四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜

最上 虎々

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第七章 もう一度

第八十七話 今までの気分が抜けないから

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 ロディアは右手に杖を持ち、そしてすぐに姿を消す。

「消えた!?」

「焦らないで、マーズ。ロディアお得意、幻術の類よ」

 ガラテヤ様は慌てるマーズさんをなだめつつ、カバーへ向かう。

「ファーリちゃん、いつでも力は使えるようにしておいてくれ」

「勿論。手加減はしない」

 俺とファーリちゃんは陣形を立て直し、姿を消したロディアがどこからどんな攻撃を仕掛けてくるか、幻術によって「感覚の外から」攻撃される可能性も視野に入れて、警戒体制に入った。

「なあ、ロディア。話す気があるならで良いから、聞かせてくれ。……裏切った理由はよく分からないとして、何で、お前がフラッグ革命団を率いているんだ?」

「僕がそれ答える義務ある?」

「無い。無いけど、元同じパーティのよしみとしてそれくらいは教えてくれても良いんじゃないか?」

「特に理由なんて無いけどなぁ。ただ、その方が君……と……いや、君『達』との接触が上手く行きそうだって思っただけだよ」

「君『達』……?」

「そうそう。ま、それが誰なのかは教えてあげないけど」

「冥土の土産になるかもしれないってことじゃあダメか?」

「あれ、君もしかして僕に勝つ自信無い?」

「あるけど、無いってことにしておけば冥土の土産って言って頼み込めるから言った」

「……ま、どうせ後で気付くだろうから、わざわざ今は言わないことにするよ」

「そうか、残念だな」

 今まさに殺し合っている最中だというのに、軽口は消えない。
 やはり元パーティメンバーであるが故なのだろうか、お互い口調だけは意外にもリラックスしてしまうものである。

「それよりも」

「何だよ、攻撃?」

「うん、今ファーリちゃんの方に【死屍舞ししまい】を撃ったんだけど、大丈夫そう?」

 背後から、軽い何かが洞窟の壁を跳び回る音と、爆発音が入り混じって聞こえる。

「どうやら、大丈夫そうだな」

 しかし、それはファーリちゃんが「死屍舞」による闇の魔力を吹き飛ばした音であり。

「余裕。ジィンお兄ちゃんの言う通り」

 一撃も喰らうことなく、彼女はピンピンしていた。

「いやあ、僕が作ったケウキとの戦いで動きは見せてもらったけど、敵に回すと厄介だねぇ、君も。ま、僕の位置を特定できない以上は、どうしようもないかもしれないけどね」

「いや、それなら心配無用なんだよな。俺にはこれがあるから。……【探る風】」

 そして、俺はフラッグ革命団との戦いで使った、有り体に言ってしまえばレーダーである「探る風」を使った。

 精度は相変わらず低いが、大まかな地形に加えて、どの辺りに生命体がいるか、ざっくりとした探知ならできる。

 周囲に感知できた生命体は、俺を除いて五人。
 おそらく、ガラテヤ様、マーズさん、ファーリちゃん、後方で休んでいるバグラディ、そして空中でプカプカ浮いているのがロディアであると思われる。

 これは、発生させた風の流れによって存在を感知するためのものであるため、幻術で視覚を奪われようと、風は当然ながら幻術の影響を受けない。

 風が「この辺りに何かが存在する」という情報を教えてくれる以上、術者である俺が幻視や幻聴に惑わされようとも、「探る風」によって展開されたレーダーそのものに影響は無いのである。

「……この風、革命団と戦った時、使ってた」

「そう。ラブラ森林の中に潜んでる敵をざっくりと探すために使った魔術だよ。……という訳で……はっ!」

 俺は割り出した大体の位置を狙い、「駆ける風」で足元に空気を纏わせて空中へ飛び上がる。

「おっと。危ない危ない」

 しかしレーダーの精度が祟ったのか、確かに感知できてはいたロディアへ、その刃は僅かに届かなかった。

「ヤバい外した」

 俺の自由落下に合わせて、ロディアの杖がこちらへ向く。

「さあてさて。もう一度、殺してあげるよ」

 杖の先端から、闇の魔力を凝縮させたであろう弾が飛んでくる。

 俺は二振りの刀を抜き、ナナシちゃんの刀で防御を固めつつ、もう片方の刀で弾へ対処するつもりだった。

 しかし。

「うぐおっ!?重い……!」

 両方の刀を弾への対処に割いても、それはなお重い。

 このせいぜいサッカーボール程の大きさしかない闇の弾に、一体どれだけの力が込められているのか、想像するだけで負けてしまいそうだ。

「さあさあ、どうかな?僕、今までの三倍は強いでしょ」

 全くである。
 パーティにいた頃のロディアが弱かった訳では無いが、まさかここまで強いとは思っていなかった。

「【十文字じゅうもんじ】!ハァ、ハァ……危なかった……。お前、パーティにいた頃は全然本気出してなかったんだな」

 両方の刀に風を纏わせ、十字を描くように絶妙な角度で闇の弾を切り裂くことで何とか攻撃は防いだが、これが向こうの必殺技のようなそれでは無さそうである以上、苦戦は必至であろう。

「当然だよ。いずれ敵に回す人達に、自分の本気を知られる訳にはいかないからね」

「……調子狂うなあ。ついこの間まで友達だったのに」

「ジィンお兄ちゃん。……あの人はもう、おいら達の仲間じゃない。そして、すごく強い。だから、友達だから手加減するとか、友達だから殺さないとか……そういうのは、できないって思って」

 俺の右隣に、ファーリちゃんが並ぶ。

 理解はしている。

 特に二度目の人生では、裏切り者が殺されるところを何度も見てきたつもりだ。

 しかし、実際に数ヶ月も同じパーティの仲間として過ごしたロディアと殺し合いをすると考えると、どうにも気が引けてしまっていた。

 それでも、ロディアは確かに俺を一度殺している。
 そして、横にいるファーリちゃんが言うように、ロディアはもう、すっかり俺達を裏切ったところから、マーズさんに至っては最初から興味が無いとさえ言っていた。

 何より、このままロディアを倒し損ねて俺が死ねば、今度はファーリちゃんやマーズさん、そしてガラテヤ様へ刃が向くことは明白である。

 全くもって、ファーリちゃんの言う通りだ。

 俺は刀を構え直し、自らの中で「殺人モード」のスイッチを入れる。
 戦場と日常の線引きがあるとして、戦場に出ている時の、人間的な倫理やら常識やらをかなぐり捨てた、緊張と胸騒ぎに踊り狂ってしまうような、あの感覚である。

 眼前に立っている男は、もう仲間でも友人でも、何でも無い。
 ただの「俺を一度殺した敵」なのだと、そう捉え直すことにした。
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