聖女の力を姉に譲渡し国を出て行った元聖女は実は賢者でした~隣国の後宮で自重せずに生きていこうと思います~

高井繭来

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2章

【210話】

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 白いシーツの上に雪の化身のような青年が素肌で寝ていた。
 白い肌は雪そのもののよう。
 髪はダイヤモンドダストのような白銀。
 髪と同じ色の長い睫毛が縁取る双眸は今は伏せられているが、その瞼が開くとこの世の宝石でも何よりも美しいであろう星の輝きを反射したような輝くエメラルドが覗く。
 シンメトリーの整った顔。
 細いがしなやかな筋肉が付いた肢体。
 それは男も女も魅惑する。

 その存在は、そこに居るだけで圧倒的な存在感を誇る魔界の悪魔の王。

 魔王。

 魔界の誰もがその心臓を捧げる存在。

 その魔王がここ数日寝室に籠り切りでずっと寝ている。
 悪魔には特に睡眠や食事をしなくても問題ないので別に特別困るわけでは無い。
 ただ王座に魔王が座っていないと悪魔の士気が落ちるのだ。

 悪魔たちは魔王が地上に攻め入る事を宣言することを求めている。
 だが今回の魔王は強者でありながら、戦う事に興味が無い。

 必要ないが楽しみのために生きた者の命を絶ち、命を食むことを好まない。
 また清らかな乙女を犯すことも興味が無い。
 まぁそこいらの乙女より魔王の方がよほど魅力的ではあるので、後者は魔王の目に適うものが居ないのだろうと悪魔たちは思っている。

 それでも懲りない悪魔は居るもので。
 己に自信のある悪魔は魔王の褥係を立候補する。
 シーツの上で頭が弾けるのが関の山だと言うのに、淫魔の一族などは立候補者が後を絶たない。
 サキュバスが褥に忍び込むだけでも問題なのに、魔王の美しさに中てられたインキュバスまでが褥に忍び込もうとするから大問題だ。
 その度血塗れのシーツを洗濯するものの立場にもなって欲しいものだ。

 そして魔王が3日前に出かけ、帰って来てから寝室に籠っているのだ。
 服を脱いでベッドの上に置いてその上に覆いかぶさる形で魔王は眠る。
 そうすれば抱きしめた時に服に移った残り香が魔王の鼻孔を擽る。
 白い絹のハンカチーフを取り出す。
 コレは特に必要だ。
 緑で葉の刺繍がしてある。
 そのハンカチーフから薫る香の何と甘美な事か。

 リリィ・オブ・ザ・ヴァリーの香りに包まれている時だけは魔王は熟睡できるのだ。

 余計な声は聞こえない。
 『人間を殺せ』と誰かが語りかけて来るが、魔王にはそんな気はない。
 必要ない。
 魔王が欲しいのはリリィ・オブ・ザ・ヴァリーだけだ。

 香りを嗅ぐ。

 誰かが笑っているのを瞼の裏に思い出す。
 綺麗な綺麗な、愛しい誰か。
 リリィ・オブ・ザ・ヴァリーにそっくりな、だが色が違う誰か。
 その人物に抱きしめられるのが好きだった気がする。
 抱きしめて歌ってくれていた気がする。

 その人は誰だっただろうか?

 魔王はうつらうつらと意識を落としたり浮上させたりしながら、今度はリリィ・オブ・ザ・ヴァリーに子守歌を強請ってみようと思うのであった。
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