聖女の力を姉に譲渡し国を出て行った元聖女は実は賢者でした~隣国の後宮で自重せずに生きていこうと思います~

高井繭来

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2章

【197話】

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 それは些細な変化であった。
 ルークの地上に降りる回数が多くなった。
 しかもサイヒを連れだってではなく個人でだ。

 また妻を喜ばせるためにサプライズでも考えているのだろう。

 周囲のモノはそう思った。
 それ程にルークはサイヒを愛している。
 いや最早それは執着に近い。
 その執着と独占欲をサイヒが気に入っているので問題が起こらないだけだ。
 サイヒ相手でなかったら、とうにヤンデレ街道を突き進んでいたことだろう。
 監禁ぐらいなら簡単にやってのける。
 手足位なら簡単に切り落としてしまう。
 自分しか見れないよう、誰にも知られない牢獄で思い人を囲う。
 それをしかねないくらいにはルークは病んでいる。

 いや、病んでいると言うのは天界や地上の者の尺度で測るからそう思うだけだ。

 魔王としてならそれは当たり前な愛の行動だ。
 執着も独占欲も魔王のモノだ思うと納得が出来る。
 ソレを可愛いやつと受け取るサイヒが規格外なのである。

 そのルークが地上に降りて何をしているのか?

 副官のクオンですら知らない。
 サイヒに何かしたい時はルークはクオンに相談することが多かった。
 それが今回は無い。
 
 これが「親離れか」とクオンは若干落ち込み気味である。
 毎夜妻のマロンが励ましてあげているみたいだが、マロンの存在無くてはクオンは真っ白になって燃え尽きていただろう。
 それくらいにルークの「親離れ」はクオンにはショックだった。

 だが仕事をしてから行くので誰も止める事はしない。
 止める権利もない。
 特にサイヒが何も言わないので気に留めていないのだ。

 愉快犯な全能神に振り回されているが、何だかんだ言って天界の皆は我らが全能神が大好きなのである。

 だから気付かなかった。
 少しずつ綻び始めている事に。
 誰も気付かなかった。
 ただ1人を置いて。

「ルーク、地上での逢引きは楽しいか?」

 その夜、サイヒが寝ているベッドにルークが入ろうとした直前にサイヒがそう声をかけた。

「逢引き?何のことだ?」

「とぼけるな、その程度の魔術で残り香を消せると思ったかルーク?私はコレでも全能神なのだぞ?」

「残り、香………?」

「お前が何かは知らないが、私の半身に忌まわしい臭いをつけてくれたな。とっとと私のルークから出ていけ、この雑魚が」

『あ”あ”?だれが雑魚だってぇ?』

「出て行かないなら力づくで引き離す」

『本当にするのか?もうコレの魂の1部は我と同化しているぞ?遅かったな全能神、気付くのがあまりにも遅すぎたな全能神!お前なんてその程度のものだ!アハハハアハハハハハハハハハハッ!!!』

「ルークの身体で耳障りな音を出さないで貰おうか?」

 ズンッ!

 サイヒの手がルークの鳩尾に埋まる。

『え”っ!?』

「全知全能とは何でもできるからそう呼ばれるのだよ」

 ズリュリュリュリュリュリュリュッ!!!

『あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ!!!!!!!!!!』

 ズルリ、とサイヒの腕がルークから抜ける。
 その手には黒い靄が掴まれていた。
 ルークの身体にも服にも穴は無く、血の1滴も漏れてはいなかった。

「さて、私のルークの中に入っていたと思うと怒りで今すぐにも滅ぼしたいところだが、お前には色々聞きたいことがある。自死は許さんぞ」

『殺せ!私を殺せ!あの方の怒りを買う位なら、ここで死ぬ方がまだマシだ!!!』

 黒い靄が叫ぶ。
 その靄に顔を近づけて、耳と思われる辺りにサイヒは誘惑するような甘い声で囁いた。

「あの方はそんなに怖いか?だが、私があの方とやより怖いとは思いつかなかったのか?」

 クスクスとサイヒが笑う。
 その艶美な笑い。
 恐怖が無ければ魂の全てを投げ出して、その笑みを見るだけに地獄を見る事も厭わないであろう美しすぎる笑顔。
 だが黒い靄は、その奥に込められたサイヒの”番の身体を奪おうとしたモノへの怒り”を瞳の奥に見て、その恐怖にいっそ気が狂いたいと思った。

 黒い靄は悟った。

 恐れる相手が違った。
 膝をつく相手が違った。
 服従する相手が違った。

「さぁ、お話をしようか。あぁ、ルークはここでゆっくり寝ているのだぞ。すぐに戻る、お前の隣は私のモノなのだから」

 蕩けるように甘い声でルークに話しかけ、サイヒはルークをベッドへ寝かせた。
 そして黒い靄を手にしたまま空間異動で、誰にも気取られない閉鎖空間へと移動した。
 勿論寝室には結界をかけて。

 だからサイヒにも想像できなかったのだ。
 
 サイヒが戻った時、ルークは寝室から姿を消していた。
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