聖女の力を姉に譲渡し国を出て行った元聖女は実は賢者でした~隣国の後宮で自重せずに生きていこうと思います~

高井繭来

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【閑話・小話詰め6】

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【小話7】

 バサリ
 バルコニーに通じる窓の扉が開いていて風がカーテンを揺らした。

「締め忘れたか?」

 誰か掃除をしたものが閉め忘れたのだろうと、ルークは窓を閉めるべく立ち上がった。
 空には三日月と星々が輝いている。

 そしてバルコニーには人影が。

 本来なら警戒するところだろう。
 だが無意識化で”大丈夫な相手”だと判断する。

「良い夜だなルーク」

「サイヒ……」

 月の光に照らされたサイヒは、性別を感じない美貌と相まって人では無い様だ。
 その美しさにルークは魅入られる。

「ルーク、おいで」

 サイヒがバルコニーから飛び降りた。
 ルークが慌てて下を覗き込むと、宙に浮かんだ絨毯に立っているサイヒの姿があった。

「手を」

 差し出されるサイヒの手をルークは取り、自身もバルコニーの手すりを越える。
 サイヒの腕の中に飛び込むと、ギュウ、と力強く抱きしめられた。

「さぁ、行こうか。私にしっかり摑まっていろ」

 サイヒの言葉に反応して絨毯が宙を駆ける。
 獣よりも鳥よりも速い。
 しかし風の抵抗は体に感じない。
 それもサイヒの魔術であるのだろうとルークには分かる。

 どんどん高度を上げて、雲の上まで突き抜けた。

「月が、星も…こんなに近い……」

 サイヒが絨毯に座るルークを背後から抱きしめ直す。
 寒い空の上でサイヒの体温はこの上なく心地良い。

「月が綺麗だな」

 囁くようにサイヒが言った。
 その意味をルークは理解していなかっただろう。
 だが返すその言葉は。

「サイヒとならこの瞬間に死んでも良い…」

 うっとりとルークが囁いた。

 クスクスとサイヒが笑う。
 首元で笑われてルークはくすぐったいと身をよじった。

「そうだな、私もルークとなら死んでも良いよ」

 サイヒの手がルークの頬に添えられて、顔が近づく。
 そして誰にも見られない空の上、2人の影が重なった。

 :::

「と言うのが夜空のデートの内容だ」

「お兄様!格好良すぎますわ!!」

「何でサイヒが笑ったのか分からなくて、神話時代のニホンと言う国の本を読んでみろと言われて色々読んでみたのだが”月が綺麗ですね”と”貴方となら死んでもいい”は”愛している”の意味らしい」

 ルークが頬をバラ色に染める。
 マロンがキャーと高い声を出して足をパタパタとした。

「お兄様が!お兄様が素敵過ぎます――――っ♡」

(((((サイヒ様、イケメン過ぎます!!!!)))))

 とある後宮の1宮での、夫婦の会話の様子であった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 謎時空。
 とりまルークがマロンにお菓子作りを教えて貰っている時の1コマ。
 夜の空のデートについて詳しく語ってみたの図。
 この2人、夫婦なんですぜ(;゚д゚)ゴクリ…マジカ?

 書いている最中に頭の中でディ〇ニーのア〇ジンの主題歌が流れていました(笑)



【小話8】

 いきなり頭を殴ってきた意味不明の女だった。
 マカロを抱いた後の気持ち悪さを払拭するため、裏通りの一日中やっている安酒場で浴びるようにアルコールを胃に流し込む。
 上と下、どちらが地面か分からなくなるくらいアルコールを摂取すると、少しだけ女の肉の感触と生ぬるい体温を忘れる事が出来た。

 その日は少々飲み過ぎたのだろう。
 裏街を出る手前で地面に座り込んで薄汚い建物の壁に背を預ける。
 もう後半刻もしない内に城に帰らなくてはならないのに。
 体が動かない。

「アンタ、大丈夫か?」

 頭上から落ち着いたアルトの声がかけられた。
 相手を見るために顔を上げる。
 まだ若い少女だ。

 黒髪に翠の瞳。
 美しい顔に魅力的であろう肉体だが、それが余計にアンドュアイスの気分を害する。


「私に触るな女っ!」

「うっさいっ!!」

 ゴスッ!

 少女の拳がアンドュアイスの脳天に落ちた。

「!?!?!?」

 頭を押さえ驚いた顔でアンドュアイスは少女を見上げる。
 こんな反応をされたのは初めてだ。

「アルコール臭い、酒の飲み過ぎか。とっとと治すからアンタは城に帰れ」

 体がふわりと軽くなる。
 頭の奥で疼いていた痛みも治っている。

「ほら、治したぞ。とっとと消えろ」

「褒美は欲しくないのか?」

「別に金に困っていない」

「私に抱かれたいとは思わないのか?」

「本命以外には欲情せん性質だ」

「私を美しいとは思わないのか?」

「お綺麗な顔をしていると思うが、それが何か問題でもあるのか?」

 涙が溢れ出て来た。
 この少女は自分を欲の対象として見ていない。
 こんな事は初めてだった。
 裏のない優しさに心の中の何かが決壊した。

 少女はアンドュアイスの体を抱きしめ、空いている手でアンドュアイスの頭を撫でる。

「何か良くは分からないが、アンタがそんなに泣くほどの事があったのは可哀想と思う。なく子供は心音を聞かせて撫でるに限る」

「気持ち悪く…ない……女の体なのに?」

「何だアンタ女が嫌いなのか?」

「嫌いだ女など!気持ち悪い!触れられたくない!甘ったるい声も匂いも全て嫌いだ!!」

「そうか、辛かったのだな…」

「辛かった…逃げ出したかった……でも許されなかった……」

「頑張ったのだな。偉かったな」

「ふっ…うっぅ………」

 その後、アンドュアイスが泣き止む迄10分、少女はアンドュアイスを抱きしめてくれた。

「落ち着いたようだな。それでは私はもう行く。時間が押しているんでいるんでな」

「其方、名前は何と言うのだ?また、会えるのか!?」

「フワーラだ。会えるかどうかは時の運だな」

 そして少女は行ってしまった。
 女なのに女の匂いがしない少女。
 偉かったと、頑張ったと言ってくれた。
 あの少女にもう1度会いたいと思った。
 
 なのに髪の色も瞳の色も、美しい貌をしてしていたことも、均整の取れた肉体をしていたことも覚えている。
 それなのに少女の顔をよく思い出せない。

「何故だ…何故思い出せない……フワーラ、君にもう1度会いたいのに……」

 どうすれば又会えるか分からない。
 その日からアンドュアイスは裏街でフワーラを待つ。
 もう1度会えることを信じて。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 健気大型犬…。
 アンド兄さんから見たサイヒでした。
 アンド兄さんはクオンと違って胃が丈夫。
 いっぱいお酒飲めるよ!!
 それにしても牛妃、殆どの登場人物から嫌われているんじゃないかΣ(・ω・ノ)ノ!?
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