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第八章 終末のようなものについて
アンドレアの悲嘆
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この手紙が読まれているということは、俺が朽ち果てて……何年が経つのだろうな。
とにかく、これを読んでいる人間へ。
俺はおそらく、未来では愚か者として蔑まれているのだろうが、そうであったとしても、この文だけは最後まで読むことをやめないで欲しい。
愚か者の我儘だと思われても仕方ないだろう。
それでも、こんな俺にも、伝えなければならないことがあるのだ。
俺の使命について、そして、その影響について。
もはや俺と同じ時代を生きる人間に、俺の言葉へ耳を貸す者はいない。
それに……少しばかりの嘆きを誰かに届いて欲しいと思うくらいは、しても良い筈だ。
俺は、世界に負けたのだ。
そもそも、本来ならば俺は、こんな人間にはなっていなかった。
政府を潰し、権力を潰し、正義を潰し、自由を潰す。
そんなことを夢に見る愚か者のようになど、本当はなりたくなかったのだ。
話せば長くなるが、全てが分からなくなってしまったと理解してもらえれば良い。
俺はかつて、別の世界で生きていたことがある。
今の俺ではない、名前も生まれも違う人間として、こことは文明も常識も何もかも世界で、だ。
かつての名前は、「イーラ・ミーア」。
イタリアという国で育ち……しかしある日、教会へ向かう途中で、災害によって命を奪われた、哀れな若者だった。
しかし、俺はそこで使命を与えられたのだ。
異なる世界にて悪魔を取り除き、天国を取り戻せと。
その悪魔は、名を【解読不能】といい、神により【解読不能】を奪われ、この世界へ落延びたのだという。
俺が元々生きていた世界には、もうじき天国への入り口が現れる。
救い主の死から数千年も待たされた俺達の世界を生きる人類は、ようやく裁きと知らせを与えられる、神の元へと迎え入れられるのだ。
しかし、私がやってきたこの世界は、まだまだ天国が訪れるには早いそうなのだ。
そして、その天国へと入り口が開かれない原因が、例の悪魔にあると、神が言うにはそういうことらしい。
実際に、俺はその神を見たことは無い。
しかし、声は確かにハッキリと聞こえ、眼が弾け飛びそうなほどの眩い光は目にしたのだ。
とにかく俺の新たな人生、【解読不能】者としての旅は、明らかに神であるとは分かりつつも、絶対に分からない存在より与えられた使命と共にスタートを切ったのだと、そう思って欲しい。
俺は男だが、自らとジャンヌ・ダルク……俺が最初に死んだ世界の偉人とを重ね、一人で盛り上がっていたものだ。
この手紙を読んでいる君が、ジャンヌ・ダルクを知っていたなら、同郷の者として嬉しい。
俺が【解読不能】としてこの世界に生きているのだ、ここに辿り着く人間もまた、似たような存在であろう。
使命と名誉に心を動かされ、生きる力に満ち溢れていた俺は、悪魔を倒すための兵器を製作するために錬金術師としての技術を高めながら、【解読不能】の役割を果たすべく、旅を始めた。
しかし、人々がそれを聞き入れることは無かった。
自惚れが過ぎるかもしれないが、俺は期待の新人錬金術師として、羨望の眼差しと多くの喝采を浴びる一方で、若い頃からから狂人の烙印を押されたのもまた、事実であったのだ。
錬金術師としての名声と、俺個人の人格を指して狂人呼ばわりする冷ややかな目は、比例するように、その両方が日に日に増加していった。
それから数十年後、俺は悪魔と出会った。
当然、俺が悪魔の話をまともに聞くことは無かったが……それからしばらくして、使命が持つ意味について、気づいてしまったのだ。
何度も何度も、神と悪魔の話を照らし合わせて考えた。
しかし、あろうことか……どちらの話も全く矛盾していなかったのだ。
天国が訪れる条件、そして天国の解釈。
さらには悪魔が何を企んでいて、その上で俺は、どのような神の考えで使命を与えられたのか、を。
しかし、それはどう伝えたものか、紙に残そうものなら即刻消される運命を仕組まれるだろう。
かといって、このまま何も伝えずに、この手紙を書き終える訳にもいかない。
俺の使命は、神が創りたもう世界に、天国の入り口を繋げること……もとい、天国を【解読不能】手伝いをすること。
そのために悪魔を殺し、また【解読不能】に【解読不能】ない者へ【解読不能】を説き、天国に現実味を持たせること。
そして悪魔は、それを妨害するために……言い換えれば、【解読不能】ために動くもの。
俺は、どう在るべきなのか……分からなくなってしまった。
俺の使命は、神より与えられたもの。
しかし俺は、それでも【解読不能】……。
故に、せめてヒントを残すことにした。
俺は、人々からしてみれば取り返しのつかないことを重ねた、国の治安を乱す愚か者だ。
しかし俺が、天国の存在や悪魔の正体を知った、おそらく数少ない人物であろうことは確かだ。
そして、この手紙を読んでいる人、文字列を見つめる君へ。
俺のヒントを、どうにか掴んでくれ。
或いは、仮に俺が残したヒントの意味が分からなかったとしても、せめて望む道を間違えないでくれ。
仮に、君が俺の望まない道を進んだとしても、俺は君を責めない。
時が来る前に、俺は死を選んだのだ。
しかし、自らが進むべき道を分からないまま、納得もいかないまま、選んで良い道では、断じてないのだ。
俺は第二の人生全てを使って、ヒントを残した。
後は、頼んだ。
俺は前座だ。
おそらく君か、君を知る誰かが、全てを決めるのだろう。
神様。
俺はあなたに遣わされ、しかし思い悩み、洞窟の奥底で死ぬに至ったのだ。
この結末を、全てお分かりになっていたのなら。
最初から、あなたが私を【解読不能】つもりだったならば。
神様、あなたは俺に勝ったのだ。
追記。
俺が残した切り札について。
アンドレアではなく、イーラ・ミーアとして生きていた頃に見た絵に描いてあった、魔力を増幅させる鎧……。
アレの名は「ゴリアテ」と言う。
使い方については、友の側へ置いてきた、とだけ残しておく。
その使い方を理解できれば、きっと真の力を引き出す方法も、同時に理解できるだろう。
君達が、どうか望む道へ進めるように。
全てを知った上で、自らの望む世界を歩めるように。
感謝と、悲しみを込めて。
とにかく、これを読んでいる人間へ。
俺はおそらく、未来では愚か者として蔑まれているのだろうが、そうであったとしても、この文だけは最後まで読むことをやめないで欲しい。
愚か者の我儘だと思われても仕方ないだろう。
それでも、こんな俺にも、伝えなければならないことがあるのだ。
俺の使命について、そして、その影響について。
もはや俺と同じ時代を生きる人間に、俺の言葉へ耳を貸す者はいない。
それに……少しばかりの嘆きを誰かに届いて欲しいと思うくらいは、しても良い筈だ。
俺は、世界に負けたのだ。
そもそも、本来ならば俺は、こんな人間にはなっていなかった。
政府を潰し、権力を潰し、正義を潰し、自由を潰す。
そんなことを夢に見る愚か者のようになど、本当はなりたくなかったのだ。
話せば長くなるが、全てが分からなくなってしまったと理解してもらえれば良い。
俺はかつて、別の世界で生きていたことがある。
今の俺ではない、名前も生まれも違う人間として、こことは文明も常識も何もかも世界で、だ。
かつての名前は、「イーラ・ミーア」。
イタリアという国で育ち……しかしある日、教会へ向かう途中で、災害によって命を奪われた、哀れな若者だった。
しかし、俺はそこで使命を与えられたのだ。
異なる世界にて悪魔を取り除き、天国を取り戻せと。
その悪魔は、名を【解読不能】といい、神により【解読不能】を奪われ、この世界へ落延びたのだという。
俺が元々生きていた世界には、もうじき天国への入り口が現れる。
救い主の死から数千年も待たされた俺達の世界を生きる人類は、ようやく裁きと知らせを与えられる、神の元へと迎え入れられるのだ。
しかし、私がやってきたこの世界は、まだまだ天国が訪れるには早いそうなのだ。
そして、その天国へと入り口が開かれない原因が、例の悪魔にあると、神が言うにはそういうことらしい。
実際に、俺はその神を見たことは無い。
しかし、声は確かにハッキリと聞こえ、眼が弾け飛びそうなほどの眩い光は目にしたのだ。
とにかく俺の新たな人生、【解読不能】者としての旅は、明らかに神であるとは分かりつつも、絶対に分からない存在より与えられた使命と共にスタートを切ったのだと、そう思って欲しい。
俺は男だが、自らとジャンヌ・ダルク……俺が最初に死んだ世界の偉人とを重ね、一人で盛り上がっていたものだ。
この手紙を読んでいる君が、ジャンヌ・ダルクを知っていたなら、同郷の者として嬉しい。
俺が【解読不能】としてこの世界に生きているのだ、ここに辿り着く人間もまた、似たような存在であろう。
使命と名誉に心を動かされ、生きる力に満ち溢れていた俺は、悪魔を倒すための兵器を製作するために錬金術師としての技術を高めながら、【解読不能】の役割を果たすべく、旅を始めた。
しかし、人々がそれを聞き入れることは無かった。
自惚れが過ぎるかもしれないが、俺は期待の新人錬金術師として、羨望の眼差しと多くの喝采を浴びる一方で、若い頃からから狂人の烙印を押されたのもまた、事実であったのだ。
錬金術師としての名声と、俺個人の人格を指して狂人呼ばわりする冷ややかな目は、比例するように、その両方が日に日に増加していった。
それから数十年後、俺は悪魔と出会った。
当然、俺が悪魔の話をまともに聞くことは無かったが……それからしばらくして、使命が持つ意味について、気づいてしまったのだ。
何度も何度も、神と悪魔の話を照らし合わせて考えた。
しかし、あろうことか……どちらの話も全く矛盾していなかったのだ。
天国が訪れる条件、そして天国の解釈。
さらには悪魔が何を企んでいて、その上で俺は、どのような神の考えで使命を与えられたのか、を。
しかし、それはどう伝えたものか、紙に残そうものなら即刻消される運命を仕組まれるだろう。
かといって、このまま何も伝えずに、この手紙を書き終える訳にもいかない。
俺の使命は、神が創りたもう世界に、天国の入り口を繋げること……もとい、天国を【解読不能】手伝いをすること。
そのために悪魔を殺し、また【解読不能】に【解読不能】ない者へ【解読不能】を説き、天国に現実味を持たせること。
そして悪魔は、それを妨害するために……言い換えれば、【解読不能】ために動くもの。
俺は、どう在るべきなのか……分からなくなってしまった。
俺の使命は、神より与えられたもの。
しかし俺は、それでも【解読不能】……。
故に、せめてヒントを残すことにした。
俺は、人々からしてみれば取り返しのつかないことを重ねた、国の治安を乱す愚か者だ。
しかし俺が、天国の存在や悪魔の正体を知った、おそらく数少ない人物であろうことは確かだ。
そして、この手紙を読んでいる人、文字列を見つめる君へ。
俺のヒントを、どうにか掴んでくれ。
或いは、仮に俺が残したヒントの意味が分からなかったとしても、せめて望む道を間違えないでくれ。
仮に、君が俺の望まない道を進んだとしても、俺は君を責めない。
時が来る前に、俺は死を選んだのだ。
しかし、自らが進むべき道を分からないまま、納得もいかないまま、選んで良い道では、断じてないのだ。
俺は第二の人生全てを使って、ヒントを残した。
後は、頼んだ。
俺は前座だ。
おそらく君か、君を知る誰かが、全てを決めるのだろう。
神様。
俺はあなたに遣わされ、しかし思い悩み、洞窟の奥底で死ぬに至ったのだ。
この結末を、全てお分かりになっていたのなら。
最初から、あなたが私を【解読不能】つもりだったならば。
神様、あなたは俺に勝ったのだ。
追記。
俺が残した切り札について。
アンドレアではなく、イーラ・ミーアとして生きていた頃に見た絵に描いてあった、魔力を増幅させる鎧……。
アレの名は「ゴリアテ」と言う。
使い方については、友の側へ置いてきた、とだけ残しておく。
その使い方を理解できれば、きっと真の力を引き出す方法も、同時に理解できるだろう。
君達が、どうか望む道へ進めるように。
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