四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜

最上 虎々

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第六章 悪性胎動

第七十四話 異常発生 前編

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 俺の肩から、ファーリちゃんの手が離れる。
 その瞬間、眼前には雷の如く、木々の間を飛び回るファーリちゃんの姿があった。

「速い……!」

 元々、速さと手数を活かした戦い方をするファーリちゃんだったが、今までのそれが比にさえならない程の圧倒的なスピード。

「キャオオ……!」

 ファーリちゃんはキックで木と木の間を飛び回り、背後からナイフで急襲。

「はあっ……ぉっ」

 左手のナイフは綺麗にケウキの背を切り裂いたものの、続けて右手のナイフを振り下ろす前に、ファーリちゃんは振り払われてしまい、ケウキに距離を取られてしまった。

「大丈夫!?」

「大丈夫。吹っ飛んだだけ」

「ファーリちゃん。木の周りを……」

「ん、分かってる。木を蹴ったのも、そう」

 驚いた。
 木と木の間を飛び回っていたのは、単に錯乱を狙ったものではない。

 よく見てみると、木々に線が刻まれていた。

「あの線には何か意図があるのか?」

 それぞれ幹に対して平行、縦方向に一本線か二本線が刻まれている木が数本ずつ。

「一本線はおいら達が斬り倒して使うやつ。二本線は、おいら達が避けた攻撃の勢いでケウキに斬らせるやつ」

 この短い時間の中で、俺が割と適当につけた木の切れ込みを見て、自分達で切り倒して当てたり道を塞いだりする木として利用するべきなのか、ケウキが攻撃を外したことによる自爆を狙って利用した方が良い木なのかを選別したということだろうか。

「流石にプロだな、ファーリちゃん……」

 何かコツでも掴んだのだろうか。
 今のファーリちゃんは、良い意味で「異常」である。

 ロディアが飛ばしてくる闇の塊をものともしないケウキに、俺が風の刃を飛ばしたところで、魔力の無駄遣いになってしまうことは分かっている。

 遠距離戦を得意とするロディアの攻撃が効いていないのに、近距離戦を得意とする俺のそれが効くとは思えない。

 しかし、あまり魔法が効いていないように見えるケウキだが、物理攻撃なら話は別だろう。

 現にケウキからの攻撃は、勢いが強いものでも「雀蜂スズメバチ」で防ぐことができている。

 久しぶりに突きが攻撃手段となる刀を持ったのだ、長らく使っていない「不可知槍フカチヤリ」の出番かと思っていたが、防御面でそこまでの出力が必要というわけでもなく、また攻撃面では他の技や基礎的な魔法で事足りてしまう辺りに、少し寂しさを感じた。

「やっ、はっ!【電光石火でんこうせっか】!」

 ファーリちゃんは周囲を飛び回り、素早いケウキの爪を防ぎながら、浅くはあるが確実にケウキへ傷をつけていく。

 傷跡からは禍々しいオーラのようなものが漏れ出しており、やはりケウキはケウキでも、このケウキは前に戦ったそれとは少し違うのだろうと分かった。

 そしてファーリちゃんの動きに合わせて、俺は風を纏わせた新しい刀で木の幹を両断し、それを思い切り蹴飛ばして彼女を援護。

 ケウキの背中に木がのしかかるかたちになれば、それが一番良いのだが……あの素早いケウキが、倒れる木などに当たる筈も無く、あくまでも行動の選択肢を絞るという意味でのサポートに甘んじている。

「クルルルルルルル……」

「これが、おいら本来の力……。もしかしてと、思ったけど……やっと、やっと分かった」

 何なら妙なことを口走りながら、ファーリちゃんは全身に雷を纏う。

 ファーリちゃんと戦っていた時、これは正直な感想だが、スピードはともかくパワーは少し弱いように感じていた。

 しかし今までとは打って変わる、恐ろしい程の力。
 つい数日前までのファーリちゃんとは見違えるような、荒々しい雰囲気に、俺は久しぶりに身震いというものをした。

「二人とも、サポートをお願い!」

「了解!ファーリちゃん、こっちへ!」

 俺はガラテヤ様からの合図を受け取り、ファーリちゃんをガラテヤ様の指示する方向へ向かわせる。

 彼女の向かう先には、二本線の傷がつけられた木。

「……分かった」

 ケウキの右手がファーリちゃんへ襲いかかる。

 しかし彼女は、その木をよじ登るまでも無く飛び越えて攻撃を回避。
 狙いを外れたケウキの爪は木を切り裂き、その木は空中を舞うファーリちゃんに蹴り飛ばされ、そのまま倒れたそれはケウキの頭頂へ直撃。

 そして脳が震えたのか、うつ伏せになって倒れてしまったケウキ、その頭部を狙う指先が一つ。

「ありがとう、ジィン、ファーリちゃん。さあ受けてみなさい……。【嶺流貫レールガン】!」

 刹那。
 周囲の空気を呑み込み、「ズォォォォォン!」という轟音と共にガラテヤ様の指先から放たれた風の弾丸が、ケウキの頭部を吹き飛ばした。
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