四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜

最上 虎々

文字の大きさ
71 / 177
第六章 悪性胎動

第六十六話 補填

しおりを挟む
 俺は「仮設教務棟」の保健室にいるメイラークム先生の元を訪ねた。

 用件はもちろん、腰を痛めてしまったムーア先生の面倒を見てもらうためである。

「あら、ムーア先生と……ジィン君にガラテヤちゃん?どうしたのかしら?」

「ホホホ……ちょっとヤンチャしていたら、腰をやってしまいましてな……ジィンさんとガラテヤ様に、ここまで肩を貸してもらったのですよ」

「模擬戦中に無理が祟って……ってところかしら?」

「大正解です。ムーア先生が腰やられてなかったら負けるところでした。……という訳で、処置をお願いします。それと、メイラークム先生も無事そうで何よりです」

「ええ。ジィン君もガラテヤちゃんも、無事で良かったわ」

 メイラークム先生の無事も確認できたところで、俺達はムーア先生を置いて、保健室を後にする。

「これから……どうする?」

「とりあえず、武器屋に寄ってもいいですか?いつまでもナナシちゃんの刀を使う訳にはいかないので」

「ナナシちゃん……自爆させられた剣士の子の」

「ええ。あの時装備してたものが軒並み破壊されたもので……だから、今は遺品を借りているんです。でも……これはムーア先生にも言われましたけど、いくら武装を破壊されたとはいえ、いつまでも遺品を持っておく訳にもいかないので。そろそろ、自分のものを用意しなきゃと思ったんです」

「そう。それなら……すぐそこの『アドラの武器工房』なんてどうかしら?オープンしたばかりの武器専門店らしいのだけれど……戦いの巻き添えになって、建物が少し壊れちゃったらしくて。新規開拓と応援の気持ちも含めて、行ってみない?」

「いいですね、新しいお店。ワクワクします」

 そうと決まれば、話は早い。
 俺達は「アドラの武器工房」なる武器屋へ向かい、オープンしていることを確認して入店することにした。

「……アラぁ~!革命団との戦い以来、初めてのお客様ね!アドラの武器工房へよ~こそ!アタシはアドラ!武器のコトなら任せてちょ、う、だいっ!」

 扉を開けた瞬間、立ち上がってカウンターからこちらを見つめる男性。

 この人が店主なのだろうが……いかにもマダムといった口調といい、クネクネとした仕草といい、随分とクセが強そうな人である。

「店主さん、この子に合いそうな剣……できれば刀を、何点かピックアップしてもらえるかしら?」

「ん~!いいワよ!アタシってば、ステキな戦士の武器を選ぶのは得意分野なの!」

 ガラテヤ様が言うと、アドラさんはすぐに売り場からシミターとファルシオンを一振りずつ、そして店の奥から薙刀と刀を取り出して、カウンターに並べた。

「おお……」

「ウフ、どうかしら!体つきと立ち振る舞いから、片刃の武器が似合うと思ったんだケド!」

「大正解です……!よく分かりましたね」

 この店主、只者ではない。
 今までどんな人生を歩んできたのかは知らないが、何か相当な修羅場を潜ってきたのか、或いは才能なのか……いずれにせよ、「片手剣」であるとか、「槍」であるといったような分け方ではなく、「片刃」を得意とするということにまで、この短時間で気付いていたことに、俺は驚きを隠せなかった。

「デショ~?アタシの目に狂いは無いのヨ!さっ、好きなの選んで!……でも、特に刀と薙刀はちょっと高いから……持ち合わせが無ければ見るだけでも良いし、取り置きもしてあげるワ!」

「ありがとう、店主さん」

「……どうしようか」

「ン~!好きなだけ悩んでチョーダイッ!ここで取り扱ってる武器は、どれも一級品!アタシが自信を持ってオススメできるモノしか置いてないカラ……どれを買っても、後悔はしないハズよ!……でも」

「ん?何です?」

「その刀も、中々イイと思うわ。店側の人間が言うのもなんだケド、今すぐ変える必要も無いと思うのヨ」

「いやぁ……でもこれ……装備を軒並みブッ壊された代わりとして、相手の遺品を勝手に借りてるだけなので……」

「アラ、そうなの?流石のアタシもそこまでは見抜けなかったケド……でも、何か……『理解』るのヨ」

「そ、そう……ですか……でも、本人に許可を取った訳じゃなかった以上、一応ちゃんとした自分用の武器は持っておきたいので……そうだなぁ。……まあ、無難にコレ、買います!」

 俺は刀を手に取り、アドラさんに手渡す。

「刀ネ!コレは刀の中でも、安くて品質も良いお買い得品だから……六万ネリウスってトコかしら?どう?大丈夫?」

「大丈夫です。騎士なので、武器代はある程度までなら家から手当が出ますから」

「アラ、そう!じゃあ、鞘と研石もオマケしとおくワ!お買い上げありがとう、ステキな騎士チャン!」
 
 俺は代金を渡して、新たな刀をナナシちゃんの刀と並べて左側の腰に下げながら、武器を見て回っていたガラテヤ様の手を取って武器工房を出る。

「大事にしますね、この刀!」

「ええ!また武器のことで相談したくなったら、お話だけでもいらっしゃーい!」

 俺達が扉を閉め切るまで、アドラさんは手を振ってくれていた。
 もしかしなくても、あの店主さんはクセこそ強かったが、間違いなく良い人であった。

「さ、これで準備もできたし……今日はとりあえず、二人が入院している病院の近くに宿をとりましょ。もう間も無く、二人も退院するみたいだし……早ければ、明日にでも合流できるハズよ」

「……これから、本当に忙しくなりますね」

「ええ。行方不明者が、本当に行方をくらましているだけであることを祈るわ」

「そうですね。……父さん、ロディア……二人とも、生きて……ますよね、きっと」

「……そうだと、良いわね」

 しかし、俺達の表情は中々明るくはならなかった。

 魔法薬のおかげで、マーズさんもファーリちゃんも、すぐに復帰できるようになったが……行方不明者の捜索や壊れた建物の修理など、まだまだ問題は山積みである。

 俺達は、しばらくの苦しい日々を覚悟しながら、当然のように同じベッドへ寝転がった。

「……いや、何で?」

「これから忙しくなるんだから、こんな風に寝れるのも、今日でしばらくお預けかもしれないじゃない。私達、もう恋人なのよ?たまには一緒に寝るくらい、しても良いんじゃあなくって?」

「俺としては喜んで、ですけど……」

「なら、大丈夫よね。……こうして一緒のベッドで寝るのなんて、いつ以来かしら」

「ガラテヤ様が俺の寝てるところに忍び込んできたことはここ一年以内でも何回かあると思いますけどね」

「違くて。本当に、一緒の布団で一緒に寝ることよ。……前世以来じゃない?」

「そりゃそうですね。十二歳って……早めとは言え、この世界では普通に結婚できちゃいますからね。付き合っていることは隠してないとはいえ、まだ子供にしか見えない子爵の娘が騎士と寝たなんてことになったらヤバいですって。まさか、ただの添い寝って言い訳は通じないでしょうし」

「そうね……。でも共に冒険して、事件を解決して……ってなった今、ある程度は許されちゃいそうだから……今日は一緒に寝よ!ジィン君!」

 呼び方は「ジィン君」のままだが、喋り方が徐々に尊姉ちゃんに戻っている。
 俺と出会ったばかりの頃は、キャラ作りでやっていたらしい「ガラテヤ様モード」も、今ではすっかり板についてきて、だんだんとガラテヤ様が「尊姉ちゃん」の部分を、ただの「記憶」として受け取るようになってきているのだろう。

 少し寂しいが、それでも眼前で可愛らしい寝顔を晒す少女は、俺の愛する姉であり、ご主人様であり、彼女なのだ。

 例えるならば、「最も記憶に残ったゲームをプレイしていた時の思い出」に似ているのだろうか。

 俺が三度目以前の人生をそう思っているように、ガラテヤ様も、きっとそうなのだと。
 それ程までに、今の人生を大切にしてくれているのだろうと、俺は勝手に思うことにしたのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート

みーくん
ファンタジー
気づいたら異世界に飛ばされていた、おっさん大工。 唯一の武器は、腰につけた工具袋—— …って、これ中身無限!?釘も木材もコンクリも出てくるんだけど!? 戸惑いながらも、拾った(?)ギャル魔法少女や謎の娘たちと家づくりを始めたおっさん。 土木工事からリゾート開発、果てはダンジョン探索まで!? 「異世界に家がないなら、建てればいいじゃない」 今日もおっさんはハンマー片手に、愛とユーモアと魔法で暮らしをDIY! 建築×育児×チート×ギャル “腰袋チート”で異世界を住みよく変える、大人の冒険がここに始まる! 腰活(こしかつっ!)よろしくお願いします

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

処理中です...