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奇跡に祝福をⅦ side 心律
「わぁぁ」
僕の目の前にあるのは綺麗な着物。光沢のある絹に銀糸で全面に刺繍が施されてる。衣桁に掛けられてる。鳥居の形をしてるやつだから、着物の刺繍がよく見えるんだ。四神のうち、朱雀と玄武が刺繍されてる。どうして朱雀と玄武?
「どうして白虎じゃないの?」
僕は疑問を口にした。それ以前に、この衣装何のためのものだろう。白いし、誰かが結婚するのかな? でもそんな話は聞いてないし。蒴さんは式ってしたのかな? でも、ここにあるのはおかしいよね? それに蒴さんなら青龍と玄武だよね? 理玖さんなら白虎と青龍。あれ? 朱雀と玄武なら星華だと思うけど、まだまだ先の話だし。
「届いたのか?」
「あ、理玖さん」
届いたの言葉に僕は首を傾げた。つまりこれって理玖さんが注文したって事だよね。
「婚礼の儀で使う、心律の衣装だ」
「へ?」
「ん? 言ってなかったか?」
そんな話しあったっけ? 僕的には婚礼すっ飛ばして子供産んじゃったし。式なんてする必要ないと考えてたんだけど。
「主上が煩い」
「帝がですか?」
「仮にも四神の西條家の嫡男。きちんと神前で式を行うのは義務。そう仰られてな」
あ、理玖さんも疲れてる感じがする。ん? つまりこれを着るのは僕って事? でも何で朱雀と玄武なの?
「俺が身に纏うのは白虎と青龍の刺繍が施されたものだ。こっちの方が先に出来たんだな」
この着物、どう見ても男物だよね。つまり、僕は白無垢じゃなくてもいいの?! それは嬉しいけど。
「これに白い袴を合わせる。神前だからな。白が基本だ」
「それは分かるんですけど、どうして朱雀と玄武の刺繍なの?」
僕は疑問を口にする。当然の疑問だと思うんだ。本当なら、理玖さんと同じ柄の着物だと思うし。
「主上のご命令だ。俺が白虎と青龍の力を継承している関係と、心律が星華の母親である関係でこの柄だ」
そんな安直に決めていいものなの? 帝のご命令なら仕方ないと思うけど。しかもこの衣装、凄く高級だと思う。え? この高級な衣装を僕が身に纏うの? 絶対衣装に負けてるよ。恐る恐る理玖さんを伺うと、にっこりと笑みが返ってきた。思わず冷や汗が背を流れるよ。
「拒否権はない」
僕はぐぬぬっとなった。でも結局逆らえないんだ。
「……はい」
そう返事することしか出来なかった。僕は華やかな顔してないのに! 理玖さんも主上も、何より義理の両親も理解して欲しい! そんなこんなで、東條家の美紅さんに愚痴を聞いてもらってます。勿論、理玖さんも一緒に来たけど、僕は珍しく美紅さんと二人きりになりたいって我儘言った。
「珍しいわね。理玖さんを追い出すなんて」
「だって、僕の意見は聞いてくれないから。だから、不満をこう、吐き出したくて」
理玖さんに聞かれてもいいけど、絶対横槍入れてくるもん。僕は難しい顔をして眉間に皺寄せた。
「衣装が豪華すぎる?」
美紅さんは驚いた様に目を見開く。基本、四神の人達って華やかな見た目なんだよ。そう言う美紅さんは一般家庭の人だけど、やっぱり綺麗だし。その中で僕は本当に異質なんだ。
「全面に緻密な刺繍がされてるんだよ。どう見たって僕が衣装に着られてる状態になるよ」
「そう言えば、二人はまだ儀式をしてないのよね?」
「美紅さんは終わってるの?」
美紅さんは頷いた。蒴さんと美紅さんはきちんと式を上げてから深い中になったんだって。αとΩとしては珍しい方だって、美紅さんは笑いながら言った。
「普通に考えてよ。四神の東條家の後継者よ。私なんかが相手にされる訳ないって思うじゃない?」
華族の中でも四神は別格だもんね。僕もね、ずっと理玖さん避けてたな。運命だなって思ったけど、相手にされないのは分かってたし。運命と身分なら身分の方が上でしょう。
「僕もそう思って逃げてたな。理玖さんが記憶を失ってから、こう、グイグイ来られて怖かったし」
記憶を失う前に呼び止められた様な気がするけど、脱兎の如く逃げたよ。何で声をかけて来たのから分からないけど。
「私の時も婚礼衣装があまりに豪華すぎて、腰引けたわね。ほら、金銭感覚が完全に違うじゃない。本人もだけど御両親も気さくで良い方達何だけど。それに、何故か歓喜されてね」
当時の美紅さんは当然、やっかみの対象になったみたい。それ凄く分かる。婚約者ですら無かったのに、僕は橘君に凄く虐められたもんね。他のΩの子達は仕方なく付き合ってたみたいだけど。だって、僕は本当に逃げ回ってた。だから、僕主導でないのは分かってくれてたみたい。それでも四花の橘家のΩは学校では何故か凄い発言権があったように思う。思うだけで本当ではないみたいだけど。お山の大将って感じだったかも。
「多分、血筋の関係だと思うよ。近い血だと駄目なんだって言ってたから」
「それは私も言われたの。新しい血をって」
「近い血同士だと子孫を残す能力が衰えていくんだって」
「そうみたいね」
理玖さんも朔さんも、何を思って番を選んだんだろう。まあ、理玖さんの場合、記憶を無くしたら、僕が運命だって気が付いたみたいだけど。僕的には運命でも恐れ多くて、逃げる一択しかなかった。逃げたのに、如何して捕まったんだろう? まあ、最大の理由が神獣の欠片……。四神って実は大変なんだって思うよ。
「僕、一人で生きていこうと思ってて」
僕の呟きに美紅さんが目を見開いたのが分かる。だってね、当時は知らなかったけど、小鳥遊の人間なんだよ。中等部に入った時、皆んなが何で避けてるのか分からなかった。今なら分かるんだけど。
「Ωで一人で生きていくのは辛いわよ?」
「うん、でもね。ほら、理玖さんって記憶が混濁してた時期があったでしょ。理玖さんにしてみたら、ちょっとした事故だと思うんだ。僕との関係って。僕、蓮は生まれない方がいいと思ってた。小鳥遊の当主が煩く言って来るのは分かってたし」
生まれる前からαだって事は分かってた。如何してって言われると分からないけど。しかも、四神の一角、西條家の血を引いてるんだ。
「だから、何も言わなかったのかしら。朔から聞いてるわ。堕胎しようとしてたって」
「うん。蓮にはもう少し大きくなったら言うつもりなんだ。他人から耳に入るのは本人にしたら不安だと思うし」
僕としては堕胎をした後、奪った命に向き合って生きていこうと思ってた。堕胎だって、立派に殺人でしょ。でも、考えたんだ。もし、一人でひっそり産んだとして、果たして立派に育てられるのかは分からないし。逆に苦労をかけるのなんて分かり切ってた。婚礼の衣装が豪華で気後れするなんて、凄く平和な悩みだって分かってるよ。それでも、僕にお金を掛けるのは間違えてるって思ってる。
「理玖さんも大変ね。ここまで自覚無しだと、心配で休まらないのではないかしら」
美紅さんの言葉に僕ちょっと固まった。如何言う意味。
「私も小鳥遊は知ってるわ。本当に評判の良くなかった一族よ。でも、Ωがいたなんて話は全く聞いていなかったわ。貴方が中等部入って来たと聞いて驚いたくらいよ」
美紅さんの話では、小鳥遊はα至上主義。兎に角、α以外の扱いが酷かったとか。僕は完全に隔離で閉じ込められていて、殆ど情報は無かったから。理玖さんも海斗さんも、お義父さんもお義母さんも顔の表情が歪む程の一族だったのは理解したんだけど。
「そうね。伝えておいた方がいいかしら」
美紅さんが小首を傾げる。何を伝えてくれるの?
「心律君を歓迎している者も確かにいるけど、歓迎してない人もいるのよ」
あ、やっぱり。だってね、僕が外野の立ち位置にいて、こんなΩが西條家次期当主の番だと、受け入れられるかって言ったら疑問だもん。
「そうでしょうね。僕でもそう思いますし」
「そう考えるのが心律君ね。私は心律君を知っているから良い子だって分かるのよ。でも、やっぱり小鳥遊の名前がネックではあるの」
小鳥遊ってどれだけ酷かったんだろう。
「だからね。西條家が心律君を大切にしていて、理玖さんが心律君を唯一だと見せつける必要があるのよ。豪華な衣装もそれに必要な経費なの。分からないと思うけど。私も気後れしてて、朔に文句を言ったのよ。そうしたら、華族ではなく一般の女性Ωを番とする為の必要な手順だって言われたのよ。義両親込みでね。私の両親もそれはそれは驚いていたわ」
四神は特別な一族で、一目置かれる存在。そんな存在が選んだΩが軽く扱われるのは問題があるんだって。美紅さんも無理矢理納得したみたいだった。
「華族の世界は私には分からないわ。だから、朔が言っていることは間違えてないと理解はしてるの。でもね、理解とそれを受け入れられるかは別問題なのよ。今ではそうだったんだと言えるけど、当時は一杯一杯だったわ」
「世界が違うって言うか、僕の場合、まず、閉じ込められて隔離されてたから。それに……」
どうして今なんだろう。だって、緊急事態なんだよ。早く解決しなくちゃいけない事柄があるんだよ。それなのに、どうしてそんなに急いでるんだろう。
「心配事?」
「うーん。ほら、今ちょっと、ゴタゴタしてるのに。そっちが先だと思うんだ」
「ああ、朔は詳しく教えてはくれないけど、複雑な事になってるんだって?」
「うん。皇居にも行かないといけないみたいで」
どうも、考えられない事態が起こってるんだ。僕としては関係ないんじゃないかな。僕達、神様の受肉体でも、僕達がしなくちゃダメなのかな。皇族の人達がするべきだと思うんだけど。
「婚姻を急ぐのはその為だぞ、心律」
「へ?!」
耳元にいきなり囁くような声が聞こえて、慌てて体と視線を向けた。そこにいたのは理玖さん! え? 追い出した筈なんだけど?!
「?!!」
「説明してなかったか?」
ぐぬぬ。最近、理玖さんは意地悪だ。僕の眉間に珍しく皺寄るよ。
「ふふ。心律は可愛いな」
そんな理玖さんの様子に、美紅さんは呆れてる気がする。視線が年下を愛でるものになってるよ。
「あまり虐めてると嫌われるわよ」
あきれを含んだ声音で美紅さんが忠告してくれる。でもね、理玖さんなんだ。どこまでいっても、理玖さんは理玖さんなんだ。そら、笑顔が怖い事になってるよ。朔さんの分かりにくい不機嫌じゃなくて、理玖さんの不機嫌は笑顔なんだ。それも、とびきりじゃない微笑みなんだよね。
「心律を弄っていいのは俺だけの特権だ。奪う権利はないと思うが?」
「ないとは思うけど、度を過ぎれば流石の心律君も考えを改めると思うわ。基本、心律君中心なのは理解してるけど」
美紅さんの言葉に僕は、え? ってなったよ。理玖さんの中心が僕ってありえないよ!
「はあ。理玖さんの気持ちも分かるわよ。心律君は自覚が薄いし。ここまで手放しで溺愛されてるのに自覚が薄すぎて心配なのは分かるわ」
「理解して貰えてありがたい」
「でも、それとこれは別。心律君は擦れてないから純粋すぎてそのまま受け止めるわよ」
え、え?! 僕、そんなにみんなに心配されるレベルなのっ。僕は別の意味で愕然としたよ。そんなに頼りないと思われて……。駄目なのに涙が溢れてきて……。
「ああ、その顔も可愛いけど泣くなっ。頼りないんじゃない。心律が可愛くて愛おしすぎてどうしようもないんだ。αの性だと諦めてくれとお袋に言われなかったか?!」
僕は鼻をひと啜りして思い出す。確かにそう言われてるけど。
「それと、婚姻だがこれから何が起こるか分からない。主上に説明してすぐに、神前での婚姻式を正式にするようにと言われたんだ。もし、見たものが真実なら、婚姻による神の加護を心律に授けてもらわないと絡め取られる危険があるからと」
へ? あ、確かにあの変な床、僕に手を伸ばそうとしてたかも。でも、僕は純潔じゃなかったし、二人も子供を産んでるし。あの床は戸惑ってたんだと思う。それに、最強(最恐)の理玖さんが抱き上げてくれてたし。
「だから、来月には婚姻の儀だ。忘れないように」
ほえ?!!!! 知らないうちに色々決まっていってるよ!!!
「理玖さん。少しは心律君の心情を考えてあげて。見ていて可哀想になってくるわ」
美紅さんの言葉に理玖さんは不適な笑み浮かべたよ!!!
僕の目の前にあるのは綺麗な着物。光沢のある絹に銀糸で全面に刺繍が施されてる。衣桁に掛けられてる。鳥居の形をしてるやつだから、着物の刺繍がよく見えるんだ。四神のうち、朱雀と玄武が刺繍されてる。どうして朱雀と玄武?
「どうして白虎じゃないの?」
僕は疑問を口にした。それ以前に、この衣装何のためのものだろう。白いし、誰かが結婚するのかな? でもそんな話は聞いてないし。蒴さんは式ってしたのかな? でも、ここにあるのはおかしいよね? それに蒴さんなら青龍と玄武だよね? 理玖さんなら白虎と青龍。あれ? 朱雀と玄武なら星華だと思うけど、まだまだ先の話だし。
「届いたのか?」
「あ、理玖さん」
届いたの言葉に僕は首を傾げた。つまりこれって理玖さんが注文したって事だよね。
「婚礼の儀で使う、心律の衣装だ」
「へ?」
「ん? 言ってなかったか?」
そんな話しあったっけ? 僕的には婚礼すっ飛ばして子供産んじゃったし。式なんてする必要ないと考えてたんだけど。
「主上が煩い」
「帝がですか?」
「仮にも四神の西條家の嫡男。きちんと神前で式を行うのは義務。そう仰られてな」
あ、理玖さんも疲れてる感じがする。ん? つまりこれを着るのは僕って事? でも何で朱雀と玄武なの?
「俺が身に纏うのは白虎と青龍の刺繍が施されたものだ。こっちの方が先に出来たんだな」
この着物、どう見ても男物だよね。つまり、僕は白無垢じゃなくてもいいの?! それは嬉しいけど。
「これに白い袴を合わせる。神前だからな。白が基本だ」
「それは分かるんですけど、どうして朱雀と玄武の刺繍なの?」
僕は疑問を口にする。当然の疑問だと思うんだ。本当なら、理玖さんと同じ柄の着物だと思うし。
「主上のご命令だ。俺が白虎と青龍の力を継承している関係と、心律が星華の母親である関係でこの柄だ」
そんな安直に決めていいものなの? 帝のご命令なら仕方ないと思うけど。しかもこの衣装、凄く高級だと思う。え? この高級な衣装を僕が身に纏うの? 絶対衣装に負けてるよ。恐る恐る理玖さんを伺うと、にっこりと笑みが返ってきた。思わず冷や汗が背を流れるよ。
「拒否権はない」
僕はぐぬぬっとなった。でも結局逆らえないんだ。
「……はい」
そう返事することしか出来なかった。僕は華やかな顔してないのに! 理玖さんも主上も、何より義理の両親も理解して欲しい! そんなこんなで、東條家の美紅さんに愚痴を聞いてもらってます。勿論、理玖さんも一緒に来たけど、僕は珍しく美紅さんと二人きりになりたいって我儘言った。
「珍しいわね。理玖さんを追い出すなんて」
「だって、僕の意見は聞いてくれないから。だから、不満をこう、吐き出したくて」
理玖さんに聞かれてもいいけど、絶対横槍入れてくるもん。僕は難しい顔をして眉間に皺寄せた。
「衣装が豪華すぎる?」
美紅さんは驚いた様に目を見開く。基本、四神の人達って華やかな見た目なんだよ。そう言う美紅さんは一般家庭の人だけど、やっぱり綺麗だし。その中で僕は本当に異質なんだ。
「全面に緻密な刺繍がされてるんだよ。どう見たって僕が衣装に着られてる状態になるよ」
「そう言えば、二人はまだ儀式をしてないのよね?」
「美紅さんは終わってるの?」
美紅さんは頷いた。蒴さんと美紅さんはきちんと式を上げてから深い中になったんだって。αとΩとしては珍しい方だって、美紅さんは笑いながら言った。
「普通に考えてよ。四神の東條家の後継者よ。私なんかが相手にされる訳ないって思うじゃない?」
華族の中でも四神は別格だもんね。僕もね、ずっと理玖さん避けてたな。運命だなって思ったけど、相手にされないのは分かってたし。運命と身分なら身分の方が上でしょう。
「僕もそう思って逃げてたな。理玖さんが記憶を失ってから、こう、グイグイ来られて怖かったし」
記憶を失う前に呼び止められた様な気がするけど、脱兎の如く逃げたよ。何で声をかけて来たのから分からないけど。
「私の時も婚礼衣装があまりに豪華すぎて、腰引けたわね。ほら、金銭感覚が完全に違うじゃない。本人もだけど御両親も気さくで良い方達何だけど。それに、何故か歓喜されてね」
当時の美紅さんは当然、やっかみの対象になったみたい。それ凄く分かる。婚約者ですら無かったのに、僕は橘君に凄く虐められたもんね。他のΩの子達は仕方なく付き合ってたみたいだけど。だって、僕は本当に逃げ回ってた。だから、僕主導でないのは分かってくれてたみたい。それでも四花の橘家のΩは学校では何故か凄い発言権があったように思う。思うだけで本当ではないみたいだけど。お山の大将って感じだったかも。
「多分、血筋の関係だと思うよ。近い血だと駄目なんだって言ってたから」
「それは私も言われたの。新しい血をって」
「近い血同士だと子孫を残す能力が衰えていくんだって」
「そうみたいね」
理玖さんも朔さんも、何を思って番を選んだんだろう。まあ、理玖さんの場合、記憶を無くしたら、僕が運命だって気が付いたみたいだけど。僕的には運命でも恐れ多くて、逃げる一択しかなかった。逃げたのに、如何して捕まったんだろう? まあ、最大の理由が神獣の欠片……。四神って実は大変なんだって思うよ。
「僕、一人で生きていこうと思ってて」
僕の呟きに美紅さんが目を見開いたのが分かる。だってね、当時は知らなかったけど、小鳥遊の人間なんだよ。中等部に入った時、皆んなが何で避けてるのか分からなかった。今なら分かるんだけど。
「Ωで一人で生きていくのは辛いわよ?」
「うん、でもね。ほら、理玖さんって記憶が混濁してた時期があったでしょ。理玖さんにしてみたら、ちょっとした事故だと思うんだ。僕との関係って。僕、蓮は生まれない方がいいと思ってた。小鳥遊の当主が煩く言って来るのは分かってたし」
生まれる前からαだって事は分かってた。如何してって言われると分からないけど。しかも、四神の一角、西條家の血を引いてるんだ。
「だから、何も言わなかったのかしら。朔から聞いてるわ。堕胎しようとしてたって」
「うん。蓮にはもう少し大きくなったら言うつもりなんだ。他人から耳に入るのは本人にしたら不安だと思うし」
僕としては堕胎をした後、奪った命に向き合って生きていこうと思ってた。堕胎だって、立派に殺人でしょ。でも、考えたんだ。もし、一人でひっそり産んだとして、果たして立派に育てられるのかは分からないし。逆に苦労をかけるのなんて分かり切ってた。婚礼の衣装が豪華で気後れするなんて、凄く平和な悩みだって分かってるよ。それでも、僕にお金を掛けるのは間違えてるって思ってる。
「理玖さんも大変ね。ここまで自覚無しだと、心配で休まらないのではないかしら」
美紅さんの言葉に僕ちょっと固まった。如何言う意味。
「私も小鳥遊は知ってるわ。本当に評判の良くなかった一族よ。でも、Ωがいたなんて話は全く聞いていなかったわ。貴方が中等部入って来たと聞いて驚いたくらいよ」
美紅さんの話では、小鳥遊はα至上主義。兎に角、α以外の扱いが酷かったとか。僕は完全に隔離で閉じ込められていて、殆ど情報は無かったから。理玖さんも海斗さんも、お義父さんもお義母さんも顔の表情が歪む程の一族だったのは理解したんだけど。
「そうね。伝えておいた方がいいかしら」
美紅さんが小首を傾げる。何を伝えてくれるの?
「心律君を歓迎している者も確かにいるけど、歓迎してない人もいるのよ」
あ、やっぱり。だってね、僕が外野の立ち位置にいて、こんなΩが西條家次期当主の番だと、受け入れられるかって言ったら疑問だもん。
「そうでしょうね。僕でもそう思いますし」
「そう考えるのが心律君ね。私は心律君を知っているから良い子だって分かるのよ。でも、やっぱり小鳥遊の名前がネックではあるの」
小鳥遊ってどれだけ酷かったんだろう。
「だからね。西條家が心律君を大切にしていて、理玖さんが心律君を唯一だと見せつける必要があるのよ。豪華な衣装もそれに必要な経費なの。分からないと思うけど。私も気後れしてて、朔に文句を言ったのよ。そうしたら、華族ではなく一般の女性Ωを番とする為の必要な手順だって言われたのよ。義両親込みでね。私の両親もそれはそれは驚いていたわ」
四神は特別な一族で、一目置かれる存在。そんな存在が選んだΩが軽く扱われるのは問題があるんだって。美紅さんも無理矢理納得したみたいだった。
「華族の世界は私には分からないわ。だから、朔が言っていることは間違えてないと理解はしてるの。でもね、理解とそれを受け入れられるかは別問題なのよ。今ではそうだったんだと言えるけど、当時は一杯一杯だったわ」
「世界が違うって言うか、僕の場合、まず、閉じ込められて隔離されてたから。それに……」
どうして今なんだろう。だって、緊急事態なんだよ。早く解決しなくちゃいけない事柄があるんだよ。それなのに、どうしてそんなに急いでるんだろう。
「心配事?」
「うーん。ほら、今ちょっと、ゴタゴタしてるのに。そっちが先だと思うんだ」
「ああ、朔は詳しく教えてはくれないけど、複雑な事になってるんだって?」
「うん。皇居にも行かないといけないみたいで」
どうも、考えられない事態が起こってるんだ。僕としては関係ないんじゃないかな。僕達、神様の受肉体でも、僕達がしなくちゃダメなのかな。皇族の人達がするべきだと思うんだけど。
「婚姻を急ぐのはその為だぞ、心律」
「へ?!」
耳元にいきなり囁くような声が聞こえて、慌てて体と視線を向けた。そこにいたのは理玖さん! え? 追い出した筈なんだけど?!
「?!!」
「説明してなかったか?」
ぐぬぬ。最近、理玖さんは意地悪だ。僕の眉間に珍しく皺寄るよ。
「ふふ。心律は可愛いな」
そんな理玖さんの様子に、美紅さんは呆れてる気がする。視線が年下を愛でるものになってるよ。
「あまり虐めてると嫌われるわよ」
あきれを含んだ声音で美紅さんが忠告してくれる。でもね、理玖さんなんだ。どこまでいっても、理玖さんは理玖さんなんだ。そら、笑顔が怖い事になってるよ。朔さんの分かりにくい不機嫌じゃなくて、理玖さんの不機嫌は笑顔なんだ。それも、とびきりじゃない微笑みなんだよね。
「心律を弄っていいのは俺だけの特権だ。奪う権利はないと思うが?」
「ないとは思うけど、度を過ぎれば流石の心律君も考えを改めると思うわ。基本、心律君中心なのは理解してるけど」
美紅さんの言葉に僕は、え? ってなったよ。理玖さんの中心が僕ってありえないよ!
「はあ。理玖さんの気持ちも分かるわよ。心律君は自覚が薄いし。ここまで手放しで溺愛されてるのに自覚が薄すぎて心配なのは分かるわ」
「理解して貰えてありがたい」
「でも、それとこれは別。心律君は擦れてないから純粋すぎてそのまま受け止めるわよ」
え、え?! 僕、そんなにみんなに心配されるレベルなのっ。僕は別の意味で愕然としたよ。そんなに頼りないと思われて……。駄目なのに涙が溢れてきて……。
「ああ、その顔も可愛いけど泣くなっ。頼りないんじゃない。心律が可愛くて愛おしすぎてどうしようもないんだ。αの性だと諦めてくれとお袋に言われなかったか?!」
僕は鼻をひと啜りして思い出す。確かにそう言われてるけど。
「それと、婚姻だがこれから何が起こるか分からない。主上に説明してすぐに、神前での婚姻式を正式にするようにと言われたんだ。もし、見たものが真実なら、婚姻による神の加護を心律に授けてもらわないと絡め取られる危険があるからと」
へ? あ、確かにあの変な床、僕に手を伸ばそうとしてたかも。でも、僕は純潔じゃなかったし、二人も子供を産んでるし。あの床は戸惑ってたんだと思う。それに、最強(最恐)の理玖さんが抱き上げてくれてたし。
「だから、来月には婚姻の儀だ。忘れないように」
ほえ?!!!! 知らないうちに色々決まっていってるよ!!!
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