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第二章 街
③家出
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すっかり夕日が落ちてから、レオンを乗せた馬車は町外れにある自宅へと到着した。
見慣れた小さな木造の家の前には薄暗い中、人影があった。
なんと家の前で椅子に座り、腕を組んでいる父を見てさすがに何事かとレオンも慌て出した。
「父さん、こんなところで何を!!風邪をひきます。まさか、ずっと待っていたんですか?」
「おう、レオンか。立派なナリして見違えたな。ちっと話があってな」
中へ入れと言って父は顎を横に動かした。荷物は適当に入り口に置いてもらった後、従者には帰ってもらい、とりあえず台所に座って話を聞くことにした。
「ん……?アデルは?外ですか?」
「んー…、あー……、それなんだがな。出てっちまった」
「はあ!?」
「あまりにも言うことを聞かないもんだからよ、出てけって言ったらそのまま……。まぁ、一応悪いと思って家の前で待ってはみたが、帰ってこないんだ」
「わっ…悪いって……、アデルは年頃の女の子ですよ!この国では貴重な女子です。学園へ行ってそのことがよく分かりました。アデルが出ていったのはいつですか?お昼頃ですか?」
「いつかと言われれば……、三日前だな」
父の発言に開いた口がふさがらなかった。悪いと思って一応外で待ってはいたのだろう。それしかできない人であることが、今は腹立たしくて仕方がなかった。
「信じられない!どこにも探しに行かないなんて!」
レオンはシドヴィスにもらった服を脱いで、町で目立たない地味な服装に着替えた。荷物を持って外に出ようとすると父がまた声をかけてきた。
「どこを探すって言うんだ。あいつが行きそうなところも分からないんだろう?」
「こんなところでじっとしているよりマシです!」
「プレジールだ。あいつがよく仲間と溜まっていた店。どうせ男の家に泊まっているんだろう」
父の言葉を聞いた後、何も答えずレオンは家から飛び出した。三日前、どんな口論があってアデルが家を飛び出したのか、想像はついた。きっと、シドヴィスとの婚約について連絡をしたから、父はアデルを見放すようなことを言ったのだろう。
父の性格をもっと考えてから報告すべきだったとレオンは後悔した。
月明かりと夜店からこぼれていいる明かりを頼りに、夜道をレオンは走り続けた。
息を切らしながら辿り着いたのは、父が行っていた酒場のプレジールだった。
暗くなって間もないというのに、すでに酔客が入り口に座りこんで、樽酒をあおっていた。
オイルランプの光で、店内は昼間と見間違うくらい明るかった。もともとここは父が常連だった店だ。子供の頃、何度も酔いつぶれた父を迎えに行った。とくに母親が出てってからは毎日のように酔いつぶれていたので、迎えに行くのはレオンの役目だった。
店に入ったら客は好きな席に着き、店の女性に接客を受けるシステムだと父から聞いていた。
空いている席に座ると、すぐに若い女性が注文を取りにやってきた。
「あら!…え?アデル?久しぶりじゃない?雰囲気変わった?男の子みたいな格好して……」
「すみません、俺はアデルの兄なんです」
そう言うと女性店員は、あー、どうりでよく似ているのねと言って、レオンの顔をまじまじと見てきた。
「今日はアデルのことで聞きたいことがあって………」
「あら?何かしら?」
「実は、父と口論になって家を飛び出してしまって。探したいのですが、心当たりがなくて困っているんです」
腕組みをしてしばらく考えた後、女性店員はマイルスだわと呟いた。
「昔はよく下町の連中と集まっていたけど、あの子仲間から抜けたのよ。つまんないとか言って、三週間くらい前かしらね。その後、久々にふらりとやって来て、もう少ししたら金持ちの奥さんになるって自慢してたわよ」
アデルなりに貴族との結婚を見据えていたのだろうか、身辺整理をしたようだった。
「マイルスってのは、アデルの昔の男なんだけど、ちょっとヤバイやつでさ。仲間を抜けたアデルを探し回ってて、見つかったら大変だからしばらく隠れていたらって言ったんだけど、あの子大丈夫よなんて言って笑ってて……。あら、なんか嫌な感じしてきたわ。もしかしたら、マイルスに見つかったのかも、それで……その……危ないことになっているんじゃ……」
「……マイルスですか。その人はどこに?」
「隣町だよ。そこの町長の息子さ。プライドが高くて嫌なやつで、悪い連中とも繋がっている危ないやつだよ」
すぐに席を立って向かおうとしたレオンを女性店員は止めた。この時間は隣町に入る門が閉められているらしい。
「夜は賊も出るし、行くなら朝に出る荷馬車に乗せてもらいな。どっちにしろ、マイルスに会うなら家か、宿屋マンテンを訪ねてみて。それに、できたら誰か連れていった方がいい。アンタ目立つし男だけど綺麗な顔しているから……」
「ありがとうございます。あの、少ないですけどこれで……」
レオンはお礼を言って、一杯分の料金を置いて店を出た。勢いで飛び出して確かに夜通し歩くには危険な道だ。忠告通り、朝出発することにして、一度家に戻ることにした。
「どうだ、アデルはいたか?」
さすがに気にかけていたのだろう。家の前に父が立って待っていたが、レオンは明日隣町に行くと言って家に入ってすぐ自分の部屋にこもった。
手がかりは少なく、アデルはそこにいるかも分からない。シドヴィスがいたら、どんなに心強いかと考えてレオンは頭を振った。
シドヴィスを頼ってばかりではだめだ、ここは兄として自分が決断して動かなければとレオンは心に言い聞かせた。
必ずアデルを助け出す、そう思いながら眠れない夜を越したのだった。
□□
翌朝、早速支度をして家を出ようとしていたレオンはがらがらと音を立てて、家に近づいてくる大きな馬車を見つけた。
一瞬シドヴィスが来てくれたのかと思ったが、それにしては早すぎる。誰が来たのかと外へ出たら、中から出てきた男に驚いて声を上げてしまった。
「えっ…!?ディオ!!」
「よっ!アデル!って!なんて男みたいな格好してるんだよ……」
「あっ…えぇと……、これには……色々あってですね………ディオはなぜここに?」
ディオの金色の髪が朝日に当たってキラキラと輝いていた。よく日焼けしたような浅黒い肌は、町の男達と同じような色だが上品さがあった。
「うちの領に帰る途中なんだけど、そういえばこの辺りにアデルの家があるって聞いたから、いたら挨拶だけして帰ろうかと思ってさ。どこかに出かける途中だったのか?」
「あっ…そうです。すみません、わざわざ……。これから隣町に行くので、事情があってちょっと急いでいて……」
話をしながらディオの目線が顔から下に落ちていくのが分かった。レオンはなにかと思っていたら、頭を上げたディオは思い切り怪しんだ顔をしていた。
「……アデルの胸って……、そんなに平らだったっけ……」
ごもっともな意見にレオンは頭がクラリとした。しかし、詳しい話をしている場合ではないのだ。
「先程も言いましたが、色々と事情があるのですが、急いでいて……」
「いいぜ、隣町だろ。送ってやるから、その事情ってやつ、道中にちゃんと聞かせてもらおうか」
ありがたい提案なのだが、これ以上ごまかせそうにない。しかし、荷馬車に乗せてもらうより明らかに早く到着することを考えると、アデルのことを優先に考えて話すしかないとレオンは覚悟を決めた。
「分かりました。すぐにでも出発したいので、いいですか?」
レオンが強い瞳でディオを見つめると、ディオも頷いてから乗れと言ってドアを開けてくれた。
果たしてこれから向かう先にアデルがいるのか、大きな不安を抱えながら馬車に乗り込んだのだった。
□□□
見慣れた小さな木造の家の前には薄暗い中、人影があった。
なんと家の前で椅子に座り、腕を組んでいる父を見てさすがに何事かとレオンも慌て出した。
「父さん、こんなところで何を!!風邪をひきます。まさか、ずっと待っていたんですか?」
「おう、レオンか。立派なナリして見違えたな。ちっと話があってな」
中へ入れと言って父は顎を横に動かした。荷物は適当に入り口に置いてもらった後、従者には帰ってもらい、とりあえず台所に座って話を聞くことにした。
「ん……?アデルは?外ですか?」
「んー…、あー……、それなんだがな。出てっちまった」
「はあ!?」
「あまりにも言うことを聞かないもんだからよ、出てけって言ったらそのまま……。まぁ、一応悪いと思って家の前で待ってはみたが、帰ってこないんだ」
「わっ…悪いって……、アデルは年頃の女の子ですよ!この国では貴重な女子です。学園へ行ってそのことがよく分かりました。アデルが出ていったのはいつですか?お昼頃ですか?」
「いつかと言われれば……、三日前だな」
父の発言に開いた口がふさがらなかった。悪いと思って一応外で待ってはいたのだろう。それしかできない人であることが、今は腹立たしくて仕方がなかった。
「信じられない!どこにも探しに行かないなんて!」
レオンはシドヴィスにもらった服を脱いで、町で目立たない地味な服装に着替えた。荷物を持って外に出ようとすると父がまた声をかけてきた。
「どこを探すって言うんだ。あいつが行きそうなところも分からないんだろう?」
「こんなところでじっとしているよりマシです!」
「プレジールだ。あいつがよく仲間と溜まっていた店。どうせ男の家に泊まっているんだろう」
父の言葉を聞いた後、何も答えずレオンは家から飛び出した。三日前、どんな口論があってアデルが家を飛び出したのか、想像はついた。きっと、シドヴィスとの婚約について連絡をしたから、父はアデルを見放すようなことを言ったのだろう。
父の性格をもっと考えてから報告すべきだったとレオンは後悔した。
月明かりと夜店からこぼれていいる明かりを頼りに、夜道をレオンは走り続けた。
息を切らしながら辿り着いたのは、父が行っていた酒場のプレジールだった。
暗くなって間もないというのに、すでに酔客が入り口に座りこんで、樽酒をあおっていた。
オイルランプの光で、店内は昼間と見間違うくらい明るかった。もともとここは父が常連だった店だ。子供の頃、何度も酔いつぶれた父を迎えに行った。とくに母親が出てってからは毎日のように酔いつぶれていたので、迎えに行くのはレオンの役目だった。
店に入ったら客は好きな席に着き、店の女性に接客を受けるシステムだと父から聞いていた。
空いている席に座ると、すぐに若い女性が注文を取りにやってきた。
「あら!…え?アデル?久しぶりじゃない?雰囲気変わった?男の子みたいな格好して……」
「すみません、俺はアデルの兄なんです」
そう言うと女性店員は、あー、どうりでよく似ているのねと言って、レオンの顔をまじまじと見てきた。
「今日はアデルのことで聞きたいことがあって………」
「あら?何かしら?」
「実は、父と口論になって家を飛び出してしまって。探したいのですが、心当たりがなくて困っているんです」
腕組みをしてしばらく考えた後、女性店員はマイルスだわと呟いた。
「昔はよく下町の連中と集まっていたけど、あの子仲間から抜けたのよ。つまんないとか言って、三週間くらい前かしらね。その後、久々にふらりとやって来て、もう少ししたら金持ちの奥さんになるって自慢してたわよ」
アデルなりに貴族との結婚を見据えていたのだろうか、身辺整理をしたようだった。
「マイルスってのは、アデルの昔の男なんだけど、ちょっとヤバイやつでさ。仲間を抜けたアデルを探し回ってて、見つかったら大変だからしばらく隠れていたらって言ったんだけど、あの子大丈夫よなんて言って笑ってて……。あら、なんか嫌な感じしてきたわ。もしかしたら、マイルスに見つかったのかも、それで……その……危ないことになっているんじゃ……」
「……マイルスですか。その人はどこに?」
「隣町だよ。そこの町長の息子さ。プライドが高くて嫌なやつで、悪い連中とも繋がっている危ないやつだよ」
すぐに席を立って向かおうとしたレオンを女性店員は止めた。この時間は隣町に入る門が閉められているらしい。
「夜は賊も出るし、行くなら朝に出る荷馬車に乗せてもらいな。どっちにしろ、マイルスに会うなら家か、宿屋マンテンを訪ねてみて。それに、できたら誰か連れていった方がいい。アンタ目立つし男だけど綺麗な顔しているから……」
「ありがとうございます。あの、少ないですけどこれで……」
レオンはお礼を言って、一杯分の料金を置いて店を出た。勢いで飛び出して確かに夜通し歩くには危険な道だ。忠告通り、朝出発することにして、一度家に戻ることにした。
「どうだ、アデルはいたか?」
さすがに気にかけていたのだろう。家の前に父が立って待っていたが、レオンは明日隣町に行くと言って家に入ってすぐ自分の部屋にこもった。
手がかりは少なく、アデルはそこにいるかも分からない。シドヴィスがいたら、どんなに心強いかと考えてレオンは頭を振った。
シドヴィスを頼ってばかりではだめだ、ここは兄として自分が決断して動かなければとレオンは心に言い聞かせた。
必ずアデルを助け出す、そう思いながら眠れない夜を越したのだった。
□□
翌朝、早速支度をして家を出ようとしていたレオンはがらがらと音を立てて、家に近づいてくる大きな馬車を見つけた。
一瞬シドヴィスが来てくれたのかと思ったが、それにしては早すぎる。誰が来たのかと外へ出たら、中から出てきた男に驚いて声を上げてしまった。
「えっ…!?ディオ!!」
「よっ!アデル!って!なんて男みたいな格好してるんだよ……」
「あっ…えぇと……、これには……色々あってですね………ディオはなぜここに?」
ディオの金色の髪が朝日に当たってキラキラと輝いていた。よく日焼けしたような浅黒い肌は、町の男達と同じような色だが上品さがあった。
「うちの領に帰る途中なんだけど、そういえばこの辺りにアデルの家があるって聞いたから、いたら挨拶だけして帰ろうかと思ってさ。どこかに出かける途中だったのか?」
「あっ…そうです。すみません、わざわざ……。これから隣町に行くので、事情があってちょっと急いでいて……」
話をしながらディオの目線が顔から下に落ちていくのが分かった。レオンはなにかと思っていたら、頭を上げたディオは思い切り怪しんだ顔をしていた。
「……アデルの胸って……、そんなに平らだったっけ……」
ごもっともな意見にレオンは頭がクラリとした。しかし、詳しい話をしている場合ではないのだ。
「先程も言いましたが、色々と事情があるのですが、急いでいて……」
「いいぜ、隣町だろ。送ってやるから、その事情ってやつ、道中にちゃんと聞かせてもらおうか」
ありがたい提案なのだが、これ以上ごまかせそうにない。しかし、荷馬車に乗せてもらうより明らかに早く到着することを考えると、アデルのことを優先に考えて話すしかないとレオンは覚悟を決めた。
「分かりました。すぐにでも出発したいので、いいですか?」
レオンが強い瞳でディオを見つめると、ディオも頷いてから乗れと言ってドアを開けてくれた。
果たしてこれから向かう先にアデルがいるのか、大きな不安を抱えながら馬車に乗り込んだのだった。
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