四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜

最上 虎々

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第四章 爆発

第四十六話 誘拐

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 ガラテヤ様が誘拐された。

 時は模擬戦明けの夜、彼女の部屋に残されていたバグラディからの手紙が全てを物語っていた。

「ガラテヤ・モネ・ベルメリアは預かった。返して欲しくば、翌日の夕暮れ時、マハト霊山の頂へ、一人で来い。かの地にて、交渉に応じるとの意思が確認でき次第、彼女は返してやる。交渉内容は以下の通りだ。『ジィン・ヤマト・セラムは、ベルメリア家解体の手引きを行います』、『バグラディ革命団の一員として、革命までの道を共に歩むことを誓います』。以上を承認しない限り、貴様の主人は帰ってこないものだと思え」

「これは……どうやら緊急事態のようね」

「メイラークム先生!バグラディは、貴方が蹴り飛ばして気絶させてやったんじゃあないんですか!?」

「ええ、そうよ。そして、確かに地下牢へ閉じ込めておいたハズなのに、どうして……?」

「俺が知る訳ありませんよ!……クソッ!どうすれば……」

 ここまで追い詰められたのはいつ以来だろうか。

 バグラディをどんな目に遭わせてやるかはさておき……明日の夕暮れ時に、俺が一人でこの状況をどう打開するかを考えなければ。

 易々と条件を飲む訳にはいかない。
 しかし、ガラテヤ様の身に何かあっては困る。

 俺はファルシオンと弓矢を用意して、何か策は無いものかと頭を捻る。

「……ジィン。ガラテヤはきっと無事だ。あの子が簡単に死ぬ訳がない」

「分かってます!分かってますけど……」

 マーズさんが声をかけてくれるが、それをまともに聞くことができる程、俺は冷静では無かった。

「……ジィンお兄さん。おいらに、何かできること無い?」

「じゃあ、武器の整備を頼もうかな……。はぁ」

 現場に行けるのが俺一人である以上、明日にならない限り、どうにもならない。とりあえず今はできることをやらなければ。

「ジィン君、一度冷静になるんだよ。焦っていちゃ、思い浮かぶものも思い浮かばない」

「分かってるってば!でも無理なんだって!大切なご主人様が誘拐される俺の気持ちを察してくれよ……」

「ああ……うん。わかった。僕には何もできそうに無いけど、ま、頑張って」

「はいはいありがとう!……ああーッ!心配だし腹立つし!クソッ!」

 この行き場のない気持ちを、もどかしさをどこへやったものか。

 皆に心配させても、俺が応対できない以上は仕方がない。

「……ジィン君。私達、一旦失礼するわね。講堂で待たせている皆の対応もしなきゃいけないし、ジィン君も、一人の方が冷静になれるでしょう?」

 それを察したのか、メイラークム先生が皆を引き連れて、俺の部屋から出るように促してくれた。

「そうですね。ありがとうございます、メイラークム先生」

「……頑張ってね、ジィン君」

「勿論です。アイツ、タダじゃおきません。マジで」

「そうしてやりなさい。じゃあ、また明日」

「……はぁ」

 どうしたものか。
 数時間、鏡に映る自分と格闘した末に、俺は一つの策を捻り出した。

 弓矢を使えば、或いは。

 ベッドに座り、矢に風の魔力を込め始める。
 少しずつ、少しずつ。
 威力は要らない。
 ただ、注いだ魔力が長く保つように。

 細いストローの内側、その中心に一本の糸を通すように、ゆっくり、ゆっくりと風の魔力を注ぎ続けた。

 気を張りながら、風の魔力を注ぎ続けること数時間。
 月も出ず真っ暗だった空には、いつの間にか朝日が昇り始めていた。

「……さて、準備段階最終フェイズといこうか」

 自分を鼓舞するためにそう呟き、そして俺はベッドの上で横になった。

 目を覚ました時には、殺意マシマシの俺がいる。

 しかしその殺意も、肉体がついていかなければ意味が無い。

 そのためにも、俺はぐっすりと眠ることにしたのだ。
 正直、気が気ではない。
 当然、安心して熟睡できる状況ではない。
 それでも、俺は身体と脳を休めなければならなかったのだ。
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