聖女の力を姉に譲渡し国を出て行った元聖女は実は賢者でした~隣国の後宮で自重せずに生きていこうと思います~

高井繭来

文字の大きさ
61 / 297

【52話】

しおりを挟む
「で、説明して貰おうか。何でそんな訳の分からない事になったんだ?」

 現在、深夜1時。
 場所、クオンの自室。
 怒っている人、クオン。
 怒られている人、サイヒ。

 そんな光景だ。

 王宮にあるクオンの自室にサイヒは【空間転移】でやって来た。
 何時に来るかも言われていなかったので、クオンは待った。
 窓の鍵を開けておけと言った癖に、部屋の中に突如現れるとは何事か。
 来るなら普通は窓からだろう。

 いや、クオンの自室は王宮内の3階にあるので窓から来るのは普通ではないが。
 窓の鍵を開けた意味は何だったのか…。

「いや、この前の夜にバルコニーからルークを連れだしたのでな。ルークに秘密裏に来るなら自室に直接【空間転移】の方が良いと判断した。窓からだと部屋の近いルークに気付かれかねない」

 確かにサイヒの気配に敏感なルークに気付かれかねない危険がある。
 こんな遅い時間になったのもそのせいだろう。
 だからと言って。

「着替え中に侵入者が突然現れた俺の身になれ」

「ソレはすまんかったと正直思っている」

 あんまりにサイヒが遅いのでクオンは寝着に着替える途中だった。
 マロンより先に素肌を見てしまって悪かったな、とサイヒは場違いな事を考えている。
 取り合えずパンツを着替えている所で無くて良かった。
 いくらクオンでも流石に生まれたままの姿をサイヒに晒したくない。
 いや、サイヒに限らずパンツを履き替える瞬間など誰にも見られたくない。

「深夜に年頃の美少女が訪問したのだぞ。もう少し喜んでくれても良いだろう?」

「お前の顔の造形が常識を逸して端整なのは認めるが、俺はお前を美少女とは認めん。美は認めても少女は認めん。普通の少女は女を誑かさん」

「いや、私は意識して誑かしたつもりは無いぞ?そして顔の造形が整っている年頃の女なのだから美少女で良いだろうが」

「美少女と言うのはマロン様の様な可憐な方を言うのだ」

「へぇ、ふ~ん」

「何をニヤニヤしてる?」

「マロン妃からマロン様になった訳だ」

「お前もう帰るか?」

「親友が冷たい」

「お前と親友になった覚えはない。100歩譲って同盟者だ」

 親友になってはいないが仲間意識はあるらしい。
 だが女扱いはするつもりは無い様だ。
 しかし胃痛の原因に仲間意識を持てるクオンの許容量の底の深さは計り知れない。

 まぁそんな訳で今サイヒは絨毯の上に正座させられている。
 クオンはそんなサイヒの前に立って怒っている。
 そして冒頭のセリフに至る。

「いや、ちょっと用事があって街に出てな、気分の悪そうな者がいたので声をかけたらアンドュアイスだった」

「それで何故懐かれる?」

「声をかけたら暴言を吐かれたのでな…」

「それで?」

「脳天を殴った」

「は、はぁぁ?」

「で、酔い過ぎの様だから【解毒】の法術で回復してやってだな」

「あ、あぁ」

「礼を聞かれたので全て断ったら泣かれた」

「意味が分からん!?」

「いや、私もなんでソレで泣くのか意味は分からなかったんだが。泣いてるものを捨ておけ無いだろう?だから慰めたら懐かれたらしく”また会いたい”的なニュアンスの言葉を言われた」

「少し待て」

 クオンがソファに用意してあったバスタオルを手に取り。

 ゴフッ

 手慣れた動作で吐血した。
 白いバスタオルが紅白になっている。
 実に縁起が良いバスタオルが仕上がった。

「お前も飲むか?」

 ソファに座りポーションをティーカップに注ぎクオンが口を付ける。
 マロン特性の【胃痛用増血効果促進ティーポーション】をクオンは喉の奥に流す。
 ほぅ、と溜息をつく。
 どうやら胃痛が引いたらしい。
 素晴らしき愛の力だ。

「いや、普通の茶を貰いたい」

「茶を淹れる習慣は無い」

 と言う事は、このティーセットはティーポーションを飲むためだけにあるらしい。
 何と言うか、不憫だ…。
 仕方ないのでサイヒは勝手に水差しの水をグラスに注いで口を濡らす。
 ついでにシレッとソファに座る。
 正座は足が地味に痛い。

「で、俺に相談と言う事はルーク様に隠してアンドュアイスと又会いたいと言う事だな?」

「鋭いな」

「お前がルーク様至上主義なのは知っているつもりだ。一見ルーク様がお前に執着している様だが、お前がルーク様を溺愛しているのは見ていれば分かる。
そんなお前が俺に相談すると言う事は、ルーク様を悲しませたくないと言う事だろう?俺はお前を信用はしていないが信頼はしている」

「クオン、やはり私たちは親友で良いのではないか?」

「お断りだ」

「冷たいな、だがお前の言う通りだ。アンドュアイスと接点を持ちたい。あの子は意外と悪い子では無いんじゃないかと思うのだよ」

「王位継承権第2位をあの子呼ばわりか…お前相当アンドュアイスに気を許していないか?」

「仕方無いだろう?あの子は何処かルークに似ている所がある。無下に放っておけん。それにあの子にはまだ何かある気がする」

「どうやって近づくつもりだ?」

「多分出会った場所で待っていると思う」

「根拠は?」

「勘だ」

 勘とは随分あやふやなモノに頼っていると思うだろう。
 だがサイヒの勘は自分に係わる事なら予知レベルなのだと、出会って割とすぐに聞かされた。
 そのサイヒがアンドュアイスに何かがある気がするから又会いたいと言うのだ。
 ならその勘を信じてみるのも1つの手だろう。

「適当にルーク様に用事を入れる。出来るだけ早く仕事を終わらせろ」

「協力感謝する。ところでやっぱり私とお前は親友で良くないか?」

「100歩譲って協力者止まりだ…まぁ200歩譲るなら悪友に格上げしてやる」

「私にココまで冷たいのはお前くらいだな。だからこそ面白いのだが。100歩譲って友人に格上げして貰えるよう頑張ろう」

 ニヤリと笑ってサイヒは【空間転移】で帰って行った。

「親友などと言ったらルーク様が又厄介だろうが…」

 小さな呟きがポツリと静かな部屋に響いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ルークとマロンがサイヒを中心に仲が良い様に、サイヒとクオンもルークを中心に仲が良いって事なのです。
 親友に拘るサイヒと親友とは認めないクオン。
 ほっこり4人組でいるとカースト最底辺に見えて、クオンはサイヒには意外と強く出れる珍しい人物です。
 だからこそサイヒもクオンがお気に入りなんですけどね(*´▽`*)

 次回からアンド兄さんを中心に据えてのお話になって行きそうです。
しおりを挟む
感想 1,137

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

処理中です...