捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希

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ヨナリウスの、大捜索が始まっております。

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 一方、ヨナリウスの姿が消えた辺境伯の屋敷では――。

「ヨナー!」

「坊ちゃまー!」

「ヨナリウスくーん!」

 屋敷にいる人間が総出で、ヨナリウスを探し回っていた。

「ミー君もいないから、一緒にいるはずなんだけど……」

「いつもなら、暗くなる頃には、ミー君が連れて帰ってくれるのに……」

「ミー君といるからって、安心したのが間違いだったのかしら?」

 メリンダとククルは、今にも泣きだしそうな顔をしている。

「まさか、お母さんに会いに?」

「ミー君に乗って、追いかけたのかしら?」

 関所に問い合わせるも、ミー君とヨナリウスを見た者は誰もいなかった。

「じゃあ、やっぱり近くにいるのかしら?」

 普段は大人の手を煩わせることのない、聞き分けのいい子。
 おまけにあの、ミー君と一緒なのだ。

 だからこそ、全員が油断していた。

 シュバリエ皇国の子供たちまでもが、一緒になってヨナリウスを探していた。

「大人びて見えたのにね……」

「まだ四歳だもの……」

「お母さんが恋しいよね……」

「かわいい……」

 誰もが不安そうな顔で声を張り上げ、必死に名を呼びながら、屋敷の内外を走り回る。

 時間が経つほど、探すのは難しくなっていった。

 ハイランズ伯爵家の面々も総出で領内を探してくれていたが、それでも見つからなかった。

 辺境伯不在のため、バーナード・ハイランズ伯爵が指揮を執り、捜索が進められていた。

「ヨナは、見つかったのか?」

「……それが、まだ……」

 対応した執事は言葉を濁し、表情に暗い影を落とす。

 辺境伯領の人間も、伯爵家の人間も――。

「とにかく、こんなに真っ暗では、これ以上は無理だ。ミー君が付いているんだ。一晩くらいは大丈夫だよ、きっと」

 伯爵の一声で、捜索はいったん終了することとなった。

「ヨナ、ちゃんとご飯を食べているかしら?」

「まさか、誘拐……とか?」

 しかし、小さい頃から世話をしてきたメリンダとククルは、心配で仕方がなかった。

「もしかして、あいつがさらったとか……」

「もしかして、あいつかもよ?」

 二人は過去、ユーリに言い寄っては返り討ちにされた数々の男たちと、嫉妬に狂った女たちを思い出しながら、脳内で口に出すのもはばかられる拷問を行っていた。

 現実化すれば、とても恐ろしい光景である。
 想像に比例して、二人の美しい顔は歪み、その表情はみるみるうちに凶暴化していった。

「とにかく、どんな手を使っても吐かせるわよ! たとえ丸焦げにしても!」

「そうね。多少の拷問は、範囲内よね? だって、ヨナの命がかかっているもの……」

 彼女たちの普段見せない恐ろしい表情に、周囲は血の気を失い、言葉を失った。

「き、君たちは、まずは落ち着いて……」

 代表して伯爵が声をかけるも――。

「はあ? 無理に決まっているでしょう?」

「何かあったら、どーすんのよ!」

 二人の迫力に押され、伯爵は次の言葉を飲み込んだ。

「まさか、変態親父に連れて行かれて……」

「よし、そいつは半殺しにして、それから……」

 二人は物騒な言葉を吐きながら屋敷を飛び出し、町へと向かってしまった。

(いや……ミー君が付いている限り、ヨナは誰よりも安全だと思うんだが……)

 普段から、辺境伯の屋敷に侵入しようとする不審者を即座に排除する、万能セキュリティ――ミー君。

 辺境伯と伯爵はもとより、使用人たちからも絶大な信頼を勝ち取っている存在だ。

(明日、町で殺人事件や未遂が起こらないといいが……)

 伯爵はそう思いながら、ポケットから薬の入ったケースを取り出し、パクリと一粒飲み込んだ。

 そんな大騒動のあった次の日。

「朝が来たというのに……なぜだ?」

 朝になっても、ヨナリウスとミー君は帰ってこなかった。

 夜も交代で警備隊に見回りを頼んだが、一向に行方はつかめない。

 そして――。

「昨日は、殺人も未遂もなくて、本当に良かった……」

 それでも、メリンダとククルは戻ってこなかった。
 恐れていた事態は、起こらなかったようである。

 再び屋敷内を捜索したが、やはり見当たらなかった。
 教会にも孤児院にも、来ていないという。

 一方、伯爵家では、ウィリアムがズー君と暴走しそうになり、伯爵家使用人全員で、何とか屋敷内に押しとどめている有様である。

 そうしている間に、昼が過ぎようとしていた。

「いったい、どこへ……」

 ハイランズ伯爵は口元に手を当て、必死に思案する。

 そのとき――。

 ぱかり、ぱかりと。
 一頭の馬が近づいてくる音がした。

「あの~、すみませ~ん。」

 見覚えのない甲冑に身を包んだ男が、馬上から声をかけてくる。

「どなたか、ヴァレン辺境伯の関係者をご存じありませんか?」

 その一言に、目の下にうっすらクマのあるハイランズ伯爵が、即座に反応した。

「君は、どこの所属の騎士だい?」

「はい。自分は、シュバリエ皇国、コンラッド・ウィン・ヴァーミリオン公爵様に仕える騎士です。」

 男は馬を降り、簡潔に名乗った。

「シュバリエ皇国? ヴァーミリオン公爵様に仕える騎士?」

 なぜ、あんな遠い国の騎士がここにいる――。
 その場にいた全員が、騎士を凝視する。

 一斉に突き刺さる、寝不足で殺気立っている視線。
 だが彼――ヴァーミリオン公爵に仕える若い騎士ウェルナーは、それをまったく気に留めなかった。

「私は、ローウェン・ヴァレン辺境伯の弟、バーナード・ハイランズ伯爵だ。」

 警戒しながらも、伯爵はウェルナーに答える。

「悪いが、今は非常に立て込んでいてね。用件は手短に願いたい。」

 苛立ちを隠そうともしない声音で。

「では、手短に――。ヴァレン辺境伯邸に滞在しておられる、ヨナリウスという少年の件で参りました。わが主、コンラッド・ウィン・ヴァーミリオン公爵とともに、この国の王都へ向かうことになりましたので、そのご報告をと……」

 その場にいた全員の動きが、ぴたりと止まった。

「――話を、詳しく聞こうか。」

 顔を引きつらせながらも、ハイランズ伯爵は騎士の肩に、そっと手を置いた。
 笑顔のまま、目だけが笑っていない。

 逃がさぬ――と言わんばかりに。
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