男だって愛されたい!

朝顔

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第二章 街

④二つのピンチ

「で、俺の目にはどう見ても、アデルが男に見えるんだけど。どういうことなんだよ」

 馬車が動き出す前に、ディオは直ぐに切り込んで来た。ここまできて、ごまかしている場合ではないので、レオンは素直に認めることにした。

「………ええ、その通りです。アデルは俺の妹です」

「はぁ…やっぱりな。どうりで俺の蕁麻疹が出ないと思った。女に触られるとだいたい発疹が出るんだよ。で?妹を押し退けて学園に行きたかったってやつ?女装が趣味ってわけでもなさそうだな。やけに結婚に燃えてたあれは?」

 疑問が次々と飛び出してくるディオに、レオンは入れ替わりについて初めから説明することになった。


 □


「なるほど……、だいたいの事情は分かった。お前は兄のレオンで、シドにだけはバレてるってことなんだな。シドのやつ、俺には言わずにイチャイチャしやがって……」

「あ…それは、俺が口止めしていたので……、シドは何も……」

「まぁ、いいよ。なんだか面白そうな話だし、で?いつまでそれを続けるんだ?アデルの縁談が決まったら交代するのか?」

「……それが、シドと俺は婚約することになって……長期休みを利用してお互いの親に報告をと……」

「だっ…!もう、そんなところまで!!」

 同じ代表生なのに何も言わなすぎだと、ディオにチクりと言われたが、最後にはおめでとうと付け加えてくれた。最初はツンツンしていた印象だったディオとも、打ち解けられるようになった。

「まぁ、お前がレオンになってくれたから、俺的には接しやすくなったわ。それで、熱烈な婚約をされてる二人がなんで一緒にいないんだよ」

「シドの家にいるときに父にから至急戻るように連絡があって、慌てて帰ってきたら、アデルが家を出てしまっていて行方不明なんです」

「なっ…!なんだって!!お前、それを早く言えよ!」

「俺が…俺が絶対見つけないといけないんです。アデルがいなくなったのは、軽率に父に連絡してしまった俺のせいで……」

「そんなことはどうでもい!!」

 泣き言のようなレオンの言葉をディオは大きな声を出して一喝した。

「今はそんなことじゃないだろう!アデルの行きそうなところに心当たりはないのか?友人や?目撃情報は?隣町に手がかりがあるのか?」

「酒場の店員からの情報で、アデルが前に付き合っていた隣町の男に付きまとわれていることが分かりました。危険そうな男らしくて、今のところ手がかりはそれだけで、これから会いに行こうと………」

 よし、俺もそこに行くぞと急にディオが言い出したので、レオンは驚きで目を開いた。

「そっ…そんな、ディオに迷惑をかけられないです!」

「バカ野郎!ここまで聞いて、じゃあ頑張ってって言えるか!一人で探すより二人の方が見つかる可能性が高いだろう。だいたいそんな危険な男のところに一人で乗り込んでいくのか?武器も持たずに?アホか!お前は!」

 男だと分かったからか、ディオの言葉は容赦がない。しかし、そこに込められた優しさにレオンは泣きそうになった。

「ディオ……、本当にありがとうございます。俺、もうまともに…考えられなくて……」

「シドはこの事を知ってるのか?」

 レオンが首を振ると、すぐにジェラルダン家に伝令を送る手配をしてくれた。
 今日シドは王宮へいっているはずである。謁見が終わり次第こっちへ来てくれることになっているが、なるべくシドに心配をかける前に、アデルを見つけたかった。

「アデルは女だからな……」

 ディオがぽつりと呟いた言葉に事態の重さが現れていた。
 無事でいてくれることを願いながら、少しでも早く着いて欲しいとレオンは窓から外を見た。
 のどかな田園地帯が、急く胸の中の景色と違い過ぎて、不安の闇は広がるばかりだった。



 □□


 レオンが住む王都から南に下りた港町フリーデルは、漁船や貿易の船の出入りが絶えず賑やかな町である。
 旧三国時代、かつてはジェラルダン家が治める土地であった。近隣の国との貿易も盛んで、様々な人種が入り雑じって暮らしている。

 町の長を務めるのはドーマス・イデオンという男で、ディオも会ったことがあるらしい。
 町に着いて早速その息子、マイルスに会いにイデオン家の屋敷へ向かった。

 時間がないから手っ取り早くいくぞとディオが自分の名前を出して、ドーマスとの面会を申し出た。御三家のご令息の登場にイデオン家は大騒ぎで誰もが走り回ることになった。
 どうも主人であるドーマスは不在で、息子のマイルスに会いたいというと、ドーマス夫人は青くなって震えてしまった。

「あの子が…、また何かご迷惑をかけたのでしょうか」

「いえ、知人を探しておりまして、マイルスと仲が良かったという話を聞いたのです。それで、居場所を知っていたら教えてほしかったのですが……」

「わざわざお越しいただいて申し訳ございません。マイルスは町の宿屋にいることが多くて……ここにはあまり……」

「分かりました。では、そちらを訪ねてみます」

 外向きの顔のディオは違う人のようで何だか落ち着かなかったが、次の情報を得たのでレオンは早く行きたくてイデオン家を飛び出した。

「アホ!場所分かっているのか!?何も知らずに飛び出すやつがいるか!!」

 レオンは外へ出て少し走ったところで、追い付いてきたディオに背中を掴まれて止められた。

「しっかりしろ!とにかく、お前に何かあったら、一緒にいる俺がシドに殺される。まずはマイルスを探すことが目的なんだろ。俺の側を離れるな!」

 ディオに一喝されてレオンの頭はやっと冷静さを取り戻した。焦って動いてもよけいに時間がかかるだけだと気がついたのだ。大人しくすみませんと言って、ディオの後ろについて歩いていくことになった。

「……くそっ、フリーデルはシドが昔住んでいたから、あいつの方が詳しいんだ。ったく、こんな時にいつもいなくて、俺はだいたい泥だらけで走り回らされて、最終局面で優雅に登場するのがシドって男だよ。あいつを待っている時間はないから、宿屋マンテンに乗り込むぞ!」

「はい!」

「で、お前、剣はどれくらい使えるんだ?」

「………握ったこともありません。俺は商人の子供ですよ」

 ため息をつきながらディオは頭を抱えた。よく考えたら、話し合いでどうこうできる相手ではないかもしれないのだ。

「もし大人数で来られたらマズイな。仕方ない。俺の名前を出しても向かってくるなら、相当おかしいやつらだ。もしヤバくなったらお前一人でも逃げろ」

「まさか……!そんな!」

「アデルを助けるのが先だ。俺なら利用価値があるだろうから、すぐに殺されることはない」

 俺は返事をしなかったが、最悪の事態も想定しておかなければいけない。
 少しでも話が通じる相手であることを願って、宿屋への道を急いだのだった。



 □□



「それでは、これでシドヴィス様とレオン殿の婚約についての書類は問題ないです。こちらで審議された後、正式に発表させていただきます。まぁ審議と言っても形だけですから」

「ええ、よろしくお願いいたします」

 王宮の事務官に書類を提出して一息ついたシドヴィスは、次のレオンの家に向かうために王宮の廊下を歩いていた。

 そこに自分の名前を呼ぶ、家の者の姿を発見して、嫌な予感に思わず顔をしかめた。

「なんですか……。また、兄達ですか?」

「そうです。昨夜、お兄様方が花街で女性とお金のことでトラブルを起こして、連絡が取れなくなってしまい……。今、全力で探していますが、もしかしたら、アーサーと呼ばれる組織と揉め事になってしまったかもしれないようで……」

「アーサーとは、キングアーサーですね……。また、やっかいな相手と……」

 頭を押さえたシドヴィスは、これまでの兄達の数々の問題を思い出していた。

 双子の兄達は、二人揃ってプライドが高く傲慢で、他人を認めるということを知らなかった。
 確かに何をやっても、そつなくこなしてしまう弟がいて、良い気持ちではなかったかもしれない。
 シドヴィスが物心つくころには、立派なトラブルメーカーで、数々の問題をいつも父親に謝らせて金て解決させてきた。

 女性とお金で面倒を起こすことなど日常茶飯事だ。しかし、今回の相手のアーサーという名前には、目をつぶってはいられなかった。

 キングアーサーというのは、裏社会でのトップに君臨する男の名前を意味する。その名前は周辺国にも広く知られていて、花街を牛耳っていることはもちろん、黒い商売にはほとんどと言っていいほとアーサーの組織が関わっていた。

「とにかく、一度レオンの家に顔出したらすぐに、そちらにも加勢しますので……」

 シドヴィスが馬車に乗り込む寸前、こんどは別の使者がシドヴィスの名前を呼びながらかけてきた。

 次はなんだとため息をついたシドヴィスに、使者はディオからの使いだと言ってきた。

「レオン様の妹君のアデル様が行方不明になり、レオン様は偶然居合わせたディオ様と二人で隣町のフリーデルに向かっています。どうやら、アデル様は素行の悪いフリーデルの町長の息子と付き合っていたらしく、連れ去れた可能性が高いです」

「なっ………なんですって……」

 レオンの名前を聞いたら、シドヴィスの頭からは兄達のことなど飛んでいってしまった。

「すぐに、フリーデルへ向かってください!」

 フリーデルは、シドヴィスが子供の頃住んでいたこともある場所だった。
 港町ということもあり、様々な人種が入り乱れている。血なまぐさい事件が起きることもあり、活気のある日中はいいが、夜の治安はあまり良くない。

「……レオン、どうか……無事でいてください」

 シドヴィスの心を表すように、晴れていた空には暗雲が立ち込めてきた。嵐の予感を感じながら、レオンの元に向かって走り出したのだった。



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