171 / 297
そして全能神は愉快犯となった
【148話】
しおりを挟む
「リリーさまぁー♡」
セツナは走った。
広場に出れば、空色の髪に翡翠の瞳を持つ大好きな美少年が居たからだ。
「おぉセツナ、無事だったか?」
セツナの声に振り向いた美少年は柔らかな笑みを浮かべる。
「はぁん♡」
「おぉぅ♡」
「ふぁん♡」
その笑みと甘いアルトの声だけで周囲の者たちの腰が抜けた。
腰以外が抜けた者もいるだろう。
ナニがとは言わないが…。
だがセツナはその胸に飛び込まんと勢いをさらにつけて走った。
「ぐぇっ!」
蛙が踏みつぶされたような声をセツナは出した。
襟で首が締まっている。
宙ぶらりんの恰好でセツナはリリーに駆け寄るべく足をバタバタとさせた。
「だえ、じゃましゅるのっ!?」
首が締まっているのに本当に強い子である。
いや、強すぎる。
セツナは5歳児なのだ。
恐ろしい目にあい、戦い抜いた疲れた体と心で、まだ恋の力でリリーに向かおうとするのだから。
だが自分を持ち上げている人物を見てセツナはたちまち借りてきた猫になった。
ブルブルと体を震わせて手足を縮こまらせる。
顔も真っ青である。
先ほどまで大の大人の群れと1人で戦っていた幼児が、である。
「せ、せんせー……」
「リリーさんに、何をしようとしたのかな、セツナ?」
夜の闇に染められたような黒髪。
エメラルドの瞳。
柔和な顔立ちは美の神にも愛されるだろう。
優し気な顔立ちなのに、その体躯はしっかりと鍛えられていてまた長身でもある。
「「「「「「「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ♡♡♡」」」」」」」」」」
その青年を見てその場にいた女性、いや、性別が女である者は皆黄色い悲鳴を上げた。
夫にしたいランキングNO3のドラジュ・フワーラがそこに居たからだ。
奇しくもここに、夫にしたいランキングTOP3が揃ったのである。
美形の博覧会だ。
だがセツナには自分を持ち上げている「せんせー」の存在に身を竦ませている。
ガタガタと体を震わせてマナーモードになりながら。
こうしてみるとセツナも年相応の幼児である。
怖いものは怖い。
セツナにとってドラジュは恐怖な対象であって、決して黄色い悲鳴を上げる存在ではない。
セツナにとっては断末魔の悲鳴をあげる対象だ。
何時も容赦なく鍛えてくれる「せんせー」
笑顔で容赦なく煽ってくる「せんせー」
泣くセツナに「痛みがあるのは生きてる証だよ」と回復法術も特訓が終わるまで許してくれない「せんせー」
そうドラジュはセツナの体術の先生なのだ。
そして最大の恐怖対象である。
そのドラジュが怒っている。
何に怒っているのか?
セツナは分かっている。
リリーに抱き着こうとしたことだ。
そう、セツナは知っている。
自分の先生が「マザコン」であることを。
たとえ幼児が相手でも愛する母親の胸は貸さない。
父親にも威嚇するほど「マザコン」なのだ。
唯一ドラジュが母親以外に心を許すのは古代種と呼ばれている女性にだけである。
「セツナは、りりーさまにだきつこうとしてないです」
「ですよね」
「セツナは、とらえられているみなをたすけようとしただけです」
「ですよね」
ニコニコ笑う美形の男が怖い。
セツナはもう涙目である。
「せんせー」が怖くて堪らない。
「苛めるなドラジュ、ふふ、頑張ったなセツナ」
セツナの甘栗色の頭をリリーの綺麗な手が撫ぜる。
「ふわぁぁぁぁリリーさまぁぁぁぁぁあ♡」
プシュー、と頭から湯気を出してセツナが茹蛸の様に真っ赤になった。
5歳と言えど乙女は乙女。
好きな相手に撫でられて心がときめかない筈が無い。
「リリーさん、甘やかさないで下さいよ」
「マロンとお前が厳しすぎるから何処かで甘やかしてやらんと可哀そうだろう?」
リリーは知らない。
リリーが甘やかすからドラジュが厳しいことに。
マロンは母親として厳しいだけだが、ドラジュのそれは嫉妬からも来ている。
「僕が5歳のころは貴方はもう大人と接する態度でしたよ?」
「お前達は子供の癖に大人びていたからなぁ、甘やかす間もなかった。何だ、甘やかして欲しいのか?」
「もう良いですよ。今僕が甘やかして欲しいのも甘やかせたいのもユラさんだけですから」
「ふふ、ほらお前はもう大人だ」
「ほわぁ~リリーしゃまぁ~♡」
ドラジュとリリーの2ショットに女性陣が黄色い悲鳴を上げている中、セツナはドラジュの小脇に抱えられて恍惚の表情で意識を飛ばしていた。
クオンが遠目で死んだ目でそれを見ていたが、仕事ができる男はそんな時でも周囲に指示を出しやるべき事をこなすのだった。
胃も痛いが心も痛い、娘を持つ父親はどんな時でも仕事ができる不憫だが有能な男だったのだ。
魔王の副官に幸あれ………。
セツナは走った。
広場に出れば、空色の髪に翡翠の瞳を持つ大好きな美少年が居たからだ。
「おぉセツナ、無事だったか?」
セツナの声に振り向いた美少年は柔らかな笑みを浮かべる。
「はぁん♡」
「おぉぅ♡」
「ふぁん♡」
その笑みと甘いアルトの声だけで周囲の者たちの腰が抜けた。
腰以外が抜けた者もいるだろう。
ナニがとは言わないが…。
だがセツナはその胸に飛び込まんと勢いをさらにつけて走った。
「ぐぇっ!」
蛙が踏みつぶされたような声をセツナは出した。
襟で首が締まっている。
宙ぶらりんの恰好でセツナはリリーに駆け寄るべく足をバタバタとさせた。
「だえ、じゃましゅるのっ!?」
首が締まっているのに本当に強い子である。
いや、強すぎる。
セツナは5歳児なのだ。
恐ろしい目にあい、戦い抜いた疲れた体と心で、まだ恋の力でリリーに向かおうとするのだから。
だが自分を持ち上げている人物を見てセツナはたちまち借りてきた猫になった。
ブルブルと体を震わせて手足を縮こまらせる。
顔も真っ青である。
先ほどまで大の大人の群れと1人で戦っていた幼児が、である。
「せ、せんせー……」
「リリーさんに、何をしようとしたのかな、セツナ?」
夜の闇に染められたような黒髪。
エメラルドの瞳。
柔和な顔立ちは美の神にも愛されるだろう。
優し気な顔立ちなのに、その体躯はしっかりと鍛えられていてまた長身でもある。
「「「「「「「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ♡♡♡」」」」」」」」」」
その青年を見てその場にいた女性、いや、性別が女である者は皆黄色い悲鳴を上げた。
夫にしたいランキングNO3のドラジュ・フワーラがそこに居たからだ。
奇しくもここに、夫にしたいランキングTOP3が揃ったのである。
美形の博覧会だ。
だがセツナには自分を持ち上げている「せんせー」の存在に身を竦ませている。
ガタガタと体を震わせてマナーモードになりながら。
こうしてみるとセツナも年相応の幼児である。
怖いものは怖い。
セツナにとってドラジュは恐怖な対象であって、決して黄色い悲鳴を上げる存在ではない。
セツナにとっては断末魔の悲鳴をあげる対象だ。
何時も容赦なく鍛えてくれる「せんせー」
笑顔で容赦なく煽ってくる「せんせー」
泣くセツナに「痛みがあるのは生きてる証だよ」と回復法術も特訓が終わるまで許してくれない「せんせー」
そうドラジュはセツナの体術の先生なのだ。
そして最大の恐怖対象である。
そのドラジュが怒っている。
何に怒っているのか?
セツナは分かっている。
リリーに抱き着こうとしたことだ。
そう、セツナは知っている。
自分の先生が「マザコン」であることを。
たとえ幼児が相手でも愛する母親の胸は貸さない。
父親にも威嚇するほど「マザコン」なのだ。
唯一ドラジュが母親以外に心を許すのは古代種と呼ばれている女性にだけである。
「セツナは、りりーさまにだきつこうとしてないです」
「ですよね」
「セツナは、とらえられているみなをたすけようとしただけです」
「ですよね」
ニコニコ笑う美形の男が怖い。
セツナはもう涙目である。
「せんせー」が怖くて堪らない。
「苛めるなドラジュ、ふふ、頑張ったなセツナ」
セツナの甘栗色の頭をリリーの綺麗な手が撫ぜる。
「ふわぁぁぁぁリリーさまぁぁぁぁぁあ♡」
プシュー、と頭から湯気を出してセツナが茹蛸の様に真っ赤になった。
5歳と言えど乙女は乙女。
好きな相手に撫でられて心がときめかない筈が無い。
「リリーさん、甘やかさないで下さいよ」
「マロンとお前が厳しすぎるから何処かで甘やかしてやらんと可哀そうだろう?」
リリーは知らない。
リリーが甘やかすからドラジュが厳しいことに。
マロンは母親として厳しいだけだが、ドラジュのそれは嫉妬からも来ている。
「僕が5歳のころは貴方はもう大人と接する態度でしたよ?」
「お前達は子供の癖に大人びていたからなぁ、甘やかす間もなかった。何だ、甘やかして欲しいのか?」
「もう良いですよ。今僕が甘やかして欲しいのも甘やかせたいのもユラさんだけですから」
「ふふ、ほらお前はもう大人だ」
「ほわぁ~リリーしゃまぁ~♡」
ドラジュとリリーの2ショットに女性陣が黄色い悲鳴を上げている中、セツナはドラジュの小脇に抱えられて恍惚の表情で意識を飛ばしていた。
クオンが遠目で死んだ目でそれを見ていたが、仕事ができる男はそんな時でも周囲に指示を出しやるべき事をこなすのだった。
胃も痛いが心も痛い、娘を持つ父親はどんな時でも仕事ができる不憫だが有能な男だったのだ。
魔王の副官に幸あれ………。
2
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
お前のような地味な女は不要だと婚約破棄されたので、持て余していた聖女の力で隣国のクールな皇子様を救ったら、ベタ惚れされました
夏見ナイ
恋愛
伯爵令嬢リリアーナは、強大すぎる聖女の力を隠し「地味で無能」と虐げられてきた。婚約者の第二王子からも疎まれ、ついに夜会で「お前のような地味な女は不要だ!」と衆人の前で婚約破棄を突きつけられる。
全てを失い、あてもなく国を出た彼女が森で出会ったのは、邪悪な呪いに蝕まれ死にかけていた一人の美しい男性。彼こそが隣国エルミート帝国が誇る「氷の皇子」アシュレイだった。
持て余していた聖女の力で彼を救ったリリアーナは、「お前の力がいる」と帝国へ迎えられる。クールで無愛想なはずの皇子様が、なぜか私にだけは不器用な優しさを見せてきて、次第にその愛は甘く重い執着へと変わっていき……?
これは、不要とされた令嬢が、最高の愛を見つけて世界で一番幸せになる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる