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第六章 悪性胎動
第七十二話 違った状況
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「いやあ、心配かけたね」
「ホントだよ」
俺は眠りこけていた皆を起こして、ロディアにパンと水を渡し、一先ず再会を喜ぶことにした。
「それにしてもロディアまで、何でこんな所にいるのだ?」
「いやあ……それが、あの戦いで全身に怪我しちゃってさ……動けなかったところを、誰とも分からない人達が助けてくれたんだけど……傷が治るやいなや、突然この山に放り出されて」
「……おいら達とは違う」
「皆こそ、どうしてこの山に?僕を探しに来てくれていたとしても、よくこの山に連れて来られたと分かったね?」
「私達は、あの戦いで行方不明になった人を探そうとしていたの。勿論、貴方も含めて。……そのために、王都で馬車を借りたのだけれど……気づいたら、運転手の様子がおかしくなっていて……対処した時には、すっかり山奥まで連れて来られていたの」
「なるほど……皆も連れられてきた、ってことか」
「……今の話を聞くと、偶然とは思えんな」
俺達もロディアも、誰かの手によってここへ連れて来られている。
何かと物騒な世の中だ。
俺達は何者かによって意図的にここへ連れて来られた可能性が高いと思って問題ないだろう。
「とりあえず、フルメンバーで山を降りるってことは決定事項として……これからどうします、ガラテヤ様?」
「そうね。まずは夜明けまで寝て……それから、山頂を目指しましょう」
「うん。ゆっくり休んで、また起きたら皆で行こ。おいら、まだ眠い」
「そうだな。じゃあ、また翌朝」
すっかり一同が夜明けまで再び寝ようという空気になり、マーズさんが立ち上がった瞬間。
「「……ん?」」
何か、茂みの向こう側から「ガサッ」と聞こえた音に反応し、俺とガラテヤ様は目を向けた。
「どうした、何かあったのか?」
「ええ、そうみたい」
「皆。どうやら、俺達はもう少し起きてなきゃいけないみたいだ」
ガサゴソ、ガサゴソと草木を掻き分け、何かがこちらへ迫ってくる。
その音はどんどん大きくなっていき、それが、こちらを狙って駆ける何かが立てる音だと察しがつくまで、時間はそう要らなかった。
「そうだな。流石の私も気がついたよ。この音は、聞き覚えがある。間違えもしない、私が皆の前で情けなく腰を抜かした……」
マーズさんが大剣を構えると同時に、それは巨大に似合わぬしなやかな身のこなしで、勢いよく茂みから飛び出した。
「『ケウキ』。久々だねぇ」
ロディアは杖を構え、霊力を体内で魔力へ変換せずに、そのままエネルギーの塊として撃つ方法で連射する。
魔力及び霊力に対するエネルギー効率は落ちるが、速射性に優れるこの方法は、奇襲を仕掛けたつもりのケウキを怯ませるにはちょうど良かったのだろう。
「これが、裏山で四人が襲われた魔物。でかい」
あの場でケウキと戦った時、俺達はまだファーリちゃんと知り合いでは無かったため、彼女がケウキを見るのは、猟兵時代にでも遭遇していなければ初めてだろう。
ケウキといえば、俺とロディアが協力してもギリギリ勝てず、先に山を降りたガラテヤ様と腰を抜かしたマーズさんが呼んでくれたケーリッジ先生にトドメを刺してもらった……という、苦い思い出と必然的に結びついてしまう魔物である。
当然、苦手意識も湧くものだ。
しかし、今の俺達は当時よりも確実に成長しているハズだ。
それに、あの時はいなかったファーリちゃんだっている。
あの時のケウキと個体差はあるだろうが、それでも、今の俺達が負ける相手ではない。
「クォォォォォォァ!」
こちらへ向かって、宣戦布告の雄叫びをあげるケウキ。
「それにしても、このタイミングで来るかぁ」
「……勘弁して欲しいものね」
「ケウキ……おいら達の朝ごはんになるかな」
「魔物って食べられるのォ?」
「火通せば何とかなるんじゃあないか?」
ただでさえ遭難状態なのだ、これ以上余計な消耗をする訳にはいかないのだ。
運が無いにも程があるとは思うが、しかし目の前の困難が命を奪いに走ってくるのであれば、目を背けることも難しいだろう。
俺達は各々の武器を構え、因縁の魔物を前に、改めて息を整える。
今の俺達はかつてのように、ただケウキに襲われている人間達では無い。
リベンジに燃える俺達の士気は、むしろその状況をひっくり返す程に上がり切っていたのだ。
しかし俺達はまだ、気づいていなかった。
違和感。
この森を数時間彷徨った中で感じた「気持ち悪さ」が何なのか、俺達はいざ「その時」が訪れるまで、その存在にすら気がつくことはできなかったのだ。
「ホントだよ」
俺は眠りこけていた皆を起こして、ロディアにパンと水を渡し、一先ず再会を喜ぶことにした。
「それにしてもロディアまで、何でこんな所にいるのだ?」
「いやあ……それが、あの戦いで全身に怪我しちゃってさ……動けなかったところを、誰とも分からない人達が助けてくれたんだけど……傷が治るやいなや、突然この山に放り出されて」
「……おいら達とは違う」
「皆こそ、どうしてこの山に?僕を探しに来てくれていたとしても、よくこの山に連れて来られたと分かったね?」
「私達は、あの戦いで行方不明になった人を探そうとしていたの。勿論、貴方も含めて。……そのために、王都で馬車を借りたのだけれど……気づいたら、運転手の様子がおかしくなっていて……対処した時には、すっかり山奥まで連れて来られていたの」
「なるほど……皆も連れられてきた、ってことか」
「……今の話を聞くと、偶然とは思えんな」
俺達もロディアも、誰かの手によってここへ連れて来られている。
何かと物騒な世の中だ。
俺達は何者かによって意図的にここへ連れて来られた可能性が高いと思って問題ないだろう。
「とりあえず、フルメンバーで山を降りるってことは決定事項として……これからどうします、ガラテヤ様?」
「そうね。まずは夜明けまで寝て……それから、山頂を目指しましょう」
「うん。ゆっくり休んで、また起きたら皆で行こ。おいら、まだ眠い」
「そうだな。じゃあ、また翌朝」
すっかり一同が夜明けまで再び寝ようという空気になり、マーズさんが立ち上がった瞬間。
「「……ん?」」
何か、茂みの向こう側から「ガサッ」と聞こえた音に反応し、俺とガラテヤ様は目を向けた。
「どうした、何かあったのか?」
「ええ、そうみたい」
「皆。どうやら、俺達はもう少し起きてなきゃいけないみたいだ」
ガサゴソ、ガサゴソと草木を掻き分け、何かがこちらへ迫ってくる。
その音はどんどん大きくなっていき、それが、こちらを狙って駆ける何かが立てる音だと察しがつくまで、時間はそう要らなかった。
「そうだな。流石の私も気がついたよ。この音は、聞き覚えがある。間違えもしない、私が皆の前で情けなく腰を抜かした……」
マーズさんが大剣を構えると同時に、それは巨大に似合わぬしなやかな身のこなしで、勢いよく茂みから飛び出した。
「『ケウキ』。久々だねぇ」
ロディアは杖を構え、霊力を体内で魔力へ変換せずに、そのままエネルギーの塊として撃つ方法で連射する。
魔力及び霊力に対するエネルギー効率は落ちるが、速射性に優れるこの方法は、奇襲を仕掛けたつもりのケウキを怯ませるにはちょうど良かったのだろう。
「これが、裏山で四人が襲われた魔物。でかい」
あの場でケウキと戦った時、俺達はまだファーリちゃんと知り合いでは無かったため、彼女がケウキを見るのは、猟兵時代にでも遭遇していなければ初めてだろう。
ケウキといえば、俺とロディアが協力してもギリギリ勝てず、先に山を降りたガラテヤ様と腰を抜かしたマーズさんが呼んでくれたケーリッジ先生にトドメを刺してもらった……という、苦い思い出と必然的に結びついてしまう魔物である。
当然、苦手意識も湧くものだ。
しかし、今の俺達は当時よりも確実に成長しているハズだ。
それに、あの時はいなかったファーリちゃんだっている。
あの時のケウキと個体差はあるだろうが、それでも、今の俺達が負ける相手ではない。
「クォォォォォォァ!」
こちらへ向かって、宣戦布告の雄叫びをあげるケウキ。
「それにしても、このタイミングで来るかぁ」
「……勘弁して欲しいものね」
「ケウキ……おいら達の朝ごはんになるかな」
「魔物って食べられるのォ?」
「火通せば何とかなるんじゃあないか?」
ただでさえ遭難状態なのだ、これ以上余計な消耗をする訳にはいかないのだ。
運が無いにも程があるとは思うが、しかし目の前の困難が命を奪いに走ってくるのであれば、目を背けることも難しいだろう。
俺達は各々の武器を構え、因縁の魔物を前に、改めて息を整える。
今の俺達はかつてのように、ただケウキに襲われている人間達では無い。
リベンジに燃える俺達の士気は、むしろその状況をひっくり返す程に上がり切っていたのだ。
しかし俺達はまだ、気づいていなかった。
違和感。
この森を数時間彷徨った中で感じた「気持ち悪さ」が何なのか、俺達はいざ「その時」が訪れるまで、その存在にすら気がつくことはできなかったのだ。
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