

 チラチラとルークの視線がサイヒに向けられる。

「旨いな」

 舌でペロリと唇を舐めるサイヒが無駄に色気を垂れ流す。
 初心な少女ならそれだけで腰を抜かしそうな色香だ。

(今日も格好良いですわお兄様!)

(((((サイヒ様が今日も男らしい!!)))))

 マロンと従者たちは大満足だ。

《クオン、誰にも聞かれたくない話がある。後で時間を融通してくれ》

 サイヒの【念話】がクオンの脳内に届いた。

《お前、今度は何をした…?》

 既にクオンが胃に手を当てている。
 キリキリと痛むのだろう。
 サイヒが時間を融通してくれと言う事は、ルークに聞かれたくないと言う事。
 
 基本サイヒはルークに隠し事はしない。
 もし何かあるとするならば、それはルークの嫉妬をかう内容であろう。

《今度は誰を誑し込んだ?》

《どうもアンドュアイスに懐かれた様だ》

《……………》

 クオンが従者に頼んでバスタオルを持って来て貰う。
 それを受け取り、顔を背けると。

 ゴフッ!

 真っ赤なバスタオルが出来上がった。
 綺麗な紅色だ。
 染め職人もうっとりとする見事な出来栄えの赤のバスタオルが出来た。
 ソレをモンラーンが無言で受け取り下がる。
 クオンはティーカップの液体を飲みほして、お代わりをマロンに頼んでいた。

 その1連の行動に驚かされる者はココに存在しない。
 ”また厄介事を思い出したのであろう”
 そんな認識だ。

 実際には厄介事は今持ち出された出来立てホヤホヤだ。

《今日の夜、俺の部屋で良いか?》

《では窓のカギは開けておいてくれ》

 素知らぬ顔で念話を交わす。
 今日の夜も吐血すること間違いないだろう。
 そうクオンは覚悟を決めた。
しおりを挟む
感想 1,137

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

お前のような地味な女は不要だと婚約破棄されたので、持て余していた聖女の力で隣国のクールな皇子様を救ったら、ベタ惚れされました

夏見ナイ
恋愛
伯爵令嬢リリアーナは、強大すぎる聖女の力を隠し「地味で無能」と虐げられてきた。婚約者の第二王子からも疎まれ、ついに夜会で「お前のような地味な女は不要だ!」と衆人の前で婚約破棄を突きつけられる。 全てを失い、あてもなく国を出た彼女が森で出会ったのは、邪悪な呪いに蝕まれ死にかけていた一人の美しい男性。彼こそが隣国エルミート帝国が誇る「氷の皇子」アシュレイだった。 持て余していた聖女の力で彼を救ったリリアーナは、「お前の力がいる」と帝国へ迎えられる。クールで無愛想なはずの皇子様が、なぜか私にだけは不器用な優しさを見せてきて、次第にその愛は甘く重い執着へと変わっていき……? これは、不要とされた令嬢が、最高の愛を見つけて世界で一番幸せになる物語。

処理中です...