四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜

最上 虎々

文字の大きさ
51 / 177
第四章 爆発

第四十七話 鬼を狩る鬼

しおりを挟む
 模擬戦翌日、昼頃、

 俺は私服にファルシオンと弓矢、そして秘蔵の風を纏わせた特別な矢を持ち、マハト霊山へと向かった。

「じゃあ、行ってきます」

 俺はパーティの皆とケーリッジ先生、ムーア先生、メイラークム先生に見送られ、獣道を登っていく。

 この山は大して高くない。

 数時間歩けば、普通に歩いていても山頂まで辿り着くことができる程だ。

 しかし、バグラディが上から攻撃をしてこないという保証も無い。

 俺は周囲を警戒しながら、少しずつ山頂へ近づいていった。

 山を登っていくと、広場が見えてきた。
 ここは、模擬戦の時にガラテヤ様に告白された広場だ。

 今までアプローチをかけていたのは俺の方だが、まさかここでガラテヤ様にアタックされることになるとは。

 あの時の言葉に応えるために。
 皆で無事に王都へ帰って、二人でデートするために。

 俺はガラテヤ様を助ける覚悟を今一度決め直し、広場を抜ける。

 バグラディが何を企んでいるかは、大体分かった。

 アイツは、そういう類の人間だ。

 バグラディの恨みを「終わらせてやる」では無いが、何とか誤解を解かなければならない。

 一度はガラテヤ様に沈められ、二度目をメイラークム先生達に沈められても懲りないと言うのならば、三度目も沈めるまでである。
 それも、これまでとは比べ物にならない程、完膚なきまでに叩き潰す。

 世界が思い通りになったら嬉しいのは、皆同じだ。
 あくまでもそちらがそう言うのであれば、俺にだって考えがある。

 山頂が近づくにつれて、胸騒ぎはどんどん大きくなっていく。

 そして、頂を示す看板が目に入った瞬間。
 瞳に映る、不適な笑みを浮かべたバグラディが網膜に映ると同時に、俺は弓を引いていた。

「よう、ジィン。随分と熱くなってんじゃあねェか」

「当然だろ、こっちは主人を誘拐されてんだよ」

「だが……少しは冷静になれよ?でないと、交渉が思うようにいかねェだろうが。それに、矢も明後日の方向に飛んで行っちまったぜ?」

 俺が放った例の風を纏った矢は、バグラディに掠るどころか、見当違いの方向へ飛んでいってしまう。

「ハァ、ハァ……悪いな、もしかしたら矢が当たるかも知れないと思ったんだ」

「無駄な足掻きはやめろ。ホラ、お前の愛するガラテヤ様なら、俺の後ろにいるぜ」

 バグラディに誘導されるまま山頂に顔を覗かせると、そこには服がところどころ破れる程に痛めつけられた上で、大木に縛りつけられているガラテヤ様の姿があった。

「ガラテヤ様ッ!……いくら敵同士とはいえ、これが、世界をより良いものに変えようと、民を解放しようとしている人間のやる事とは。片腹痛いな」

「ほざけ。お前ら権力者は、民には含まれていない。……さあ、それが分かったら、とっととこの契約書にサインをしろ。その契約書には、俺特製の魔法陣が刻まれている。俺が示した条件を飲み、目的を達成するまで……その魔法陣は効果を発揮し続けるのさ」

 得意げな表情で、契約書の仕様を説明するバグラディ。

「……破ったらどうなる?」

「お前の身体が一瞬で消し炭と化す」

「こりゃまた大層な魔法で。……で、筆記用具は?筆とかペンとか、そういうの無いワケ?」

「ハ?お前が用意して来るんだろうが。俺は条件さえ飲めば、この女を解放してやるっつってんだよォ。お前が用意するんだよ、こういう時は」

「あー、ごめんごめん。じゃ、貸して」

「無いから言ってんだ……あ、あった。ホラ、ペン貸してやるから、早く名前を書けや」

「……チッ。えーっと、あっ、ペン落としちゃった」

「何やってんだァ!拾って来い!」

「あーハイハイ、スンマセンスンマセン。……あれ、この辺だったっけな。ここでもない、ここでもない……」

「早くしろォ!コイツがどうなっても良いのかァ!」

 バグラディは痺れを切らしてきたのか、ペンを探す俺を怒鳴りつける。

「ダメだから今探してるんだろうが。こっちは契約書にサインする気はあるっつってんだ、落としたペンを探すのも待てないのか?器が小さいなぁ」

「いいから早くしろっつってんだァ!」

「うーんと、えー……っと……。ああ、あった!これだよな、ペンって」

「それだから早く名前を書けェ!」

「分かった、分かったって……そう怒んなよ。……あれ、ジィンってどう書くんだっけ」

「ンンンン!!!」

 バグラディのイライラは最高潮に達したようである。
 とうとうガラテヤ様の首元にナイフを突き立て始めた。

「参ったなあ。俺、実は異国の出身でさ……この国の文字、実は全部覚え切れてるか怪しいんだわ」

「あと五つ数える内に書け!さもないと、この女は殺す!そしてその次は、お前も一緒にあの世へ連れて行ってやるぞッ!」

 嘘は言っていない。
 俺はソドム出身で、最も長く滞在しているのは日本だ。

「……へー。あ、そろそろ時間稼ぎ終わりかなー。……いいの?そんな事言って」

「ハァ?」

「あと三つ数える内に、ガラテヤ様から離れろ。さもないと酷い目に遭う」

「何言ってんだ?気でも狂ったかァ?」

「これは予言だ。マジの予言。ほら数えるぞ、三、二、一」

「決めた!もう決めた!ガラテヤ・モネ・ベルメリア!まず、お前を殺すッ!その次にジィン!お前も殺す!うおああああああああああああァァァァ!」

 突き立てられたナイフが、勢いをつけてガラテヤ様の首元へ三寸の距離まで迫る。

「ゼロ」

 しかし俺がカウントダウンを終えると同時に、ナイフが握られたバグラディの右手を、俺が山頂の看板を見た際に放った風を纏う矢が貫いた。

「はっ、ガァァァァァァァ!?」

「だから言ったんだ。酷い目に遭うって」

「き、貴様ァァァァ!」

 拳に炎を纏い、バグラディはこちらへ向かって来る。

「【駆ける風】!」

「は、速い……!」

「風牙の太刀……『蜘蛛手くもで』を応用した、更なる風の洗礼……。喰らえ。【女郎蜘蛛じょろうぐも】!!!」

 しかし、俺は後退しながら風を纏った刃を「蜘蛛手くもで」よりも多く、そして激しく、他方向から飛ばした。

「ぐォッ、オオオオオオオオッ!?」

「フゥ……。そして、本番はこれからだ。俺がこの一日で、僅か一日の間に溜め切った怒りを……全てぶつけてやる」

「ハァ、ハァ……!許さねェ、許すものかァァァ……!【戦終せんしゅう……!」

 これより繰り出すは、「風車」を改良した、新たなる剣技。

 風を超えた霊の力を剣に込め、回転しながら、巨大な魔力の螺旋を描く。

「奥義……【曲威裂くるいざき】」

「……ァ……ガ」

 魔力を纏った刃が、回転と共にバグラディの全身を抉る。

 両腕、両足、胴体、頭部。
 急所はあえて外しつつ、それ以外の全てを抉り取りながら、俺自身は懐深くへ潜り込んでいく。

「これで終わりだ。もういっぺん頭冷やしとけ、盲目カス野郎」

「ア……」

 そして一撃、みぞおちに魔力を纏った拳を叩き込み、その勢いで顎までを突き上げた。

 その勢いで吹き飛び、バグラディは山頂から、メイラークム男爵邸の方へと転げ落ちていく。

 そこで、後をつけていたらしいメイラークム先生とムーア先生、そしてマーズさんとファーリちゃんがバグラディを受け止め、すぐさま拘束具でその身を捕縛。

「『バグラディ・ガレア』。貴様を、誘拐罪と傷害罪、殺人未遂……その他諸々の疑いで現行犯逮捕、拘束する。これは元王国騎士たる、私の権限だ。……ジィン君、よくやってくれた。君とはやはり、いずれ手合わせしてみたいものだな」

 この世界の法律は、どうやらしっかりしているらしい。
 そしてムーア先生による速やかな拘束、やはり流石である。

「ま、またいつか、別日でお願いします……それと、ガラテヤ様をよろしく……ぐは」

 しかし、よほど無理をしたのか。
 俺はその場で倒れ込み、全身を蝕む痛みに意識を持って行かれてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】  普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。 (しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます) 【キャラクター】 マヤ ・主人公(元は如月真也という名前の男) ・銀髪翠眼の少女 ・魔物使い マッシュ ・しゃべるうさぎ ・もふもふ ・高位の魔物らしい オリガ ・ダークエルフ ・黒髪金眼で褐色肌 ・魔力と魔法がすごい 【作者から】 毎日投稿を目指してがんばります。 わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも? それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

空手馬鹿の俺が転生したら規格外の治癒士になっていた 〜筋力Eのひ弱少年治癒士が高みを目指す!?〜

くまみ
ファンタジー
 前世は空手部主将の「ゴリラ」男。転生先は……筋力Eのひ弱な少年治癒士!?  「資質がなんだ!俺の拳は魔法を超える!……と、思うけど……汗」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  俺は五里羅門(ごり・らもん) 35歳独身男だ。硬派すぎて女が寄り付かず。強すぎる空手愛と鍛え抜かれた肉体のせいで不本意ながら通称「ゴリラ」と呼ばれていた。  仕事帰りにダンプに跳ねられた俺が目覚めると、そこは異世界だった。だが転生した姿は前世とは真逆。  病弱で華奢。戦闘力最低と言われる職業の「治癒士」(ヒーラー)適正の10歳の少年・ノエル。  「俺は戦闘狂だぞ!このひ弱な体じゃ、戦えねぇ!  「華奢でひ弱な体では、空手技を繰り出すのは夢のまた夢……」  魔力と資質が全てのこの世界。努力では超えられない「資質の壁」が立ちふさがる。  だが、空手馬鹿の俺の魂は諦めることを知らなかった。  「魔法が使えなきゃ、技で制す!治癒士が最強になっちゃいけないなんて誰が決めた?」  これは魔法の常識を「空手の技」で叩き壊す、一人の少年の異世界武勇伝。    伝説の騎士、美少女魔術師、そして謎の切り株(?)を巻き込み、ノエルの規格外の挑戦が今始まる!    

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

処理中です...