聖女の力を姉に譲渡し国を出て行った元聖女は実は賢者でした~隣国の後宮で自重せずに生きていこうと思います~

高井繭来

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【77話】

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 ポン、とハンコが押された。
 室内の音が静まり返り。

「これで最後だ」

 サイヒの言葉を皮切りにワァッ、と歓喜の声が上がった。

 辛く長い戦いであった。
 4ヵ月飲まず食わず寝ずの仕事。
 サイヒの神術によりエネルギー補給と体力と清潔は保たれていたが、人間(天人だが)と言うのは休息の時間が欲しいモノなのだ。
 ソレをサイヒは「神力でエナジーチャージするから排泄の時間も仕事に回せて一石二鳥だ」などと鬼畜な言葉を吐き捨てた。

 ”化け物の貴方と一緒にしないで頂きたい!”

 ソレが執務室で働く文官たちの心の叫びだった。
 だがトップが同じ状況で仕事をしているのだ。
 文句など言えるはずもない。

 其処に救世主は現れた。
 
 全能神サイヒの伴侶とその部下とその伴侶。
 魔王と人間が天界で何が出来ると最初は思ったが、彼らの投入で仕事の流れが変わった。

 思わず目を背けてしまう濃厚なキスシーンを毎日執務室でするのはどうかと思うが、魔王との接触を媒介にしてトップの仕事の効率は5倍上がった。
 ついでに機嫌が良くなり、少し優しくなった。
 休憩の許可が下りたのだ。

 皆歓喜の涙を流した。

 魔王は大変優秀だった。
 サイヒに負けないスピードで書類を捌く。
 流石は半身。
 何なら職務の速さは同位だが、丁寧さにおいては魔王の方が上かも知れない。
 王太子として仕事をしていたのは伊達ではない。
 有能過ぎる助っ人の参戦に文官たちは両手を上げて喜びたいレベルだった。
 この時点でルークが魔王と言う事実は文官たちの間で、どうでも良くなった。

 そして魔王の部下は目端まで物事が見れる優秀な補佐であった。
 魔王の部下ークオンはとにかく仕事の効率を上げる、見えない仕事が早い。
 天人たちは彼を心から歓迎した。

 そして。
 そしてクオンの伴侶(まだ式は上げていないが)は女神であった。
 いや、人間だが、彼女ーマロンを表すのにこれ以上の言葉は思いつかない。

 疲れた時にそっ、と差し出される湯気の立つカップ。
 執務室全員の好みを覚えており、皆違う茶が違う温度で運ばれてくるのだ。
 更に美味しい。
 砂糖を溶かす時間さえ惜しい文官たちの為に、それぞれの好みの甘さにまで調節してくれている。
 そしてソーサーに添えられた2つのクッキー。
 素朴で優しい味ががする。

 この持成しに誰もが本気で涙した。

 可憐な少女から与えられる安らぎ…。
 プライスレス。

 さらに食事の用意迄してくれる。
 大体2人1組で食事と仮眠の休憩を取ることが出来る。
 この辺りはクオンの采配で、留まってはいけない仕事をしているものが減らないようにペアを組んでいるらしい。
 その日によってペアが違う。
 1日の仕事の流れを見てペアを組みかえているらしい。
 全くもって優秀な補佐である。

 そして温かく美味しい食事。
 胃に負担のかからないものが多い。
 主にシチューなどの煮込み料理がよく振舞われる。
 パンも軽い食感で焼きたてのふわふわパンだ。
 これも主菜に良く合う。

 飲み物はこの時はさっぱりしたアイスティーが出されることが多い。
 甘い紅茶が疲れを吹き飛ばす。
 レモンとミルクとストレート。
 その日飲みたいものがスッ、と出されるのだ。
 何と言う才能か。
 
 きっとマロンはこの事を知った料理長からスカウトが来るだろう。
 是非、仕事が終わってもマロンの食事を味わいたい。
 皆、すっかり胃袋を掴まれた状態である。

 そして仮眠の時間。
 1人6時間。
 眠れる。
 夢を見る。
 こんな当たり前のことがこんなに幸せな事だったとは…。

 天人たちは涙した。

 有難う、魔王様とお供の方々。
 皆で土下座して拝みたいレベルで仕事の環境が改善された。
 このまま天界に残ってくれないモノか?
 今や全能神サイヒの直属の部下の文官たちは心からそう願っている。

 サイヒがトップではいつかストライキが起きる。
 いや、全能神に逆らえる者など居ないから実際には起きないが。
 ストライキを起こしたいレベルで職場がブラックだ。

 未来の王妃としても教育を受けていたサイヒは、書類仕事も難なくこなす。
 半端ない体力とメンタルに有能な頭脳。
 自分が出来る事は他の者も出来ると思っている。
 天才に良くあるタイプだ。
 誰かサイヒと同レベルの、下の者の能力を把握した補佐が居ないと、天界の文官は潰れてしまうだろう。

 潰れても神術で直されてまた働かされるのだろうが…。
 ブラックを通り越してカオスだ。

 頼むから魔王様とお供の方よ、私たちを捨てないでくれ!

 文官たちは心から願った。
 そして倒れる様に皆がデスクに頭を置いて睡眠に入った。
 取り合えず休憩させてくれ。

 それを起こすほどサイヒも鬼では無かった。

 さぁ、文官たちの望むべく魔王とお供は天界に残ってくれるのか?
 それはおそらくサイヒ次第であろう。

 倒れた文官を放っておいて、サイヒはルークたちを己に与えられた部屋へと招くのだった。

 ようやくサイヒが全能神をしている謎が明かされようとしていた……。
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