四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜

最上 虎々

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第六章 悪性胎動

第六十五話 剣士ムーア

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 ムーア先生の剣さばきは、やはり達人の領域である。

 一瞬の隙さえも見逃されることは無く、こちらが攻撃すればする程、不利になってしまう。

「……やっぱり、強いですね」

「ほっほっほ。私もまだまだです。……とはいえ、伊達に子供の頃から剣を振っておりません。多少は腕に覚えがあるのもまた事実……模擬戦ではありますが、それなりのご覚悟を」

 マーズさん達と共に受けた模擬戦の際、ムーア先生は木刀を使っていた。
 しかし、今回は訳が違う。
 実戦に用いていたサーベルを、時に大波のように、時にせせらぎのように振り、こちらの攻撃を全て弾いている。

 こちらも軽くて鋭いナナシちゃんの刀を使っているからか、何とかついていけてはいるものの……追い詰められるのは時間の問題だろう。
 攻撃しているのはこちらのハズなのに、頭はカウンターとなる斬撃を回避することでいっぱいなのである。

「風牙の太刀……【風車かざぐるま】!」

「【斬獲ざんえ】!フンッ!」

 足元に風を纏わせて高く飛び上がった上で、拡散する風の刃を放つ「風車」で移動範囲を絞りつつ落下と同時に攻撃を仕掛けようと考えていたが……光の魔力を纏ったサーベルの斬撃で全てかき消されてしまった以上、その作戦は断念せざるを得ないようだ。

「……っ!」

「油断は禁物ですぞ、ジィンさん」

 自由落下と同時に、足元を狙ってサーベルから斬撃が飛んでくる。

「着地狩り……!」

「自由落下は大きな隙に見えますぞ、ご注意を」

「なる、ほど……!」

 ムーア先生は会話をしながら、しかしそ太刀筋が一切乱れていない。

 真正面から戦って敵う気もしなければ、小細工が通用する相手とも思えない。

「そしてジィンさん。君の太刀筋は……『慣れているジャンルの、慣れていないもの』に触っている時のそれですな」

「なっ……!」

「刀は得意でも、その刀を持って日は経っていない……そんな風に感じますぞ」

「完全にバレている!?」

「ジィン!避けて!」

「どわっ!」

 動揺している場合ではない。
 ガラテヤ様の声で反応できたが、危うく左腕に傷がつくところであった。

「ふぅむ……しかし新品にしては、妙に使われた形跡がある……もらい物ですかな?」

「ええ、剣を交える内にちょっとだけ仲良くなった強化人間から。……まあ、その子に装備を壊されたので、代わりに持ってきたってだけですけど」

「新しい武器が手に入ったら、それはその方が亡くなった場所に返してやった方が良いかもしれませんな。剣士にとって剣は、命を預けるに足る第二の心臓……無くては、剣士として生きた『過去』が不安になりましょうぞ。剣士本人が化けて許可を出しに来たなら別ですがな、ホッホッホ」

「……そうですね。そうします。それこそ、これからレイティルさんの捜索隊に加わる予定なので……街で新しい武器を見つけたら、すぐにでもベルメリア領に行って、あの子が死んだ場所に刺してきますよ」

「良いご判断ですぞ、ジィンさん。それでこそ、私が目をつけていた騎士」

「そうですかッ!なら良かったです!風牙流……【蜘蛛手くもで】!」

「【斬獲ざんえ】!……ムッ」

 「風車」のマイナーチェンジ技に当たる「蜘蛛手」は、相手を中心に多方向から風の刃で攻撃する剣技。
 ムーア先生の強力な剣技であっても、一太刀では捌ききれない。

「もらった……!」

「フンッ!一度で片付けられないならば、二度剣を振れば良い、それだけです」

 淡い期待はそれ以上の様を見せることなく、消えてしまう。

 吹き飛ばされた斬撃は風の魔力へと解体され、辺りへ再び漂い始めた。
 時間が経てば、やがて本来在る姿で在る霊力へと戻っていくのだろう。

 自らを中心として斬撃をばら撒く「風車」では、相手に届く斬撃には限界がある。
 その問題を解決すべく開発されたという「蜘蛛手」は、相手を中心として多方向から襲いかかる斬撃をばら撒く剣技なのだが……いかんせん、ムーア先生のスピードが速すぎるがあまり、斬撃が到達する前に全て捌き切られてしまっているようだ。

 霊の力をつかうのならばともかく、それ無しで勝てるビジョンが全く見えない。
 
 勝負あったか。

 ……そう思ったのも束の間。

「……むおっ!?」

「えっ?……ど、どうしました?」

「……無理が、祟りましたかな。腰を、やってしまいました」

「「ええー……」」

 フラッグ革命団との戦いに加えて、復興のための作業を日夜手伝っていた分の疲れが出たのだろうか、流石のムーア先生でも流石に限界だったのだろう。

 ひとまず決着はお預け。
 俺とガラテヤ様はムーア先生に肩を貸し、保健室へ向かうのであった。
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