89 / 177
第七章 もう一度
第八十話 ブライヤ村での一幕
しおりを挟む
数日後。
ブライヤ村へと到着した俺達は、馬車から降りて宿屋へと向かうことにした。
アデューラ岳までは遠く、また捜索が何日続くとも分からないが故に、出来る限り長く動けるよう、持てる限りの物資も用意しておくことになっている。
とは言え、一泊でも時間を持て余すだろう。
何か、少しでもアデューラ岳に関する情報を聞き出せれば良いものだが……。
良くも悪くも、俺が「ジィン・セラム」であると気づかれていない以上、変に「ブライヤ村」というコミュニティへ深入りするわけにもいかない。
おそらく「忌み子」としか扱っていないためであろうが、「やった方は忘れていても、やられた方は覚えている」という話が、いよいよ真実味を増してくるところである。
今の俺は、すっかりフラッグ革命団から村を守った英雄達の一人である「騎士ジィン」なのだ。
幸か不幸か、忌み子である「ジィン・セラム」の戸籍さえ村には残っていなかったのだろう。
ある意味、由緒正しい騎士ではなかったことを喜ぶべきなのだろう。
どこを探しても、「セラム」という名字の騎士は俺を除いて一人も存在していない。
そして、特に名のある家から出たでもない騎士の名字など、全国どころか領地の主要都市でさえ、一般的には知られないのである。
「ようこそいらしてくださりました、ガラテヤ様、ジィン様、マーズ様、ファーリ様。革命団との戦い以来ですな。歓迎致しますぞ」
馬車を駐めると、偶然散歩中であったらしき村長がこちらへ駆け寄って、歓迎の言葉をかけに来た。
社交辞令か、或いは英雄扱いか。
後者であれば、村を救った連合軍の主要メンバーであったとはいえ、随分と調子の良いものである。
「少しの間、アデューラ岳の捜索を行う上で、ベースキャンプとして使用させてもらうことになるわ。よろしくお願いするわね、村長」
「いやはや、喜んで。ありがたいですなぁ、こうして、また村へ来て頂けるとは……どうぞ、ごゆっくりお過ごし下さい」
フラッグ革命団と戦う前に、騎士の名前が殺人鬼の息子と同じ名前だということを、わざわざ話したことで軽く揉めてしまったガラテヤ様が、今目の前にいるということを忘れてしまったかのようだ。
「普通にしていれば、普通に良い村長っぽいのに……残念ね」
一方のガラテヤ様は、村長と少し揉めたことを覚えているらしく、大きなため息をついて座り込んだ。
「お疲れ様、ガラテヤ。……また、ここに来ることになるとはな」
「ガラテヤお姉さん、あんまり嬉しい顔してない。村長さんのせい?」
「ううん。村長のことはもう気にするのをやめた。ただ、ジィンが心配で」
「俺がですか」
「ごめんなさい、何度もブライヤ村を見せるようなことをしてしまって。嫌でしょう?」
「何だ、そんなことですか。良いんですよ。ガラテヤ様が中継地点に選んだのなら、俺は従うだけです。それに、向こうは俺が殺人者の息子だって気付いてないんですから。『ジィンという名の騎士』として普通に過ごせば大丈夫です」
「そう、なら良いのだけれど……」
一息、今度は安堵のため息をつくガラテヤ様をよそに、ファーリちゃんが駆け寄ってくる。
「ねぇ。ジィンお兄ちゃ、お兄さん」
「お兄ちゃんで良いよ」
また一歩、心を許してもらえたのだろうか。
元々「ジィン兄さん」と呼ばれていたのが、今や「お兄ちゃん」とは。
「ガラテヤお姉ちゃん、マーズお姉ちゃんも。……買い出しが終わったら、話したいことがある」
「うっ、かわいい」
「マーズ、落ち着きなさい」
「はぁ、はぁ……ふぅ。買い出しの後だな。構わないが……用件は何だ?」
「おいらがあの山で思い出したことと、力の秘密……伝えておいた方が、良いと思って」
戦いの最中に、ファーリちゃんは急激に力を増した。
それは、ロディアが作り出した幻の類か、或いは魔力の塊であろうが、首無しのケウキを相手に一人で互角に戦ってしまう程であった。
確かに気になってはいたが、俺が一度死んだせいであろう。
勇気を出して何かをカミングアウトしようとするものの、それを話すタイミングを逃したのだと踏んだ俺達は、特に反対するでも無く、速やかに食料や道具の買い出しを済ませて、宿屋へと戻るのであった。
ブライヤ村へと到着した俺達は、馬車から降りて宿屋へと向かうことにした。
アデューラ岳までは遠く、また捜索が何日続くとも分からないが故に、出来る限り長く動けるよう、持てる限りの物資も用意しておくことになっている。
とは言え、一泊でも時間を持て余すだろう。
何か、少しでもアデューラ岳に関する情報を聞き出せれば良いものだが……。
良くも悪くも、俺が「ジィン・セラム」であると気づかれていない以上、変に「ブライヤ村」というコミュニティへ深入りするわけにもいかない。
おそらく「忌み子」としか扱っていないためであろうが、「やった方は忘れていても、やられた方は覚えている」という話が、いよいよ真実味を増してくるところである。
今の俺は、すっかりフラッグ革命団から村を守った英雄達の一人である「騎士ジィン」なのだ。
幸か不幸か、忌み子である「ジィン・セラム」の戸籍さえ村には残っていなかったのだろう。
ある意味、由緒正しい騎士ではなかったことを喜ぶべきなのだろう。
どこを探しても、「セラム」という名字の騎士は俺を除いて一人も存在していない。
そして、特に名のある家から出たでもない騎士の名字など、全国どころか領地の主要都市でさえ、一般的には知られないのである。
「ようこそいらしてくださりました、ガラテヤ様、ジィン様、マーズ様、ファーリ様。革命団との戦い以来ですな。歓迎致しますぞ」
馬車を駐めると、偶然散歩中であったらしき村長がこちらへ駆け寄って、歓迎の言葉をかけに来た。
社交辞令か、或いは英雄扱いか。
後者であれば、村を救った連合軍の主要メンバーであったとはいえ、随分と調子の良いものである。
「少しの間、アデューラ岳の捜索を行う上で、ベースキャンプとして使用させてもらうことになるわ。よろしくお願いするわね、村長」
「いやはや、喜んで。ありがたいですなぁ、こうして、また村へ来て頂けるとは……どうぞ、ごゆっくりお過ごし下さい」
フラッグ革命団と戦う前に、騎士の名前が殺人鬼の息子と同じ名前だということを、わざわざ話したことで軽く揉めてしまったガラテヤ様が、今目の前にいるということを忘れてしまったかのようだ。
「普通にしていれば、普通に良い村長っぽいのに……残念ね」
一方のガラテヤ様は、村長と少し揉めたことを覚えているらしく、大きなため息をついて座り込んだ。
「お疲れ様、ガラテヤ。……また、ここに来ることになるとはな」
「ガラテヤお姉さん、あんまり嬉しい顔してない。村長さんのせい?」
「ううん。村長のことはもう気にするのをやめた。ただ、ジィンが心配で」
「俺がですか」
「ごめんなさい、何度もブライヤ村を見せるようなことをしてしまって。嫌でしょう?」
「何だ、そんなことですか。良いんですよ。ガラテヤ様が中継地点に選んだのなら、俺は従うだけです。それに、向こうは俺が殺人者の息子だって気付いてないんですから。『ジィンという名の騎士』として普通に過ごせば大丈夫です」
「そう、なら良いのだけれど……」
一息、今度は安堵のため息をつくガラテヤ様をよそに、ファーリちゃんが駆け寄ってくる。
「ねぇ。ジィンお兄ちゃ、お兄さん」
「お兄ちゃんで良いよ」
また一歩、心を許してもらえたのだろうか。
元々「ジィン兄さん」と呼ばれていたのが、今や「お兄ちゃん」とは。
「ガラテヤお姉ちゃん、マーズお姉ちゃんも。……買い出しが終わったら、話したいことがある」
「うっ、かわいい」
「マーズ、落ち着きなさい」
「はぁ、はぁ……ふぅ。買い出しの後だな。構わないが……用件は何だ?」
「おいらがあの山で思い出したことと、力の秘密……伝えておいた方が、良いと思って」
戦いの最中に、ファーリちゃんは急激に力を増した。
それは、ロディアが作り出した幻の類か、或いは魔力の塊であろうが、首無しのケウキを相手に一人で互角に戦ってしまう程であった。
確かに気になってはいたが、俺が一度死んだせいであろう。
勇気を出して何かをカミングアウトしようとするものの、それを話すタイミングを逃したのだと踏んだ俺達は、特に反対するでも無く、速やかに食料や道具の買い出しを済ませて、宿屋へと戻るのであった。
0
あなたにおすすめの小説
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!
ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。
ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。
そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。
問題は一つ。
兄様との関係が、どうしようもなく悪い。
僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。
このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない!
追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。
それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!!
それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります!
5/9から小説になろうでも掲載中
【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~
こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』
公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル!
書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。
旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください!
===あらすじ===
異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。
しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。
だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに!
神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、
双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。
トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる!
※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい
※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております
※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート
みーくん
ファンタジー
気づいたら異世界に飛ばされていた、おっさん大工。
唯一の武器は、腰につけた工具袋——
…って、これ中身無限!?釘も木材もコンクリも出てくるんだけど!?
戸惑いながらも、拾った(?)ギャル魔法少女や謎の娘たちと家づくりを始めたおっさん。
土木工事からリゾート開発、果てはダンジョン探索まで!?
「異世界に家がないなら、建てればいいじゃない」
今日もおっさんはハンマー片手に、愛とユーモアと魔法で暮らしをDIY!
建築×育児×チート×ギャル
“腰袋チート”で異世界を住みよく変える、大人の冒険がここに始まる!
腰活(こしかつっ!)よろしくお願いします
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる