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イシャロット帝国一行が部屋を出て行った後のお話。
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イシャロット帝国一行が部屋を出て行った後。
双子の皇女たちもまた、逃げ出すように部屋を出て行った。
向かった先は、季節の色とりどりの花が咲き乱れる、王城ご自慢の庭園。
その東屋にて、皇女たちは腰を下ろした。
「ね、姉様、ずいぶんとはっきりとおっしゃいましたのね?」
「あ、あなただって、ノリノリだったじゃない!」
二人は恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤にしてテーブルに突っ伏していた。
いくら頭にきていたとはいえ、まだ告白さえしていなかったのに……。
多くの人がいる前で堂々と、アレクシスとフェリクスを「未来の夫たち」と宣言してしまったのだ。
「まさか、二人は気がついたかしら?」
「どうかしら? 二人とも、その辺りは鈍そうですし……。」
「そうよね、そういうところ、叔父様によく似ているわ。」
「男の人はみな、鈍いのですわ。きっと……」
皇女たちは頬をテーブルに貼り付けたまま、父である皇帝の弟――叔父コンラッドのことを思い出した。
両親である皇帝と皇妃は、とても仲睦まじいというのに……。
失態を犯した叔父の根性をたたき直すのだと、張り切りすぎた結果。
両親は、今年二歳になる弟まで授かったほどだった。
弟を皇太子にし、皇女たちは皇位継承権を放棄した。
これで、安心して彼らの元へ嫁ぐことができると、皇女たちが喜んだのは言うまでも無い。
だが叔父に関しては。
いくら二十歳で死んでしまう可能性があったとはいえ、言ってはいけない一言を口にするなんて。
自分たちがもし、アレクシスやフェリクスからそんな言葉を聞いてしまったら……。
「わたくし、生きていけませんわ……。」
「わたくしもです……。」
不意に、胸の奥がきゅっと痛んだ。
もし、断られたらどうしよう……。
そう。
皇女たちはまだ、アレクシスとフェリクスの気持ちを知らなかったのだ。
「皇女だから結婚するというのは、嫌ですわ。」
「ちゃんと、私たちのことを好きでなければ、嫌ですわ。」
二人の目に、涙がたまり始める。
そんな時であった。
背後で、砂利を踏むかすかな音がした。
「ちゃんと好きですよ。」
「だから、泣かないでください。」
不意に後ろから、聞き覚えのある声がした。
振り返ると、そこには顔を真っ赤にしたアレクシスとフェリクスが立っていた。
「アレクシス……」
「フェリクス……」
突然の二人の出現に、皇女たちは驚きのあまり、涙が引っ込んだ。
アレクシスとフェリクスは皇女たちの前へ歩み寄り、それぞれ片膝を立てて腰を下ろした。
そして、それぞれが皇女たちの手を取ると……。
アレクシスは、エリシアに。
フェリクスは、ルシアに。
それぞれの手の甲に、軽いキスを落とした。
「学院を卒業したら、迎えに行きますね。」
「だからそれまで、待っていていただけますか?」
まっすぐな瞳でそう伝える彼らに。
返事を期待していなかった皇女たちの目に、自然と涙が溢れた。
「ええ。喜んで!」
「もちろんですわ!」
二人の不安を、言葉ではなく行動で包み込むように。
皇女たちは、それぞれ彼らの首に抱きついた。
アレクシスとフェリクスは、まるで宝物のように優しく抱きしめ返していた。
その様子をこっそりと見ている影があった。
皇女たちの両親である皇帝と皇妃、そしてアレクシスとフェリクスの父親である宰相と、騎士団長である。
「む、娘たちは、儂の目の黒いうちは嫁になぞ……。」
怒り心頭でその場に出ようとする皇帝を、両脇から必死に止める宰相と騎士団長。
「う、うちの息子の何が不満で?」
「うちの息子で、いいではないですか!」
宰相と騎士団長は、朴念仁な息子たちにもついに嫁が出来ると、顔がすっかり緩んでしまっている。
「呪いが解けて、本当に良かった……」
「私たち……子供も、作れるのよね……」
皇女たちはそう言って、泣きながら、何度も何度も言葉を噛みしめた。
その様子に、アレクシスとフェリクスは慌てて皇女たちを抱き寄せる。
「呪いなんて、関係ありませんよ。」
「あなたたちが、望む未来を一緒に生きるだけです。」
泣き出した皇女たちをなだめるように、二人は静かに、しかしはっきりとそう告げた。
その時である。
「婚前交渉は許さーん!」
とうとう我慢しきれなくなった皇帝は、しがみつく宰相と騎士団長を引きずりながら、四人の前に姿を現した。
突然のことに、皇女たちとアレクシス、フェリクスの四人はその場で固まってしまった。
「結婚するまでは、そんなことは、この父が許しません!アレクシスとフェリクス!もし、娘たちに手を出してみろ、お前たちは今すぐ、この剣の錆に……。」
何故か剣を携えてやってきていた皇帝は、その場で剣を引き抜こうとした。
それを、両サイドから宰相と騎士団長が必死に止めていた。
「うちの朴念仁が、そんなこと出来るわけないでしょうが!」
「うちも同じです!むしろキスさえ出来るかどうか……」
「はあ? キスだとー!」
しかし、父親二人のフォローは、騎士団長の余計な一言で、さらにヒートアップした。
「アレクシス! フェリクス! まさかお前たち……。」
ギリギリと歯をかみしめ、目を血走らせる皇帝陛下。
そんな皇帝陛下の前に、皇女たちは両手を広げて立ちはだかった。
「そんなことを言うお父様は、大嫌いです。」
「二人をいじめるなら、もう口をききません!」
愛するかわいい娘たちからの、突然の嫌い宣言に、皇帝はその場で固まってしまった。
「あちらにいきましょう、アレクシス。」
「そうですわ、フェリクス。」
皇女たちは置物と化した父親を無視して、それぞれにアレクシスとフェリクスの手を引き、その場を後にしてしまった。
残された皇帝は何が起こったのかが理解できず、頭の中では小さい頃の「お父様大好き」という娘たちの姿が繰り返し流れていた。
しかし。
それもすぐさま、鋭い叫び声で綺麗にかき消されてしまう。
「あなた! それと、他のお二人も……そこにお座りなさい!」
皇妃によりその場に正座させられた、国の重鎮たち。
皇妃を前にうなだれる大の男三人の姿は、日が落ち、星空が浮かぶ頃まで、城の者に目撃されていた。
◇ ◇ ◇
一方、王子たちの婚約に失敗したイシャロット帝国一行は……。
最後の望みと言わんばかりに、ヴァーミリオン公爵邸をめざしていた。
「私が、公爵様と結婚さえすれば……。」
何故か公爵夫人になれるのだと、自信満々のバレリア皇女。
いざ、ヴァーミリオン公爵邸にやってきたのだが……。
「公爵様は、留守にございます。」
そう。
公爵は、バンーテーン王国へ遠征に出て、留守であった。
「留守? でしたら、戻られるまでこちらに滞在いたしますわ。」
まるですでに、女主人にでもなったかのような口ぶりである。
あまりにも図々しい一言に、侍女長は一瞬、あっけにとられた。
(主が留守と知っていながらですか? これが他国の皇女のすることかしら……)
と。
「公爵様より、いかなるご夫人も我が屋敷には通すなと、申し伝えられております。」
公爵は、こうなることをあらかじめ予測していた。
だから、侍女長と執事に伝えていたのだ。
『他国の皇女であろうが追い返せ!』
と。
(それにしても、あのしつこい聖女といい、この礼儀知らずな皇女といい、どうしてこうも次から次へと……)
公爵家の侍女たちは、通常業務に加え、話の通じない女どもの相手にすることに、ほとほと疲れていた。
そんな時である。
「私が誰だかご存じないようね? 私は……」
バレリア皇女が自己紹介をしようとした、まさにそのタイミングであった。
「ビシャ!」
突然、バレリア皇女を乗せた馬車ごと、護衛の騎士たちにまで降りかかる、泥とも汚物とも言いがたい液。
「く、臭!」
「な、なんだこれは!」
「キャー!なんですのこれはー!」
イシャロット帝国一行は、腐敗したドブを思わせる耐えがたい悪臭に襲われた。
「こ、こんなところ、ごめんですわー!」
悲鳴とともに、イシャロット帝国一行は烈火のごとく、公爵邸の前から去っていったのである。
こうして公爵邸は、侍女たち同様にご機嫌斜めな魔獣の活躍により、事なきを得たのであった。
双子の皇女たちもまた、逃げ出すように部屋を出て行った。
向かった先は、季節の色とりどりの花が咲き乱れる、王城ご自慢の庭園。
その東屋にて、皇女たちは腰を下ろした。
「ね、姉様、ずいぶんとはっきりとおっしゃいましたのね?」
「あ、あなただって、ノリノリだったじゃない!」
二人は恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤にしてテーブルに突っ伏していた。
いくら頭にきていたとはいえ、まだ告白さえしていなかったのに……。
多くの人がいる前で堂々と、アレクシスとフェリクスを「未来の夫たち」と宣言してしまったのだ。
「まさか、二人は気がついたかしら?」
「どうかしら? 二人とも、その辺りは鈍そうですし……。」
「そうよね、そういうところ、叔父様によく似ているわ。」
「男の人はみな、鈍いのですわ。きっと……」
皇女たちは頬をテーブルに貼り付けたまま、父である皇帝の弟――叔父コンラッドのことを思い出した。
両親である皇帝と皇妃は、とても仲睦まじいというのに……。
失態を犯した叔父の根性をたたき直すのだと、張り切りすぎた結果。
両親は、今年二歳になる弟まで授かったほどだった。
弟を皇太子にし、皇女たちは皇位継承権を放棄した。
これで、安心して彼らの元へ嫁ぐことができると、皇女たちが喜んだのは言うまでも無い。
だが叔父に関しては。
いくら二十歳で死んでしまう可能性があったとはいえ、言ってはいけない一言を口にするなんて。
自分たちがもし、アレクシスやフェリクスからそんな言葉を聞いてしまったら……。
「わたくし、生きていけませんわ……。」
「わたくしもです……。」
不意に、胸の奥がきゅっと痛んだ。
もし、断られたらどうしよう……。
そう。
皇女たちはまだ、アレクシスとフェリクスの気持ちを知らなかったのだ。
「皇女だから結婚するというのは、嫌ですわ。」
「ちゃんと、私たちのことを好きでなければ、嫌ですわ。」
二人の目に、涙がたまり始める。
そんな時であった。
背後で、砂利を踏むかすかな音がした。
「ちゃんと好きですよ。」
「だから、泣かないでください。」
不意に後ろから、聞き覚えのある声がした。
振り返ると、そこには顔を真っ赤にしたアレクシスとフェリクスが立っていた。
「アレクシス……」
「フェリクス……」
突然の二人の出現に、皇女たちは驚きのあまり、涙が引っ込んだ。
アレクシスとフェリクスは皇女たちの前へ歩み寄り、それぞれ片膝を立てて腰を下ろした。
そして、それぞれが皇女たちの手を取ると……。
アレクシスは、エリシアに。
フェリクスは、ルシアに。
それぞれの手の甲に、軽いキスを落とした。
「学院を卒業したら、迎えに行きますね。」
「だからそれまで、待っていていただけますか?」
まっすぐな瞳でそう伝える彼らに。
返事を期待していなかった皇女たちの目に、自然と涙が溢れた。
「ええ。喜んで!」
「もちろんですわ!」
二人の不安を、言葉ではなく行動で包み込むように。
皇女たちは、それぞれ彼らの首に抱きついた。
アレクシスとフェリクスは、まるで宝物のように優しく抱きしめ返していた。
その様子をこっそりと見ている影があった。
皇女たちの両親である皇帝と皇妃、そしてアレクシスとフェリクスの父親である宰相と、騎士団長である。
「む、娘たちは、儂の目の黒いうちは嫁になぞ……。」
怒り心頭でその場に出ようとする皇帝を、両脇から必死に止める宰相と騎士団長。
「う、うちの息子の何が不満で?」
「うちの息子で、いいではないですか!」
宰相と騎士団長は、朴念仁な息子たちにもついに嫁が出来ると、顔がすっかり緩んでしまっている。
「呪いが解けて、本当に良かった……」
「私たち……子供も、作れるのよね……」
皇女たちはそう言って、泣きながら、何度も何度も言葉を噛みしめた。
その様子に、アレクシスとフェリクスは慌てて皇女たちを抱き寄せる。
「呪いなんて、関係ありませんよ。」
「あなたたちが、望む未来を一緒に生きるだけです。」
泣き出した皇女たちをなだめるように、二人は静かに、しかしはっきりとそう告げた。
その時である。
「婚前交渉は許さーん!」
とうとう我慢しきれなくなった皇帝は、しがみつく宰相と騎士団長を引きずりながら、四人の前に姿を現した。
突然のことに、皇女たちとアレクシス、フェリクスの四人はその場で固まってしまった。
「結婚するまでは、そんなことは、この父が許しません!アレクシスとフェリクス!もし、娘たちに手を出してみろ、お前たちは今すぐ、この剣の錆に……。」
何故か剣を携えてやってきていた皇帝は、その場で剣を引き抜こうとした。
それを、両サイドから宰相と騎士団長が必死に止めていた。
「うちの朴念仁が、そんなこと出来るわけないでしょうが!」
「うちも同じです!むしろキスさえ出来るかどうか……」
「はあ? キスだとー!」
しかし、父親二人のフォローは、騎士団長の余計な一言で、さらにヒートアップした。
「アレクシス! フェリクス! まさかお前たち……。」
ギリギリと歯をかみしめ、目を血走らせる皇帝陛下。
そんな皇帝陛下の前に、皇女たちは両手を広げて立ちはだかった。
「そんなことを言うお父様は、大嫌いです。」
「二人をいじめるなら、もう口をききません!」
愛するかわいい娘たちからの、突然の嫌い宣言に、皇帝はその場で固まってしまった。
「あちらにいきましょう、アレクシス。」
「そうですわ、フェリクス。」
皇女たちは置物と化した父親を無視して、それぞれにアレクシスとフェリクスの手を引き、その場を後にしてしまった。
残された皇帝は何が起こったのかが理解できず、頭の中では小さい頃の「お父様大好き」という娘たちの姿が繰り返し流れていた。
しかし。
それもすぐさま、鋭い叫び声で綺麗にかき消されてしまう。
「あなた! それと、他のお二人も……そこにお座りなさい!」
皇妃によりその場に正座させられた、国の重鎮たち。
皇妃を前にうなだれる大の男三人の姿は、日が落ち、星空が浮かぶ頃まで、城の者に目撃されていた。
◇ ◇ ◇
一方、王子たちの婚約に失敗したイシャロット帝国一行は……。
最後の望みと言わんばかりに、ヴァーミリオン公爵邸をめざしていた。
「私が、公爵様と結婚さえすれば……。」
何故か公爵夫人になれるのだと、自信満々のバレリア皇女。
いざ、ヴァーミリオン公爵邸にやってきたのだが……。
「公爵様は、留守にございます。」
そう。
公爵は、バンーテーン王国へ遠征に出て、留守であった。
「留守? でしたら、戻られるまでこちらに滞在いたしますわ。」
まるですでに、女主人にでもなったかのような口ぶりである。
あまりにも図々しい一言に、侍女長は一瞬、あっけにとられた。
(主が留守と知っていながらですか? これが他国の皇女のすることかしら……)
と。
「公爵様より、いかなるご夫人も我が屋敷には通すなと、申し伝えられております。」
公爵は、こうなることをあらかじめ予測していた。
だから、侍女長と執事に伝えていたのだ。
『他国の皇女であろうが追い返せ!』
と。
(それにしても、あのしつこい聖女といい、この礼儀知らずな皇女といい、どうしてこうも次から次へと……)
公爵家の侍女たちは、通常業務に加え、話の通じない女どもの相手にすることに、ほとほと疲れていた。
そんな時である。
「私が誰だかご存じないようね? 私は……」
バレリア皇女が自己紹介をしようとした、まさにそのタイミングであった。
「ビシャ!」
突然、バレリア皇女を乗せた馬車ごと、護衛の騎士たちにまで降りかかる、泥とも汚物とも言いがたい液。
「く、臭!」
「な、なんだこれは!」
「キャー!なんですのこれはー!」
イシャロット帝国一行は、腐敗したドブを思わせる耐えがたい悪臭に襲われた。
「こ、こんなところ、ごめんですわー!」
悲鳴とともに、イシャロット帝国一行は烈火のごとく、公爵邸の前から去っていったのである。
こうして公爵邸は、侍女たち同様にご機嫌斜めな魔獣の活躍により、事なきを得たのであった。
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