奇跡に祝福を

善奈美

文字の大きさ
17 / 20

奇跡に祝福をⅥ side理玖

しおりを挟む
 俺達は地下から出てきた。猫又、伯の書物は外には持ち出せない。だから、きちんと読み解ける知識を身につけて訪れることにしたのだ。あの場所は特定の者しか入れない。ある意味、この国の機密だ。本来なら、俺以外入ってはいけない場所だが、神々が関わってる以上、入り閲覧する許可が出ている以上、連れて行かない選択肢はなかった。まあ、親父達にはきちんと説明しないと雷が落ちるだろうが。そして案の定、その雷を受けている最中だったりする。
 
「分かってるのか?!」
 
 俺はうんざりした表情を浮かべた。一通りのお叱りは受けようと、五人で話していたという事もある。未消化はヤバいでしょ、と言ったのは朔だ。一理あるがそれ以上は確実にない。
 
「はあ、説明はしてもらう」
 
 親父、疲れてるな。まあ、それを言ったら俺だってかなり疲れている。しかも、あの場所のあの秘密は、親父から伝えられていない。つまり、現代において、認識されていない。贄の巫女姫は伝わっているにも関わらずだ。
 
 一通り話終わると、親父と爺さんは崩れ落ちた。何より、心律がどれ程特殊であるか如実に分かったと言っていいだろう。神々からの接触は、言い換えるなら皇家の領分だ。四神はあくまで神獣の力を借りている。問題点として、心律だけではなく、俺も朔も何より海斗すら神の受肉体だという点。突き詰めればおそらくだが空斗も受肉体である可能性はある。ただ、蓮と星華は本当の意味での俺と心律の子である確証は貰えた。あの能力で神の受肉体ではないのが不思議だが。
 
「親父、この国は何の為に存在してるんだろうな」
 
 俺の呟きに親父は顔を上げた。どこの国にも神々絡みの神事は存在する。しかし、この国程、多くの神事は存在しない。四神は年始めの神事のみだが、皇家は毎月、多い時には月に二回以上の神事が存在する。
 
「本来なら伝えるべき事柄が多かったのだろうが、代を重ねる度に抜け落ちた事実は多いかもしれん」
 
 親父の言葉は重い。そして、四神の地下屋敷にある書物は基本、同じ内容ではないだろうか、そんな話だった。本当に知りたければ皇家の地下屋敷に行かなくてはならない。そう言うのだ。神社や寺にも、違う事実が記されている可能性も否定出来ないと言う。
 
「しかし、心律が神社でそんな話を聞いていようとは」
 
 心律は確かに話せるのは俺だけだと言っていた。おそらく、話す事を許されたのが俺だけだったのだろう。ましてや、神の受肉体である事実は頭の痛い問題だ。下手をしたら、皇家に匹敵するからである。そして、この事実は帝に報告しなくてはいけない。それ程の問題であったのだ。親父は眉間の皺を揉んでいた。爺さんも顳顬を揉んでいる。
 
「それで、読み解けた問題はこの国の中央に何かが封印されていると?」
「あの話し方だと、この世のものじゃないと思う。話すと強制力が働く、そう言っていた点から、神々絡みの何か、と考えるのが普通だ」
 
 西條家の屋敷の下にある、屋敷の更に下。そこには確かに二つの蛇の頭があった。蛇ではなく、龍である可能性も否定出来ない。それは八岐大蛇の姿を借りている。皇家は知っている可能性は否定出来ないが。
 
 この国はΩに支えられていた。それをこの国の人は知らない。知らないから、平気でΩを否定し、排除しようとする。αから遠ざけようとあの手この手でβは手を下す。神々を否定し、結果、自分達を追い込んでいる。国を道連れにして。
 
「神々は自分達では手を下せない。その結果、人の中に神の魂を宿す選択をした。少しでも、結界を維持する為だと思うが……」
 
 俺としてはよく分かってない部分だ。
 
「まあ、こうなったら調べるしかないでしょう?」
 
 朔は本当に軽い。
 
「まあ、空斗がだけどねー」
 
 親父は朔の言葉に項垂れている。まあ、丸投げしてるからな。俺としてもそれは拙いとは思っているが、何せ、朔だからな。
 
「言いたくはないが、朔も少しは自分で考えたらどうだ?」
 
 親父は流石に拙いと声を掛けるが、朔はどこ吹く風だ。まあ、伯父さんも朔に関しては困ってるらしいが。でもな、怒らせると一番ヤバいのは朔だ。俺は見たまんま、そのままだが、朔は違う。適当なフリをしてかなりヤバい奴だ。親父も知ってるだろうに。
 
「必要だと判断したらやるよ。必要ならね」
 
 朔的には神々からの要請もやる気を起こさない案件か。まあ、俺もそうだけどな。心律が関わってなければ動く事もなかったと思うが。何せ心律は素直で、裏表がない。頼まれれば素直に応じてしまう。禁止だと言われれば、その通りにしてしまう。華族としてはおそらく、らしくないだろう。だからこそ、俺は心律が愛おしいのだが。しかし、そんな心律から生まれたのが蓮とは。
 
「はっきりとその書物は読めないんだな?」
「まあ、文字が古い上に、達筆すぎて、何となく分かる程度か」
 
 親父も爺さんも更に頭が痛いと眉間に皺を寄せた。放置したいところだが、内容が内容だけに放置は危険だろう。俺とて関わりたくない。出来れば家族四人で平和に暮らしたいくらいだ(その中に両親と祖父母は入ってない)。
 
 ここで考えていても埒があかない。なので、親父と爺さんは主上に直接、直談判すると疲れたように呟いた。どのみち、正確な情報を得ない事にはどうする事も出来ないのである。朔と空斗はそのまま、自宅に帰って行き、親父と爺さんは皇居に向かった。俺と心律と海斗はとりあえず、通常の日常に戻る事にしたのである。何せ、心律の発情期がもうそろそろ始まるのだ。きちんと対応するのは夫の勤めである(まあ、まだ、次の子は考えてないが)。
 
 それから数日後、心律の発情期が始まり、俺と心律は別宅で一週間過ごす事になった。この時ばかりは流石の空も側には居らず、蓮も察したように近くには来ない。聡い子ではあるが、まだまだ幼い子供だ。それでも、αである事には違いない。心律の状態を正確に把握し、しっかり俺を睨み付けていた。まあ、母親を奪われる、と言うよりも、優秀なΩに対する執着だろう。こればかりは譲る気は無いので、早々に諦めてもらうほかない。いくら息子でも、譲れない部分だ。
 
 そんな日常を過ごしていた俺達だが、親父と爺さんは違ったようだ。皇家に伺い心律が神と接触した事実を秘密裏に報告した。結果として皇家は知らなかったのだ。知らないと言うのは語弊があり、長い年月を経た弊害が出ていた。何の為に結界を強化し続ける必要があったのか。その部分が抜け落ちていたのだ。つまり、歴代の帝は神々の声を聞く事が出来なくなっていた事になる。
 
「言っとくが心律は皇家に渡すつもりはないぞ。そんな事してみろ。俺と心律は確実に狂うぞ」
「流石の主上も分かってらっしゃる。が、神々が接触してきた理由がもし、国そのものを揺るがす事案であった場合、どうなるか分からん」
 
 あの感じだと、何かを封じる為に偽八岐大蛇をΩの能力を持って封じていた。何となく読める部分で理解出来たのはそれだけだ。何より、神々が直接教える事は強制力が働くと言っていた。何より、結界強化の為、かなりの数の神々が受肉している。それが意味するのは何なのか。この国に一体何が封じられているのか。もしくは、封じる為の土地に人々が移り住んだのではないだろうか。強固な結界は外敵から守られる。それはありとあやゆるモノからだ。
 
「……何でよりによってこの時代なんだ」
 
 俺は恨み言を呟いた。いや、もう呟かずにはいられない。
 
「あ……。諦めろ。この時代の四神、まあ、西條と東條だけだが、お前達二人の能力が飛び抜けてるんだ。まあ、それを言ったら春宮様もだが」
「何だ、生まれの能力の高さで、厄介事の処理をしろとでも言うのか?」
 
 俺は半眼で親父を睨み付けた。俺が望んでいるのは家族でごく当たり前の平凡な生活だ。四神なのである程度は妥協しよう。そう、ある程度だ。それが、何を間違えて国単位の厄介事を背負はされてるんだっ。心律は生まれた時から苦労してるんだぞ。それなのに、更なる苦労をさせる気か! それを言ったら、俺も似たようなものなのか。生まれた時から二属性の神獣の欠片が付いていたせいで苦労も多かった。下手に見えるものだから、付いていた神獣があれやこれや干渉してきたからな。神獣も久々に目視出来る存在が出来た為か、察してくれという視線が痛かった。まあ、俺は目視出来るだけで、言葉までは理解出来なかった。それが出来るのが蓮なのだが。
 
「仕方あるまい。お前は心律の伴侶に選ばれた。つまりは、篩にかけられ、引っかかった側だ」
 
 親父の言葉にぐうの音も出ない。だが、と考える。もしだ、俺が気が付かず、そのまま、心律が儚くなっていた場合如何なるのか。いや、そうなる可能性があったから、神獣の欠片が干渉したのか。そう、ショック療法だ。あれは確実にそうだった。神獣の欠片の干渉と、外側からの衝撃で記憶が飛んだのだからな。
 
「それで、主上は何と?」
「心律と朔と海斗。空斗を連れて御所に来るようにと」
「厄介事を丸投げする気か?」
「御所の地下に続く道が閉ざされたそうだ。強い結界が張られているらしい」
 
 親父の言葉に俺は目を見開く。意味が分からない。
 
「丁度、時期的にはお前達が地下に降りたあたりかららしい。主上としても大問題だそうだ。何せ、神事はその場所で行う事が多いからな」
 
 待ってくれ。つまり、閉ざされた事で神事が執り行えなくなったという事か?!
 
「どうして、次から次へとっ」
 
 文句しか出てこないぞっ。
 
「諦めろ、としか言えんな。他人事ですまん」
 
 親父の言葉に俺は鬼の形相を見せた。いや、見せた筈だっ。
 
「こればかりは、どうにもならん。勿論、支援はする。ここまできたら、個人の問題ではなくなってしまった。国単位、下手をしたら世界単位だ」
 
 何が言いたいのか、分かっている。この国そのものを結界で世界から遮断している。遮断するだけの問題があるからだ。では、何を遮断している。遮断しなければどうなっていた? この島国そのものを、結界で囲ったのだ。いくら小さな国とは言え、人にとってはかなりの大きさだ。周りが海に囲まれているので、隔離、にはもってこいだったのか。それとも、この島国そのものに関係がある何かなのか。
 
「神話時代に遡るんだろうな」
 
 俺はそう呟いた。記録は古すぎて読めない達筆な文字。かろうじて、何となく読める程度。つまり、それ程、昔に起こった何かなのだろう。文字そのものも古かった。もし仮に、神の受肉体でなければ読み解けないものだとしたら。だからこそ、多くの神がこの地に降り立ったとしたら。その中に、あの書物と関係のある存在が存在する事を願っていたとしたら。神とて生まれる場所を特定出来ないとしたら。俺は血の気が引いた。全ては偶然で偶然じゃない。心律が特殊なΩであるように、俺も特殊な部類だろう。神獣の欠片が二体付いている。そして、朔も、何より海斗も。海斗は俺と連動する形でこの世に降り立っている。そう考えると。とんでもない事になってないか。関係ないとかの次元じゃ無くなってる。家族で平和に暮らすには、このとんでもない事象を解決するしかない。
 
「理玖?」
「親父」
「どうした?」
「大学は休学する。卒業が伸びるかもしれないが、中途半端はやばい気がする」
 
 俺の言葉に親父は目を見開いた。まさか、大学を休学するとは考えていなかったのだろう。
 
「早い事解決しないと墓穴を掘るような気がする」
 
 俺は架空を睨み付ける。つまり、大学だけじゃなく、親父の仕事の手伝いも少しの間、出来ないという事だ。
 
「こうなったら、矍鑠としてるんだ。爺さんも巻き込んでくれ」
 
 俺はいい笑顔で親父に言い切った。当然だが、親父は項垂れた。俺達だけに丸投げになんてさせるものか。しっかり、巻き込んでやる。何がどうなってるのか、しっかりと見極めてやる。そう、人の肉に宿るまで多分だが、俺にはこの手の知識があった筈だ。何とか思い出さなければならない。無理にでもっ。
 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

徒花伐採 ~巻き戻りΩ、二度目の人生は復讐から始めます~

めがねあざらし
BL
【🕊更新予定/毎日更新(夜21〜22時)】 ※投稿時間は多少前後する場合があります 火刑台の上で、すべてを失った。 愛も、家も、生まれてくるはずだった命さえも。 王太子の婚約者として生きたセラは、裏切りと冤罪の果てに炎へと沈んだΩ。 だが――目を覚ましたとき、時間は巻き戻っていた。 この世界はもう信じない。 この命は、復讐のために使う。 かつて愛した男を自らの手で裁き、滅んだ家を取り戻す。 裏切りの王太子、歪んだ愛、運命を覆す巻き戻りΩ。 “今度こそ、誰も信じない。  ただ、すべてを終わらせるために。”

子持ちオメガが運命の番と出会ったら

ゆう
BL
オメガバースのblです。

娼館で死んだΩですが、竜帝の溺愛皇妃やってます

めがねあざらし
BL
死に場所は、薄暗い娼館の片隅だった。奪われ、弄ばれ、捨てられた運命の果て。けれど目覚めたのは、まだ“すべてが起きる前”の過去だった。 王国の檻に囚われながらも、静かに抗い続けた日々。その中で出会った“彼”が、冷え切った運命に、初めて温もりを灯す。 運命を塗り替えるために歩み始めた、険しくも孤独な道の先。そこで待っていたのは、金の瞳を持つ竜帝—— 「お前を、誰にも渡すつもりはない」 溺愛、独占、そしてトラヴィスの宮廷に渦巻く陰謀と政敵たち。死に戻ったΩは、今度こそ自分自身を救うため、皇妃として“未来”を手繰り寄せる。 愛され、試され、それでも生き抜くために——第二章、ここに開幕。

とあるΩ達の試練

如月圭
BL
 吉住クレハは私立成城学園に通う中学三年生の男のオメガだった。同じ学園に通う男のオメガの月城真とは、転校して初めてできた同じオメガの友達だった。そんな真には、番のアルファが居て、クレハはうらやましいと思う。しかし、ベータの女子にとある事で目をつけられてしまい……。  この話はフィクションです。更新は、不定期です。

複数番ハーレムの中に運命の番が加わったら破綻した話

雷尾
BL
合意を得なきゃだめだよね。得たところで、と言う話。割と目も当てられないぐらい崩壊します。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

アルファな彼とオメガな僕。

スメラギ
BL
  ヒエラルキー最上位である特別なアルファの運命であるオメガとそのアルファのお話。  

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

処理中です...