捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希

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ヨナリウスは、世界一強いというおじさんと、母様に会いに行きます。

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 混乱する周りをよそに、コンラッドとヨナリウスの会話だけが、先へ進んでいく。

「その前にヨナリウス。一つ確認しておきたいことがある。」

「な~に~?」

「この前みたいに、また黙って出てきたんじゃないよな?」

 公爵の問いに、ヨナリウスははっとし、思わず口をつぐむ。

「その様子じゃ、またやったんだな?」

「ごめんなさい……。」

 しょんぼりとうなだれるヨナリウス。

 そんなヨナリウスの頭をコンラッドはやさしくポンポンとたたき、一人の若い騎士を手招きで呼び寄せた。

「どうされましたか?」

「悪いが、このダンジョンを出たら、すぐにこの子の家に行って、事情を話してきてほしい。すべては私が責任を取ると。」

「公爵はこの子の家がどこにあるのか、ご存じなのですか?」

「ああ。そうだったな?ヨナリウス、家はどこだ?」

「うんとね~、へんきょうはくさまのおうち。」

「辺境伯様? ああ、ローウェン・ヴァレン辺境伯様のことですね?」

「そう! そうなの!」

 『正解~!』と言わんばかりに、ヨナリウスが声を上げた。

「でも俺、場所を知りませんよ?」

「きっと、知り合いとかが探しているはずだ。そいつらに聞けばいい。」

「はあ……」

 命令された騎士は、不安そうな顔をしていた。

「では早急にこのダンジョンを抜け出し、王都へ向かおう! ヨナリウス、ダンジョンの外まで案内できるかな?」

「うん!できるよ!」

 ヨナリウスは、公爵の腕の中からぴょんと、飛び出し、ミー君のもとへととと……と駆け出した。

「ミー君、母様のところに行こう!」

 嬉しそうに自分にまたがるヨナリウスを見て、ミー君は首を振り、土を揺らすように、身体をくねらせて、うれしそうに答えた。

 しかし、いつもならすぐに出られるはずのダンジョンを、今回に限り、なかなか出ることができなかった。

 ミー君が消臭していないところでは、まだあの悪臭が漂っていたからだ。

 悪臭を消しながら先頭を行くミー君めがけて、というよりも匂いのしないこちらの一行めがけて、次々と襲いかかる魔物たち。

 彼らは必死だった。
 美味しい空気を求めて。

 しかし。

 行き着く先で、彼らは次々とドロップ品に姿を変えていく。

「今日はこの辺りで野営をしよう。」

 公爵の指示で仕方なく、ダンジョン内で一泊することとなった。
 ドロップ品のおかげで、食事の材料は豊富にある。

 新鮮なお肉の入った美味しい夕食を食べ、彼らは英気を養った。

 結局ダンジョンから出られたのは、翌日の昼前だった。

 そして今は、いつもフリーダム一行と休憩する広場で、使節団一行とヨナリウスは、お昼ご飯を食べている。
 魔法庁が開発した、長期遠征時にも携帯可能な固いパンと、乾燥野菜に粉末状にしたスープの素のような粉を入れて作ったスープだ。

 ちなみにスープの中には、昨日ダンジョン内でゲットした、ドットラビットの肉が入っているため、いつもの薄味スープよりは、味がしっかりしている。
 
「ヨナリウス、君は食べ盛りなのに、昨日から同じ物ばかりですまないな。」

「ぼくだいじょうぶだよ。ぜいたくはしょみんのてきなの。」

 固いパンをスープに浸して柔らかくし、それに昨日ミー君がたくさん採ってくれた蜂蜜をたっぷりつけ、小さい口をまるで子リスのように、はぐはぐ動かしながら、必死に食べていた。

 その様子を使節団一行は、微笑ましい様子で眺めながら食事を取っていた。

「癒やされる……。」

「この姿だけなら、見ていたい……。」

 周りはヨナリウスのかわいらしさに、メロメロであった。

 食事が終わると、今後の予定について軽い打ち合わせが始まった。
 
「ヨナリウスは、ここからどう行ったら、王都に行けるか分かるかな?」

 コンラッドの質問に、ヨナリウスはその小さな腕を胸の前で組み、うーんとうなりながら考えた。

「かわいい……」

「かわいいけど、公爵……」

「ミニチュア公爵……」

 周りの生暖かい目に見守られながら、ヨナリウスは一生懸命考える。

 そして。

「ミー君!」

 自分の背もたれになってくれているミー君に呼びかけた。
 ミー君は「な~に?」と言いたそうに、あるかどうかも分からない耳を向けるように体を折り曲げ、ヨナリウスの顔のそばへと自分の上半身を持ってきた。

「あのね……」

 ヨナリウスには、そんなことまで分かっているのだろうか。
 耳があるであろう場所に顔を近づけ、手を添えて、こそこそと話している。

「ジェントワームに耳ってあったっけ?」

「あの位置が耳なのか?」

 一行が首をかしげている中、ヨナリウスの声がした。

「ミー君なら、これでわかるかなって。」

 ヨナリウスとミー君が、見つめ合っている。
 ミー君は一瞬動きを止めたかと思うと、上半身をブンブンと上下に振り、突然、土の上に自分の頭の上部をこすりつけ、匂いを嗅ぐような仕草をして、うろうろとし始めた。

「ヨナリウス、ミー君は何をしているのかな?」

 シュバリエ皇国使節団一行全員が思っているであろう疑問を、コンラッドが代表して質問した。

「えっとねー、においをかいでいるの~。」

「におい?」

「母様のにおいを追いかけたら、おうとに着くかなーって思ったの。」

 ヨナリウスは、コンラッドを見上げて言った。

「そ、そうなのか?」

 コンラッドは困惑した。
 ジェントワームにそんな機能が備わっているなど、聞いたこともない。
 魔法庁から借りた魔法士たちに視線を送るも、彼らも知らないとばかりに両手を挙げ、首を左右に振る。

「ジェントワームに、鼻があるのか?」

「嗅覚があるのか?」

「なのに、なんであんな悪臭を放てるんだ?」

 使節団一行は、ますます困惑の沼に引きずり込まれていく。

 しばらくの間。
 一行は物珍しそうに、ミー君の動きをただ眺めていた。

 ミー君は、何かを確かめるようにその動きを繰り返した後、急にヨナリウスの元へと戻ってきた。

「ミー君、わかったの?」

 ヨナリウスの質問に、ミー君は首を上下に激しく振った。

「ミー君、わかったって。これで母様のところに行けるね!」

 ヨナリウスは、よほど嬉しかったのか、満面の笑みをコンラッドに向けた。

「では、そろそろ出発しようか。早くしないと、日が暮れてしまう。」

 コンラッドの一言で、使節団一行は再び動き出した。
 ヨナリウスはミー君にまたがり、使節団を先導するかのように、一番前を走っている。

「ジェントワームって、移動速度がこんなに速いものでしたっけ?」

「普通は、地中に穴を掘って移動するのだが……」

 背中に大量の蜂蜜をのせたリュックを背負い、その上、ヨナリウスまで乗せているミー君。
 しかし、その重さをものともせず、馬がやっとのことで追いつける勢いで、どんどん前に進んでいく。

 が、突然。
 ミー君が、その場にピタリと止まった。

「どうしたんだ?」

 コンラッドが馬を下り、ミー君の元へと駆け寄る。
 そこには、睡魔に負け、眠ってしまったヨナリウスの姿があった。

「昨日から、いろいろあったからな。」

 苦笑するコンラッドは、そのままヨナリウスを抱き上げた。

「まだ、こんなに小さいもんな。」

 見た目には、二、三歳くらいなのだろう。
 コンラッドを含め、使節団一行はそう思っていた。

 ヨナリウスは、普通の四歳児よりも一回り小さかった。
 ウィリアムと並んでも小さく、よく弟に間違われるくらいである。

 コンラッドは、そのまま魔法士たちの乗っている馬車に乗り込むと、ヨナリウスを自分のすぐそばに寝かせ、羽織っていたマントを体に掛けて、

「トン……トン……」

 と、無意識に一定のリズムで、起こさないように優しくその小さな背中に触れていた。
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