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21.父親
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「娘は昔から素直な子でね。多少頑固なところもあったが、ああやって私に逆らったのは初めてだ。君の影響なのかな」
サミュエルは最初の意気を霧散させ、肩から力が抜けている。
「リーナは殿下やあなたに認めてもらえるよう努力をしていました。私が初めて彼女に会ったのは迷宮です」
「なんだって?」
「リーナは護衛を一人連れて迷宮へ挑み、ゴブリンを相手に命を落としかけていたんです」
「そのような危険なことを!」
サミュエルは報告を受けていなかったらしい。
ローレンは自己保身の強い男だから、自分が咎められそうなことは報告していなかったんだろう。護衛が主人を危険に晒すなんて本末転倒だからな。
「リーナに無茶をさせたのはあなた方です。殿下の婚約者という重圧を押しつけながら、話を聞こうともしていなかった。責任の一端は閣下にもあるのでは?」
「忙しかっただけで、私なりに娘との対話を……っ!」
「私が偶然居合わせなければ、閣下は墓前で娘と再会していてもおかしくなかった。あなたがどう考えていたかは関係ありません。追い詰められたリーナは迷宮へ向かい、魔物を相手に命を落としかけた。それが全てです」
頑なに非を認めようとしない公爵に対し、思わず強い言葉を使ってしまった。
俺を怒鳴りつけようとしていた公爵だったが、俯いて自分の顔を覆った。
「確かに……君の言うとおりだ。娘を死地に追いやったのは他ならぬ私達だ。殿下との婚約を推し進める一方で、ローレンに報告を任せ、娘との対話は怠っていた。アシル君、迷宮の件以外にも、君が知っていることがあれば教えてほしい。私は何も知らなかったようだ」
「分かりました。私が見聞きしたことをお話します」
俺はリーナとレオンの会話の一部始終を伝えた。
命懸けで迷宮に挑んだリーナを無駄な努力をする馬鹿だと詰り、どんなに努力してもミーシャが正妃であることは揺るがないと伝え、リーナが辞退したところで別の女が送られてくるだから構わないと開き直っていたことを伝えた。
最後に金髪に染めれば後宮に入れてやると言って帰っていったことを伝えると、サミュエルは怒りのあまりテーブルを殴りつけた。
「あの小僧……!!!!!」
「申し訳ありません。もう少し言葉を選ぶべきでした」
「いや、構わないとも。むしろあのクソガキの本性を知れてよかった。私の前では殊勝な態度を取っておきながら、娘をここまでコケにしていたとは……!」
サミュエルが立ち上がる。
「私は不甲斐ない父親だ。娘の窮状に耳を貸さず、追い詰めてしまっていた。婚約は白紙にしよう。私から陛下に直接伝える」
「よろしいのですか?」
「リーナは十分すぎるくらいこの国の為に頑張ってくれた。そんなリーナが幸せになることに反対する者がいたら、私が全身全霊を以って叩きのめしてやる。次の婚約者は娘自身に選ばせよう」
毅然とした態度で語ったあと、公爵は俺に向かって深々と頭を下げた。
俺はさすがに面食らってしまった。
「君が私の過ちを指摘してくれなければ、最愛の娘を不幸にするところだった。罪を自覚することさえできなかっただろう。本当に、本当にありがとう」
公爵は娘に自分の考える幸福を押しつけようとしていた。だが、自分の過ちに気づき、それを認める器量はあったようだ。
「王家には厳重に抗議せねばな。サヴァール家の血筋を侮辱し、何よりリーナの心を痛めつけた殿下には、相応の罰を下してもらわなければ」
話がひと段落したところで、公爵は颯爽と部屋を出ていこうとした。
「あの、閣下。私にはリーナの他にも大切な女性がいます」
「……何?」
サミュエルが憤怒に燃えた眼で俺を睨んでいる。
怖ろしかったが、黙ったままでいるのはアンフェアだ。
「リーナ嬢と知り合う前に買った女性です。今は奴隷の身分ですが、いずれ妻にするつもりです」
「君は馬鹿正直だな。それで、リーナと妾の娘、どちらが大事だと言うんだね?」
「両方です。かけがえのない女性達です。私の命よりも大事に思っています」
「鐘はならんか。当然、娘も知っているんだな?」
俺は頷いた。サミュエルは「よっぽどだな」と苦笑した。
「君に魅力がありすぎたのか、王子があまりにろくでなしだったのか。あるいは両方か」
「すぐに許していただけるとは考えていません。ただ、私は2人とも幸せにするつもりです」
「欲深いな。親のひいき目を抜きにしても、リーナほど器量の良い娘はそういないだろう。その上で、もう一人欲しいのか」
「はい」
俺の返事に彼は呆れた。
「認めたくはない。だが、娘が選んだというなら無下にはできん。保留にさせてくれ。その娘の名はなんという」
「エレナ・コカールです」
「コカールというと、アムラン男爵の娘か」
「ご存知だったのですか?」
「まあな。敵には回したくない男だ」
と、話していたところで扉が開いた。
見ると、エレナに捕まったリーナが連れ戻されたところだった。
「お嬢様は気分が優れず休まれていましたが、戻られるそうです」
「あ、ああ、そうか。娘を連れ戻してくれてありがとう」
半泣きのエレナがフラフラの状態で戻ってくる。
一体何があったんだ。
公爵がこっそり耳打ちしてきた。
「彼女がエレナだな?」
「はい、そうです」
「娘があんなに近い距離感でいるのを初めて見た。もしかして、友人同士だったりするのかね?」
どんな質問だ? と思いつつ、質問には答える。
「2人は友人関係ですね」
「そうか! 娘に友人が……」
リーナ、ずっとボッチだったからな。
父親的には娘に友人ができて嬉しいらしかった。
好々爺のように笑顔を見せている。
「アシル君、しっかり2人のことを守るんだぞ」
「あの、お父様? いったい何が……」
リーナは状況について行けず困惑している。
「アシル君と話して、自分の不甲斐なさに気づいたんだ。もう殿下との婚約を押しつけることはしない。だから、自分自身で相手を選びなさい」
「いいのですか!?」
パッと表情を明るくしたリーナにサミュエルが苦笑する。
「リーナなら間違いのない相手を選んでくれるだろう」
「私はアシル様と幸せになります!」
「そうか。それがリーナの選んだ道なら、もう何も言うまい」
「閣下、さっきまで保留にすると……」
「オホン! あー、アシル君、こういう時は素直に喜ぶものだ。空気を読みたまえ」
娘を溺愛している一面があると判明した公爵は、「何かあれば私を頼りなさい」と言って娘の額にキスを落としたあと、颯爽と去っていった。
「お父様にあんな一面があったなんて……」
リーナは唖然としている。
「それにしても、どんな魔法を使ったんですか? お父様とあんなに打ち解けるなんて。殿下との婚約破棄の件だって、あんなに前向きに考えてくれるとは思いませんでした」
「あの方も娘の幸せを考える一人の父親だった。それだけのことだよ」
「ありがとうございます。エレナさんも私を連れ戻してくれて」
「気にしないでよ。リーナを泣かせるようなら私からもかましてやろうと思っただけだから」
「ふふ、2人とも心強いです」
それにしても、公爵家を激怒させた王子はどういう罰を受けるんだろう。
一人息子ということで甘やかされて育った王子は、父親から怒られたことがないらしい。自分に厳しくする者は遠ざける傾向にあるらしく、ミーシャとかいう令嬢に入れ込んだのも、彼女が甘やかしてくれるタイプだったからだと聞いた。
(リーナは本当にいい女なのにな)
見る目がない男というのはいるものだ。
サミュエルは最初の意気を霧散させ、肩から力が抜けている。
「リーナは殿下やあなたに認めてもらえるよう努力をしていました。私が初めて彼女に会ったのは迷宮です」
「なんだって?」
「リーナは護衛を一人連れて迷宮へ挑み、ゴブリンを相手に命を落としかけていたんです」
「そのような危険なことを!」
サミュエルは報告を受けていなかったらしい。
ローレンは自己保身の強い男だから、自分が咎められそうなことは報告していなかったんだろう。護衛が主人を危険に晒すなんて本末転倒だからな。
「リーナに無茶をさせたのはあなた方です。殿下の婚約者という重圧を押しつけながら、話を聞こうともしていなかった。責任の一端は閣下にもあるのでは?」
「忙しかっただけで、私なりに娘との対話を……っ!」
「私が偶然居合わせなければ、閣下は墓前で娘と再会していてもおかしくなかった。あなたがどう考えていたかは関係ありません。追い詰められたリーナは迷宮へ向かい、魔物を相手に命を落としかけた。それが全てです」
頑なに非を認めようとしない公爵に対し、思わず強い言葉を使ってしまった。
俺を怒鳴りつけようとしていた公爵だったが、俯いて自分の顔を覆った。
「確かに……君の言うとおりだ。娘を死地に追いやったのは他ならぬ私達だ。殿下との婚約を推し進める一方で、ローレンに報告を任せ、娘との対話は怠っていた。アシル君、迷宮の件以外にも、君が知っていることがあれば教えてほしい。私は何も知らなかったようだ」
「分かりました。私が見聞きしたことをお話します」
俺はリーナとレオンの会話の一部始終を伝えた。
命懸けで迷宮に挑んだリーナを無駄な努力をする馬鹿だと詰り、どんなに努力してもミーシャが正妃であることは揺るがないと伝え、リーナが辞退したところで別の女が送られてくるだから構わないと開き直っていたことを伝えた。
最後に金髪に染めれば後宮に入れてやると言って帰っていったことを伝えると、サミュエルは怒りのあまりテーブルを殴りつけた。
「あの小僧……!!!!!」
「申し訳ありません。もう少し言葉を選ぶべきでした」
「いや、構わないとも。むしろあのクソガキの本性を知れてよかった。私の前では殊勝な態度を取っておきながら、娘をここまでコケにしていたとは……!」
サミュエルが立ち上がる。
「私は不甲斐ない父親だ。娘の窮状に耳を貸さず、追い詰めてしまっていた。婚約は白紙にしよう。私から陛下に直接伝える」
「よろしいのですか?」
「リーナは十分すぎるくらいこの国の為に頑張ってくれた。そんなリーナが幸せになることに反対する者がいたら、私が全身全霊を以って叩きのめしてやる。次の婚約者は娘自身に選ばせよう」
毅然とした態度で語ったあと、公爵は俺に向かって深々と頭を下げた。
俺はさすがに面食らってしまった。
「君が私の過ちを指摘してくれなければ、最愛の娘を不幸にするところだった。罪を自覚することさえできなかっただろう。本当に、本当にありがとう」
公爵は娘に自分の考える幸福を押しつけようとしていた。だが、自分の過ちに気づき、それを認める器量はあったようだ。
「王家には厳重に抗議せねばな。サヴァール家の血筋を侮辱し、何よりリーナの心を痛めつけた殿下には、相応の罰を下してもらわなければ」
話がひと段落したところで、公爵は颯爽と部屋を出ていこうとした。
「あの、閣下。私にはリーナの他にも大切な女性がいます」
「……何?」
サミュエルが憤怒に燃えた眼で俺を睨んでいる。
怖ろしかったが、黙ったままでいるのはアンフェアだ。
「リーナ嬢と知り合う前に買った女性です。今は奴隷の身分ですが、いずれ妻にするつもりです」
「君は馬鹿正直だな。それで、リーナと妾の娘、どちらが大事だと言うんだね?」
「両方です。かけがえのない女性達です。私の命よりも大事に思っています」
「鐘はならんか。当然、娘も知っているんだな?」
俺は頷いた。サミュエルは「よっぽどだな」と苦笑した。
「君に魅力がありすぎたのか、王子があまりにろくでなしだったのか。あるいは両方か」
「すぐに許していただけるとは考えていません。ただ、私は2人とも幸せにするつもりです」
「欲深いな。親のひいき目を抜きにしても、リーナほど器量の良い娘はそういないだろう。その上で、もう一人欲しいのか」
「はい」
俺の返事に彼は呆れた。
「認めたくはない。だが、娘が選んだというなら無下にはできん。保留にさせてくれ。その娘の名はなんという」
「エレナ・コカールです」
「コカールというと、アムラン男爵の娘か」
「ご存知だったのですか?」
「まあな。敵には回したくない男だ」
と、話していたところで扉が開いた。
見ると、エレナに捕まったリーナが連れ戻されたところだった。
「お嬢様は気分が優れず休まれていましたが、戻られるそうです」
「あ、ああ、そうか。娘を連れ戻してくれてありがとう」
半泣きのエレナがフラフラの状態で戻ってくる。
一体何があったんだ。
公爵がこっそり耳打ちしてきた。
「彼女がエレナだな?」
「はい、そうです」
「娘があんなに近い距離感でいるのを初めて見た。もしかして、友人同士だったりするのかね?」
どんな質問だ? と思いつつ、質問には答える。
「2人は友人関係ですね」
「そうか! 娘に友人が……」
リーナ、ずっとボッチだったからな。
父親的には娘に友人ができて嬉しいらしかった。
好々爺のように笑顔を見せている。
「アシル君、しっかり2人のことを守るんだぞ」
「あの、お父様? いったい何が……」
リーナは状況について行けず困惑している。
「アシル君と話して、自分の不甲斐なさに気づいたんだ。もう殿下との婚約を押しつけることはしない。だから、自分自身で相手を選びなさい」
「いいのですか!?」
パッと表情を明るくしたリーナにサミュエルが苦笑する。
「リーナなら間違いのない相手を選んでくれるだろう」
「私はアシル様と幸せになります!」
「そうか。それがリーナの選んだ道なら、もう何も言うまい」
「閣下、さっきまで保留にすると……」
「オホン! あー、アシル君、こういう時は素直に喜ぶものだ。空気を読みたまえ」
娘を溺愛している一面があると判明した公爵は、「何かあれば私を頼りなさい」と言って娘の額にキスを落としたあと、颯爽と去っていった。
「お父様にあんな一面があったなんて……」
リーナは唖然としている。
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「あの方も娘の幸せを考える一人の父親だった。それだけのことだよ」
「ありがとうございます。エレナさんも私を連れ戻してくれて」
「気にしないでよ。リーナを泣かせるようなら私からもかましてやろうと思っただけだから」
「ふふ、2人とも心強いです」
それにしても、公爵家を激怒させた王子はどういう罰を受けるんだろう。
一人息子ということで甘やかされて育った王子は、父親から怒られたことがないらしい。自分に厳しくする者は遠ざける傾向にあるらしく、ミーシャとかいう令嬢に入れ込んだのも、彼女が甘やかしてくれるタイプだったからだと聞いた。
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