男として育てられた公爵家の令嬢は聖女の侍女として第2の人生を歩み始めましたー友人経由で何故か帝国の王子にアプローチされておりますー

高井繭来

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 遂にこの日が来た。
 【同化】の術を見た時からこの日が来るのはすぐだと無意識に気付いていた。

「ルーシュ、僕の全勝だね」

 野原に大の字で転がっているルーシュを覗き込み、アンドュアイスが無邪気に笑った。
 金色の髪が、月の光に照らされて自ら光を放っているかのようだった。
 フワリと風になびく金糸が美しいとうっとりとルーシュは目を奪われる。
 細められた碧眼は空に全く星を宿したように愉悦の光を宿していた。

(あ~綺麗だな、ちくしょ~……)

 胸がバクバクとやたらと脈打つのは先程迄激しい動きをしていたからだけでは無いだろう。
 ルーシュはもう自覚している。
 こうなる日が来る、と無意識で思った時から。
 早くこうなれば良いと無意識に望んでいた。

 真夜中に草原で刃を交えるのは何度になるだろう。
 知り合ってからずっとやっているからかなりの回数だろう。
 出会ってそんなに立っていないのに、濃密な時間を過ごしてせいで、ルーシュはアンドュアイスをひどく強い繋がりがあるように感じてしまう。

 最初は実戦慣れしてるルーシュも食らいついていた。
 それでも5本に1本取れればいい方だった。
 だんだん打ち合いの勝率が下がっていき、遂には1本も取れなくなってしまった。

 無邪気な笑顔も胸を熱くさせるが、打ち合っている時の真剣な目も胸の鼓動を早くさせる。

 負けたら引き返せないと何処かで感じていた。
 だから負ける訳にはいかなかったのに、アンドュアイスの伸びしろはルーシュよりも大きく、ルーシュよりも遙か高みの力をその身に宿した。

 アンドュアイスが自分より弱ければ、この感情は『保護欲』と誤魔化せたかもしれないが、今や自分より遙かに強い強いアンドュアイスへ惹かれる理由に『保護欲』を使うのは何かが違うとルーシュは思う。
 
 もう認めるしかない。
 ルーシュ・サウザント・ドラゴニアはアンドュアイス・システル・ガフティラベルに恋をしている。

 こうして打ち合いをしているがアンドュアイスは本来ルーシュが気兼ねなく付き合える身分のものでは無い。

 年齢だって離れている。 
 ルーシュにとってコレが初めての恋だったが、アンドュアイスは幾ら女性嫌いとは言っても全く何も無かった訳は無いだろう。
 出なければあんな女を溺れさす色香を放てるわけがない。
 アンドュアイスは自分より10歳も年上の大人の男で、帝国の王位継承権第2位なのだ。
 いまや平民でしかないルーシュとは立場が違う。

 ルーシュが女らしくないからアンドュアイスはルーシュに心を許した。
 ルーシュが戦えるから打ち合いを望んだ。

 アンドュアイスにとってルーシュは気の許せる、自分を高めるのに都合の良い相手に他ならない。

 そしてアンドュアイスがルーシュより強くなった以上、これからこの打ち合いは意味を持たない。
 ルーシュの初恋は、ルーシュの胸の中で芽吹いて、誰にも知られることのないまま枯れていく運命なのだ。

(好きになんて、ならなければ良かった……)

 涙が溢れそうになる。
 奥歯を噛み瞼を瞑り、グッと涙が零れそうなのを堪える。

「ルーシュ、僕ね、帝国の皇帝になるよ」

 寝転ぶルーシュの横に腰を下ろしたアンドュアイスが声を出した。

「ルーク様は!?」

 アンドュアイスの王位継承権は第2位。
 ルークが居ては皇帝にはなれない。
 だがアンドュアイスはルークを蹴落として権力が欲しい訳ではないのは見て居れば分かる。

「ルークはね、サイヒと一緒に居るから。サイヒとず――っと長い時間一緒に居るから人間の皇帝にはならないんだって。だからね、ルークが帝国から安心して出て行けるよう、僕が立派な皇帝になるよ」

「そう、ですか…」

 それは別れを意味していた。
 皇帝になるなら子孫を残すために妻を娶らなくてはいけない。
 女嫌いだから、では通じないだろう。

「だからね、お嫁さんが必要なんだ」

「そうでしょうね……」

(泣くな泣くな泣くな泣くな!笑え!!)

「アンドュアイス様なら良いお方が――――」

「だから、僕のお嫁さんになって、ルーシュ」

 綺麗な碧の眼がルーシュの稲穂色の瞳を射抜いた。

「え?」

「ルーシュはまだ成人じゃないから結婚できないけど婚約位できるよね?3年後、ルーシュが成人したら、僕のお嫁さんになって?ダメ?」

 コテリ、と首を傾げる。
 その幼い仕草が何故か似合っていて好きだと思う。
 少し舌足らずな本来の喋り方が好きだと思う。
 キラキラと好奇心に満ちた子供のようなまなざしが好きだと思う。

「私は、平民で…他国の人間です……それに美しくない………」

「平民とか他国とか関係ないよ。僕がルーシュを好きだからお嫁さんにしたいの。ソレにルーシュは自分で思ってるよりずっと可愛いよ?きっと大人になったらもっとずっと綺麗にもなる。だから今のうちに予約しておくんだ」

 えへへ、とアンドュアイスがはにかむ。

 あぁその仕種が愛おしい。

「私、で、良いんですか!?」

「ルーシュじゃないと、嫌だ」

 囚われた。
 金の髪の碧の眼を持った真夏の空の化身のような男に、逃げようも無いくらいに囚われた。
 もう、ルーシュはこれ以降こんな激しい恋など出来ない。
 それくらい真剣で美しいアンドュアイスの瞳がルーシュを捉えて離さない。

「私も、嫌です……」

「お嫁さんになるの嫌?」

「私じゃない誰かが、アンドュアイス様の妻になるのが嫌です……」

 ルーシュの双眸から涙が伝う。
 ぽたりぽたり、と草原の土を湿らす。

「僕も、ルーシュが僕以外のお嫁さんになったら嫌だよ」

 アンドュアイスの端整な顔がルーシュへ近づき、チュッ、と目尻の涙をした先で舐め取る。

「アンドュアイス様、恥ずかしい、です……」

「ふふ、照れてるルーシュも可愛いね」

 チュッ、チュッ、とアンドュアイスの唇がリップ音立てて涙を掬い取る。

「唇は、まだ予約にしておくね。ルーシュはまだ15歳だからね」

「こんな時だけ子ども扱いするんですか?」

 プン、とルーシュが頬を膨らます。

「うん、そのかわり大人になったらいっぱい愛させて?」

「そ、それは、いきなりハードなのは恥ずかしいので徐々にでで、お願いします……」

「うん、徐々に、ね」

 ニコリとアンドュアイスが笑う。
 先程とは違う大人の男の笑みだ。

「あんまり、他の女の人に好きになられないで下さいね……」

「うん、頑張る」

 ルーシュが微笑んだ。
 今日初めてのルーシュの笑みであった。

 ルーシュを巡って、フレイムアーチャの王女とアンドュアイスが争奪戦を繰り広げる事になるのは、また別の話しである。
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