四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜

最上 虎々

文字の大きさ
162 / 177
終章 ガラテヤの騎士、ジィン

第百五十二話 果てよりの面々

しおりを挟む
 教室棟でも、やはり学生達はうんともすんとも言わないどころか、息の音一つさえ立てていなかった。

 こうも静かな日というのは、珍しいものだ。

「先生!誰か!……いないわよね、流石に」

「いませんねー。でも、こんな混乱の中で普通に学校に来てる訳無いような」

「それもそうね。じゃあ……どこに行こうかしら?家に行こうにも私達、メイラークム先生の実家以外、誰の家も知らないわよね」

「ん。知らない。探してみる?」

「うーん。でも、探す手段は何も無いわよね」

「無い。おいらも知らない。……メイラークム男爵のお家、行ってみる?」

「流石に遠すぎないか……?移動してる間に事態が悪化しないとも限らないし……」

「少なくとも昨日の晩までは普通に時間が流れていたのだし……先生達が異常に気づいて動いていたにしても、まだ王都から離れた場所には行っていないんじゃあないかしら?」

「じゃあ、一刻も早く探さなくっちゃあな。ま、三人とも動けなくなってたら意味無いんだけど。あと、バグラディも探さないとな」

「それもそうね。勾留を解かれたとか何とか言っていたけれど……。今、何してるのかしら」

「アイツも一応は、山で『果て』を見たメンバーですし……俺とガラテヤ様だけじゃなくて、ファーリちゃんも動けているなら……何となく、動けそうな気もします」

「どこか……目立つとこ、出る?」

 俺達は訓練場を出て、そのまま広場へ。

 ここなら、学校に動ける人を探しに来た誰かがいても、すれ違わずに済むハズだ。

 しかし、こうも全てがピッタリ止まって動かないと、何とも居心地が悪い。

 違和感の塊が常に視界へ貼りついているような。

 空を飛んでいる鳥は、自身が羽ばたかずとも空にいることを知らず、噴水から吹き出した水は、自らが群れから外れたことに気づけない。

 その景色が絶妙に気に入らないと、人間としての本能が、そう訴えている。

「……ハッ、お、お前らァ!ちょうど良いところに!一体どうやってやがるんだ、朝っぱらからァ!」

「バグラディ!やっぱお前も動けるのか!」

 ほどなくして現れたのは、バグラディ・ガレア。

 やはりバグラディも、この止まった世界の中で動ける人間であったらしい。

 俺は、ガラテヤ様とファーリちゃんに説明した内容をそのまま、バグラディに説明する。

 俺が起こしたガラテヤ様やファーリちゃんとは違い、ここまで辿り着く前に、様々な衝撃を前もって受けていたためだろう。
 二人よりは反応が薄かったが、バグラディは、それでも驚く他ないといった様子であった。

「あっ!見つけた!声が聞こえると思ったら、みんな……動けてたのね!」

 そして説明を終えると共に、現れたのはケーリッジ先生。

 パワードスーツの「ゴリアテ」を身に纏い、空を飛んでやってきた。

 この様子では人の足音さえ聞こえないのだ、俺達の声が、より遠くまで響いたのだろう。

「ケーリッジ先生!無事だったんですね!」

「ええ!皆も無事で何よりよ!……でも、まだ二人……足りないようね」

「ええ。ムーア先生とメイラークム先生は……大丈夫かしら」

「ん……でも、あの二人なら大丈夫」

 ケーリッジ先生が足をつき、ファーリちゃんが胸を撫で下ろすと同時に、二つの影が動く。

「そうね。私達なら」

「やはり動けてしまいますな、悲しいことに」

 そして、ストンと俺達の元へ降り立ったのは、ムーア先生とメイラークム先生。

「ね、無事だった」

「あっという間に、『果て』行きの生き残りが大集合ね」

「そうみたいですね。とりあえず、無事で良かった」

 思いの外、集合は早かった。
 やはり学校の待ち合わせ場所といえば、目立つ噴水。

 ウェンディル学園に通う者に染みついた常識が、まさかこんなところで役に立つとは。

 集合を確認した俺、ガラテヤ様、ファーリちゃんは、それぞれ一度寮へ戻り、装備を取ることにした。

 このような状況を作り出す敵を相手に、防具が役に立つとは思えない。
 むしろ、少しでも身体を軽くして動きやすくすべきであろう。

 そして、ガラテヤ様とファーリちゃんも同じことを思ったのか、俺は刀、ガラテヤ様はセスタス、ファーリちゃんはナイフだけを持って、再び噴水前で合流する。

「さあ、行きましょうか。この異常の、原因を探しに」

 俺達はガラテヤ様をリーダーとして、行動を開始する。

 まずは高所から、周囲を確認しなければ……ということで、俺達は学園の敷地内にそびえ立つ、もう一つの集合場所と名高い塔へ向かうことにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート

みーくん
ファンタジー
気づいたら異世界に飛ばされていた、おっさん大工。 唯一の武器は、腰につけた工具袋—— …って、これ中身無限!?釘も木材もコンクリも出てくるんだけど!? 戸惑いながらも、拾った(?)ギャル魔法少女や謎の娘たちと家づくりを始めたおっさん。 土木工事からリゾート開発、果てはダンジョン探索まで!? 「異世界に家がないなら、建てればいいじゃない」 今日もおっさんはハンマー片手に、愛とユーモアと魔法で暮らしをDIY! 建築×育児×チート×ギャル “腰袋チート”で異世界を住みよく変える、大人の冒険がここに始まる! 腰活(こしかつっ!)よろしくお願いします

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

処理中です...