四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜

最上 虎々

文字の大きさ
78 / 177
第六章 悪性胎動

第七十三話 獣、再び

しおりを挟む
 ケウキは全身を捻り、最も前に出ていたマーズさんへ飛びかかる。

「【オーガー・エッジ】!」

 ついに魔物を克服したのだろうか。
 前にケウキと戦った頃は腰を抜かしていたマーズさんが、今日は通常通りに戦えている。

「キュオオ!」

 しかし、ケウキの方が一枚上手だったようだ。
 左前足の爪でマーズさんの斬撃を引き受けると同時に、右前足の爪が、ガラ空きの胴へと突き出される。

「【雀蜂スズメバチ】!」

 今回のケウキは、どうやら前回のそれよりも頭が良いのだろう。
 俺は新しく買った刀に風を纏わせてケウキの爪を弾いたから良かったものの、前回と同じようには行かなそうである。

「マーズ、大丈夫?」

「ああ……危なかった」

「マーズお姉さん、不安なら一回下がって。楽勝じゃないとは思うけど、多分、おいら達でも何とかなる」

「いや……大丈夫だ。これから冒険者としてやっていくんだ。折角、腰も抜かしていないんだからな。魔物を克服する良い機会だと思っておくよ」

「そ。無理しないでね」

 そして、後方で戦闘態勢をとるマーズさんと入れ替わるように、ロディアが前線へやってくる。

「ジィン君、来るぞ!」

「ああ!ロディア、『死の国デッド・ゾーン』の準備を!」

「了解!」

 俺はロディアの射程範囲から逃れるように、風の刃を放ちながら後退。
 さらに十分な後退ができたタイミングで空気を操って破裂音を出すことで、ロディアへ合図を送った。

「今だ、ロディア!」

「いいタイミングだね!喰らえ……【死の国デッド・ゾーン】!」

 ロディアの杖から放たれる、ドス黒い闇の塊。
 それから展開された領域がケウキを包み込むと、前回よりもさらに強い「歪み」が発生する。

 そして、それはたちまちケウキの精神を蝕み始めた。

 ……ように、見えた。

 しかし。

「キャオオオァ!」

 特殊な環境で育った、精神異常に強いケウキなのか、同じ「ケウキ」という種でも、こちらの方が文字通りレベルが違う強さなのか。
 その攻撃は、まるでケウキには効いていないようであった。

「マズい」

「【風車かざぐるま】!」

 油断したら、死ぬ。

 それだけは分かっている。

 俺は「風車」で周囲に風の刃を飛ばし、その一つでロディアへ襲いかかる爪を弾き飛ばし、他の刃で周囲の木へ切り込みを入れた。
 良いタイミングで切り倒すことによって、上から攻撃を当てたり道を塞いだりすることができる即席の罠である。

「フゥ!助かったよ、ジィン君!」

「良かった!じゃあ、ロディアはマーズさんのところまで走って退いてくれ!マーズさんは引き続きガラテヤ様の側にいて、ファーリちゃんはロディアと交代で前線へ!ガラテヤ様は『嶺流貫レールガン』の準備を頼みます!」

 俺は切り込みを入れた木の周囲を走り回って切り込みを深くしながら、パーティメンバー全員へ指示を出す。

「了解。山は猟兵の得意なフィールド……プロの技、見せる」

 山の中は、地盤の問題や障害物がどうしても存在する以上、その道のプロでもなければ平地よりも戦いにくい。

 下手に皆で集まるよりかは、前線へ出るメンバーを絞った方がお互い戦い易いだろう。

 俺は平安時代に山での訓練も当然していたため、ブランクはあれど素人には負けないつもりだ。
 そして幼い頃から猟兵達に育てられ、実力をつけて団の一員としても認められていたファーリちゃんならば、よりこういった地形には、場合によっては冒険者よりも慣れているハズである。

「マーズ、しっかり守って頂戴ね!」

「任せておけ!私は大丈夫!私の腰も脚も通常通りだ!」

 前線は俺とファーリちゃんが、ロディアは援護射撃、ガラテヤ様は強化人間をも一撃で打ち破った『嶺流貫レールガン』の準備をし、マーズさんはその護衛。

 こちら側の攻撃がどこまでこの「ケウキ」に通じるか分からない今の状況であれば、とりあえずガラテヤ様の「嶺流貫レールガン」を主砲として使う上で、この采配はベストだろう。

 戦況はあまり良いとは言えない。
 ケウキは以前に交戦した個体よりも強く、ロディアの必殺技とも言える魔法、「死の国デッド・ゾーン」も効かなかった。

 しかし、これで追い詰められた気になっている場合では無い。
 俺達がケウキを倒したとしても、遭難中の身であることは変わらないのだ。

 ケウキの肉は食べられるのか、食べても腹は下さないのか、そもそも死後に肉が残るのか、その何もかもが分からない。
 戦いだけではない、全てをひっくるめた状況としては絶望的だろう。

 それでも、まだ足掻ける。
 足掻かなければならない。

 俺は珍しく、そんな緊張に心臓を潰されかけていた。
 そして、そんな俺の左肩に手を置き、ファーリちゃんは言った。

「大丈夫。おいらが、いる」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

空手馬鹿の俺が転生したら規格外の治癒士になっていた 〜筋力Eのひ弱少年治癒士が高みを目指す!?〜

くまみ
ファンタジー
 前世は空手部主将の「ゴリラ」男。転生先は……筋力Eのひ弱な少年治癒士!?  「資質がなんだ!俺の拳は魔法を超える!……と、思うけど……汗」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  俺は五里羅門(ごり・らもん) 35歳独身男だ。硬派すぎて女が寄り付かず。強すぎる空手愛と鍛え抜かれた肉体のせいで不本意ながら通称「ゴリラ」と呼ばれていた。  仕事帰りにダンプに跳ねられた俺が目覚めると、そこは異世界だった。だが転生した姿は前世とは真逆。  病弱で華奢。戦闘力最低と言われる職業の「治癒士」(ヒーラー)適正の10歳の少年・ノエル。  「俺は戦闘狂だぞ!このひ弱な体じゃ、戦えねぇ!  「華奢でひ弱な体では、空手技を繰り出すのは夢のまた夢……」  魔力と資質が全てのこの世界。努力では超えられない「資質の壁」が立ちふさがる。  だが、空手馬鹿の俺の魂は諦めることを知らなかった。  「魔法が使えなきゃ、技で制す!治癒士が最強になっちゃいけないなんて誰が決めた?」  これは魔法の常識を「空手の技」で叩き壊す、一人の少年の異世界武勇伝。    伝説の騎士、美少女魔術師、そして謎の切り株(?)を巻き込み、ノエルの規格外の挑戦が今始まる!    

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

処理中です...