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第四章 爆発
第四十七話 鬼を狩る鬼
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模擬戦翌日、昼頃、
俺は私服にファルシオンと弓矢、そして秘蔵の風を纏わせた特別な矢を持ち、マハト霊山へと向かった。
「じゃあ、行ってきます」
俺はパーティの皆とケーリッジ先生、ムーア先生、メイラークム先生に見送られ、獣道を登っていく。
この山は大して高くない。
数時間歩けば、普通に歩いていても山頂まで辿り着くことができる程だ。
しかし、バグラディが上から攻撃をしてこないという保証も無い。
俺は周囲を警戒しながら、少しずつ山頂へ近づいていった。
山を登っていくと、広場が見えてきた。
ここは、模擬戦の時にガラテヤ様に告白された広場だ。
今までアプローチをかけていたのは俺の方だが、まさかここでガラテヤ様にアタックされることになるとは。
あの時の言葉に応えるために。
皆で無事に王都へ帰って、二人でデートするために。
俺はガラテヤ様を助ける覚悟を今一度決め直し、広場を抜ける。
バグラディが何を企んでいるかは、大体分かった。
アイツは、そういう類の人間だ。
バグラディの恨みを「終わらせてやる」では無いが、何とか誤解を解かなければならない。
一度はガラテヤ様に沈められ、二度目をメイラークム先生達に沈められても懲りないと言うのならば、三度目も沈めるまでである。
それも、これまでとは比べ物にならない程、完膚なきまでに叩き潰す。
世界が思い通りになったら嬉しいのは、皆同じだ。
あくまでもそちらがそう言うのであれば、俺にだって考えがある。
山頂が近づくにつれて、胸騒ぎはどんどん大きくなっていく。
そして、頂を示す看板が目に入った瞬間。
瞳に映る、不適な笑みを浮かべたバグラディが網膜に映ると同時に、俺は弓を引いていた。
「よう、ジィン。随分と熱くなってんじゃあねェか」
「当然だろ、こっちは主人を誘拐されてんだよ」
「だが……少しは冷静になれよ?でないと、交渉が思うようにいかねェだろうが。それに、矢も明後日の方向に飛んで行っちまったぜ?」
俺が放った例の風を纏った矢は、バグラディに掠るどころか、見当違いの方向へ飛んでいってしまう。
「ハァ、ハァ……悪いな、もしかしたら矢が当たるかも知れないと思ったんだ」
「無駄な足掻きはやめろ。ホラ、お前の愛するガラテヤ様なら、俺の後ろにいるぜ」
バグラディに誘導されるまま山頂に顔を覗かせると、そこには服がところどころ破れる程に痛めつけられた上で、大木に縛りつけられているガラテヤ様の姿があった。
「ガラテヤ様ッ!……いくら敵同士とはいえ、これが、世界をより良いものに変えようと、民を解放しようとしている人間のやる事とは。片腹痛いな」
「ほざけ。お前ら権力者は、民には含まれていない。……さあ、それが分かったら、とっととこの契約書にサインをしろ。その契約書には、俺特製の魔法陣が刻まれている。俺が示した条件を飲み、目的を達成するまで……その魔法陣は効果を発揮し続けるのさ」
得意げな表情で、契約書の仕様を説明するバグラディ。
「……破ったらどうなる?」
「お前の身体が一瞬で消し炭と化す」
「こりゃまた大層な魔法で。……で、筆記用具は?筆とかペンとか、そういうの無いワケ?」
「ハ?お前が用意して来るんだろうが。俺は条件さえ飲めば、この女を解放してやるっつってんだよォ。お前が用意するんだよ、こういう時は」
「あー、ごめんごめん。じゃ、貸して」
「無いから言ってんだ……あ、あった。ホラ、ペン貸してやるから、早く名前を書けや」
「……チッ。えーっと、あっ、ペン落としちゃった」
「何やってんだァ!拾って来い!」
「あーハイハイ、スンマセンスンマセン。……あれ、この辺だったっけな。ここでもない、ここでもない……」
「早くしろォ!コイツがどうなっても良いのかァ!」
バグラディは痺れを切らしてきたのか、ペンを探す俺を怒鳴りつける。
「ダメだから今探してるんだろうが。こっちは契約書にサインする気はあるっつってんだ、落としたペンを探すのも待てないのか?器が小さいなぁ」
「いいから早くしろっつってんだァ!」
「うーんと、えー……っと……。ああ、あった!これだよな、ペンって」
「それだから早く名前を書けェ!」
「分かった、分かったって……そう怒んなよ。……あれ、ジィンってどう書くんだっけ」
「ンンンン!!!」
バグラディのイライラは最高潮に達したようである。
とうとうガラテヤ様の首元にナイフを突き立て始めた。
「参ったなあ。俺、実は異国の出身でさ……この国の文字、実は全部覚え切れてるか怪しいんだわ」
「あと五つ数える内に書け!さもないと、この女は殺す!そしてその次は、お前も一緒にあの世へ連れて行ってやるぞッ!」
嘘は言っていない。
俺はソドム出身で、最も長く滞在しているのは日本だ。
「……へー。あ、そろそろ時間稼ぎ終わりかなー。……いいの?そんな事言って」
「ハァ?」
「あと三つ数える内に、ガラテヤ様から離れろ。さもないと酷い目に遭う」
「何言ってんだ?気でも狂ったかァ?」
「これは予言だ。マジの予言。ほら数えるぞ、三、二、一」
「決めた!もう決めた!ガラテヤ・モネ・ベルメリア!まず、お前を殺すッ!その次にジィン!お前も殺す!うおああああああああああああァァァァ!」
突き立てられたナイフが、勢いをつけてガラテヤ様の首元へ三寸の距離まで迫る。
「ゼロ」
しかし俺がカウントダウンを終えると同時に、ナイフが握られたバグラディの右手を、俺が山頂の看板を見た際に放った風を纏う矢が貫いた。
「はっ、ガァァァァァァァ!?」
「だから言ったんだ。酷い目に遭うって」
「き、貴様ァァァァ!」
拳に炎を纏い、バグラディはこちらへ向かって来る。
「【駆ける風】!」
「は、速い……!」
「風牙の太刀……『蜘蛛手』を応用した、更なる風の洗礼……。喰らえ。【女郎蜘蛛】!!!」
しかし、俺は後退しながら風を纏った刃を「蜘蛛手」よりも多く、そして激しく、他方向から飛ばした。
「ぐォッ、オオオオオオオオッ!?」
「フゥ……。そして、本番はこれからだ。俺がこの一日で、僅か一日の間に溜め切った怒りを……全てぶつけてやる」
「ハァ、ハァ……!許さねェ、許すものかァァァ……!【戦終……!」
これより繰り出すは、「風車」を改良した、新たなる剣技。
風を超えた霊の力を剣に込め、回転しながら、巨大な魔力の螺旋を描く。
「奥義……【曲威裂】」
「……ァ……ガ」
魔力を纏った刃が、回転と共にバグラディの全身を抉る。
両腕、両足、胴体、頭部。
急所はあえて外しつつ、それ以外の全てを抉り取りながら、俺自身は懐深くへ潜り込んでいく。
「これで終わりだ。もういっぺん頭冷やしとけ、盲目カス野郎」
「ア……」
そして一撃、みぞおちに魔力を纏った拳を叩き込み、その勢いで顎までを突き上げた。
その勢いで吹き飛び、バグラディは山頂から、メイラークム男爵邸の方へと転げ落ちていく。
そこで、後をつけていたらしいメイラークム先生とムーア先生、そしてマーズさんとファーリちゃんがバグラディを受け止め、すぐさま拘束具でその身を捕縛。
「『バグラディ・ガレア』。貴様を、誘拐罪と傷害罪、殺人未遂……その他諸々の疑いで現行犯逮捕、拘束する。これは元王国騎士たる、私の権限だ。……ジィン君、よくやってくれた。君とはやはり、いずれ手合わせしてみたいものだな」
この世界の法律は、どうやらしっかりしているらしい。
そしてムーア先生による速やかな拘束、やはり流石である。
「ま、またいつか、別日でお願いします……それと、ガラテヤ様をよろしく……ぐは」
しかし、よほど無理をしたのか。
俺はその場で倒れ込み、全身を蝕む痛みに意識を持って行かれてしまった。
俺は私服にファルシオンと弓矢、そして秘蔵の風を纏わせた特別な矢を持ち、マハト霊山へと向かった。
「じゃあ、行ってきます」
俺はパーティの皆とケーリッジ先生、ムーア先生、メイラークム先生に見送られ、獣道を登っていく。
この山は大して高くない。
数時間歩けば、普通に歩いていても山頂まで辿り着くことができる程だ。
しかし、バグラディが上から攻撃をしてこないという保証も無い。
俺は周囲を警戒しながら、少しずつ山頂へ近づいていった。
山を登っていくと、広場が見えてきた。
ここは、模擬戦の時にガラテヤ様に告白された広場だ。
今までアプローチをかけていたのは俺の方だが、まさかここでガラテヤ様にアタックされることになるとは。
あの時の言葉に応えるために。
皆で無事に王都へ帰って、二人でデートするために。
俺はガラテヤ様を助ける覚悟を今一度決め直し、広場を抜ける。
バグラディが何を企んでいるかは、大体分かった。
アイツは、そういう類の人間だ。
バグラディの恨みを「終わらせてやる」では無いが、何とか誤解を解かなければならない。
一度はガラテヤ様に沈められ、二度目をメイラークム先生達に沈められても懲りないと言うのならば、三度目も沈めるまでである。
それも、これまでとは比べ物にならない程、完膚なきまでに叩き潰す。
世界が思い通りになったら嬉しいのは、皆同じだ。
あくまでもそちらがそう言うのであれば、俺にだって考えがある。
山頂が近づくにつれて、胸騒ぎはどんどん大きくなっていく。
そして、頂を示す看板が目に入った瞬間。
瞳に映る、不適な笑みを浮かべたバグラディが網膜に映ると同時に、俺は弓を引いていた。
「よう、ジィン。随分と熱くなってんじゃあねェか」
「当然だろ、こっちは主人を誘拐されてんだよ」
「だが……少しは冷静になれよ?でないと、交渉が思うようにいかねェだろうが。それに、矢も明後日の方向に飛んで行っちまったぜ?」
俺が放った例の風を纏った矢は、バグラディに掠るどころか、見当違いの方向へ飛んでいってしまう。
「ハァ、ハァ……悪いな、もしかしたら矢が当たるかも知れないと思ったんだ」
「無駄な足掻きはやめろ。ホラ、お前の愛するガラテヤ様なら、俺の後ろにいるぜ」
バグラディに誘導されるまま山頂に顔を覗かせると、そこには服がところどころ破れる程に痛めつけられた上で、大木に縛りつけられているガラテヤ様の姿があった。
「ガラテヤ様ッ!……いくら敵同士とはいえ、これが、世界をより良いものに変えようと、民を解放しようとしている人間のやる事とは。片腹痛いな」
「ほざけ。お前ら権力者は、民には含まれていない。……さあ、それが分かったら、とっととこの契約書にサインをしろ。その契約書には、俺特製の魔法陣が刻まれている。俺が示した条件を飲み、目的を達成するまで……その魔法陣は効果を発揮し続けるのさ」
得意げな表情で、契約書の仕様を説明するバグラディ。
「……破ったらどうなる?」
「お前の身体が一瞬で消し炭と化す」
「こりゃまた大層な魔法で。……で、筆記用具は?筆とかペンとか、そういうの無いワケ?」
「ハ?お前が用意して来るんだろうが。俺は条件さえ飲めば、この女を解放してやるっつってんだよォ。お前が用意するんだよ、こういう時は」
「あー、ごめんごめん。じゃ、貸して」
「無いから言ってんだ……あ、あった。ホラ、ペン貸してやるから、早く名前を書けや」
「……チッ。えーっと、あっ、ペン落としちゃった」
「何やってんだァ!拾って来い!」
「あーハイハイ、スンマセンスンマセン。……あれ、この辺だったっけな。ここでもない、ここでもない……」
「早くしろォ!コイツがどうなっても良いのかァ!」
バグラディは痺れを切らしてきたのか、ペンを探す俺を怒鳴りつける。
「ダメだから今探してるんだろうが。こっちは契約書にサインする気はあるっつってんだ、落としたペンを探すのも待てないのか?器が小さいなぁ」
「いいから早くしろっつってんだァ!」
「うーんと、えー……っと……。ああ、あった!これだよな、ペンって」
「それだから早く名前を書けェ!」
「分かった、分かったって……そう怒んなよ。……あれ、ジィンってどう書くんだっけ」
「ンンンン!!!」
バグラディのイライラは最高潮に達したようである。
とうとうガラテヤ様の首元にナイフを突き立て始めた。
「参ったなあ。俺、実は異国の出身でさ……この国の文字、実は全部覚え切れてるか怪しいんだわ」
「あと五つ数える内に書け!さもないと、この女は殺す!そしてその次は、お前も一緒にあの世へ連れて行ってやるぞッ!」
嘘は言っていない。
俺はソドム出身で、最も長く滞在しているのは日本だ。
「……へー。あ、そろそろ時間稼ぎ終わりかなー。……いいの?そんな事言って」
「ハァ?」
「あと三つ数える内に、ガラテヤ様から離れろ。さもないと酷い目に遭う」
「何言ってんだ?気でも狂ったかァ?」
「これは予言だ。マジの予言。ほら数えるぞ、三、二、一」
「決めた!もう決めた!ガラテヤ・モネ・ベルメリア!まず、お前を殺すッ!その次にジィン!お前も殺す!うおああああああああああああァァァァ!」
突き立てられたナイフが、勢いをつけてガラテヤ様の首元へ三寸の距離まで迫る。
「ゼロ」
しかし俺がカウントダウンを終えると同時に、ナイフが握られたバグラディの右手を、俺が山頂の看板を見た際に放った風を纏う矢が貫いた。
「はっ、ガァァァァァァァ!?」
「だから言ったんだ。酷い目に遭うって」
「き、貴様ァァァァ!」
拳に炎を纏い、バグラディはこちらへ向かって来る。
「【駆ける風】!」
「は、速い……!」
「風牙の太刀……『蜘蛛手』を応用した、更なる風の洗礼……。喰らえ。【女郎蜘蛛】!!!」
しかし、俺は後退しながら風を纏った刃を「蜘蛛手」よりも多く、そして激しく、他方向から飛ばした。
「ぐォッ、オオオオオオオオッ!?」
「フゥ……。そして、本番はこれからだ。俺がこの一日で、僅か一日の間に溜め切った怒りを……全てぶつけてやる」
「ハァ、ハァ……!許さねェ、許すものかァァァ……!【戦終……!」
これより繰り出すは、「風車」を改良した、新たなる剣技。
風を超えた霊の力を剣に込め、回転しながら、巨大な魔力の螺旋を描く。
「奥義……【曲威裂】」
「……ァ……ガ」
魔力を纏った刃が、回転と共にバグラディの全身を抉る。
両腕、両足、胴体、頭部。
急所はあえて外しつつ、それ以外の全てを抉り取りながら、俺自身は懐深くへ潜り込んでいく。
「これで終わりだ。もういっぺん頭冷やしとけ、盲目カス野郎」
「ア……」
そして一撃、みぞおちに魔力を纏った拳を叩き込み、その勢いで顎までを突き上げた。
その勢いで吹き飛び、バグラディは山頂から、メイラークム男爵邸の方へと転げ落ちていく。
そこで、後をつけていたらしいメイラークム先生とムーア先生、そしてマーズさんとファーリちゃんがバグラディを受け止め、すぐさま拘束具でその身を捕縛。
「『バグラディ・ガレア』。貴様を、誘拐罪と傷害罪、殺人未遂……その他諸々の疑いで現行犯逮捕、拘束する。これは元王国騎士たる、私の権限だ。……ジィン君、よくやってくれた。君とはやはり、いずれ手合わせしてみたいものだな」
この世界の法律は、どうやらしっかりしているらしい。
そしてムーア先生による速やかな拘束、やはり流石である。
「ま、またいつか、別日でお願いします……それと、ガラテヤ様をよろしく……ぐは」
しかし、よほど無理をしたのか。
俺はその場で倒れ込み、全身を蝕む痛みに意識を持って行かれてしまった。
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