四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜

最上 虎々

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第六章 悪性胎動

第七十五話 異常発生 後編

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 確かに、ケウキの頭部は吹き飛ばされた。
 頭部どころか、首元まで綺麗さっぱり抉られている。

 しかし。

「……おいおい」

「何か、おかしい」

 ケウキは脳の全てを失っても尚、何事も無かったかのように再び動き始めた。

「嘘でしょ……!?首が、無いのに!?」

 脳震盪で倒れたハズのケウキが、頭部を失っても動いている。

 このケウキには他に予備の脳があって、そちらへ肉体の制御を移したのだろうか?
 しかし、ケウキが別の脳を持つなどという話は聞いた事も無い。

 これが運悪く新種の魔物に出会ってしまった、というのならば、まだ良い方である。

 さらに妙な点として、首の断面に骨や肉といったものが見当たらず、ただ「真っ黒」であるということが、より俺達の不安を掻き立てた。

「マズい、足が……動かない……」

 マーズさんは、とうとうケウキの「奇妙さ」にやられてしまったのか。
 大剣を落とし、その場で棒立ちになってしまっている。

「ジィン!ファーリちゃん!私もそっちに行くわ!マーズには後方で待機してもらって、サポートはロディアに……ロディア?」

 声に反応して後方へ目をやると、そこにはキョロキョロと辺りを見回すガラテヤ様とマーズさん。
 二人の姿しかない。

 前方へ視線を移しても、そこにいるのは首無しのケウキと交戦しているファーリちゃんだけ。

「あれ、ロディア……いなくないですか?」

「いつの間に……?さっきの『死の国デッド・ゾーン』が効かなかったから怖くなって逃げた、のかしら?」

「いや、ロディアはそういうことするイメージ無いですけど……まさか、俺達以外に敵が?」

「それらしい気配は感じられなかったけれど」

 そういう敵が他にいるのか、怖気付いて逃げたのか。

 俺達もロディアも、この山に「連れて来られた」という共通点が妙に引っかかるため、何かそこに起因するものによって連れ去られるなり、吹き飛ばされるなりしたのだろうか。

 今はケウキへの対処で手が離せないが……ロディアの行方が心配だ。

 一体、この山で何が起きているというのか。
 何から何まで妙なことばかりである。

「ガラテヤ様!ロディアがいない以上、仕方ありません。引き続き、マーズさんの側にいてください!一人っきりにして、マーズさんまでいなくなったら大変です!」

「いや、それならジィンが下がって!嶺流貫レールガンを一発撃ったくらいじゃ、私のリソースは無くならない!ジィンの魔力残量、正直キツいでしょう?」

「よく分かりましたね」

「さっきから斬撃飛ばしてるんだもの、それくらい分かるわよ。さ、代わって!」

「じゃあ、そうさせてもらいます!」

 俺は「駆ける風」で速やかに後方、マーズさんの元へ。
 それと同時にガラテヤ様は「風の鎧」を纏い、「飛風フェイフー」で前線へ。

「ガラテヤお姉ちゃん、魔力、大丈夫?」

「大丈夫よ。私、貯められる魔力量には自信あるんだから」

 雷を纏いながら首無しのケウキに善戦するファーリちゃんと共に、空中を飛び回ってケウキの懐へ潜り込む。

 そして、ファーリちゃんに気を取られているケウキの胸を、「刹抜さつばつ」抉り取った。

「ジジジ、ジジ……」

 首を無くし、もはや言葉にもならない魔力の爆発音を鳴らしながら、首無しのケウキはそのままバランスを崩して地に伏せる。

「離れて、ガラテヤお姉ちゃん」

「分かったわ!」

 二人はケウキからそれぞれ距離をとった。
 そして、ガラテヤ様は後方へ。

 最後の力を振り絞ってか、ケウキは残った両前足の爪をファーリちゃんへ向けて発射する。

 しかし、ファーリちゃんはガラテヤ様へその爪が向かわないよう、あえて自分だけ残ったのだろう。
 待ってましたとばかりに、全身に纏っていた雷をナイフへ集約させる。

 そして発射された爪の上に飛び乗り、瞬時に跳躍。

「……【闢雷びゃくらい】」

 瞬く間に、残ったケウキの身体を粉々に切り裂いた。
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