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終章 ガラテヤの騎士、ジィン
第百五十四話 ただいま
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あれから、何十日経ったことか。
一週間やそこらで王都へ来た時のことが、もはや懐かしく感じる。
道中で保存食は底を尽き、人間同様に動きが止まっている魔物や動物を狩って食べることもあった。
そして、辿り着くはベルメリア子爵邸。
全てが薄気味悪く止まった世界で、俺達だけが動いているのは、ベルメリア領でも変わらないようだ。
「みんなも、固まってる」
屋敷へ着く少し前に、かつてファーリちゃんを育てていた猟兵連中の面々を見たが、まさに出撃準備をしているといった様子のまま、動きが止まっていた。
「ファーリちゃん……。改めてだけど、一刻も早く、解決しないとな」
「うん。ジィンお兄ちゃん。これは、おいら達だけの問題じゃないと思う。『獣道』のみんなも大ピンチ。だから……おいらも……!」
ファーリちゃんは拳を握りしめる。
もうすぐ光の柱、その下へ辿り着く。
近づけば近づくほど、光は間違いなく、視界の中で大きくなっていくベルメリア邸から出ているのだと思い知らされる。
「……大丈夫ですかな、ジィン様」
後ろから、ムーア先生が声をかけてきた。
「な、何がですか」
「身体が震えていますぞ」
「なっ……ああ、何だか……ほぼ実家みたいな家が、とんでもないことになってると考えると……緊張するんですよ」
「ふぅむ、ジィン様にもあるのですな、そんなことが」
「ありますよ。若い頃しか過ごしてないせいですかね」
「ホッホッホ。そんなことは無いんじゃあないですかな?」
「どうしてそう思うんです?」
「私も、実は緊張しきっているのです。ジィン様と私、生きてきたと感じる年数はほぼ同じでありましょう」
「ま、まあそうですけど」
「戦場において、相手の気迫に圧倒されないように、鍛錬は積んできたハズです。しかし、こちらを向いていない巨大な魔物を前に、私には目を向けてさえいないというのに、圧倒的な圧力感じるような……そんな緊迫感が、あるのです」
「……やっぱりわかります?この感じ」
「そうですな。他の皆様も……」
「ジィン、何か……変じゃないかしら?
「あっ、ガラテヤ様も気づきましたか」
殺気とは違う、別の何か。
しかし確実に気迫であると断言できるそれに、俺達は全員、心の臓を手の内に収められているような感覚を覚えていた。
意識すればする程、鼓動が全身を駆け巡るように騒がしくなる。
俺とガラテヤ様、そして俺達の始まり。
有無を言わさず導かれたかのような帰郷に。
それは決して、心が落ち着くようなものではない。
光の柱、その元に見えるは、ベルメリア邸。
「……み、皆!」
久しぶりに姿を見た、ベルメリア子爵家の皆も、世界に起こった異変の例外では無い。
ガラテヤ様の父であり、ベルメリア領の騎士団長を勤めているランドルフ様は、訓練場で兵士達の訓練をしている最中。
長女のリズ様と次女のカトリーナ様は、二人で魔術の本を開きながら。
長男のバルバラ様は、自らの槍を磨いたまま。
そして領主であり、ガラテヤ様の母であるロジーナ様は異変を一足先に察知したのか、槍を抱えていた。
止まってしまった家族を前に、絶望がガラテヤ様を襲う。
「ガラテヤ様……」
膝をついて息を荒くしているガラテヤ様は、ゆっくりと上へ首を向け、こちらへ視線をやる。
「ジィン。光は屋敷の中よ。行きましょう」
「……ええ、分かりました。勝手に家に入ってくる不届き者を、ブッ倒しに行きましょう」
ガラテヤ様は、一瞬で額から脂汗を垂らしていた。
きっと彼女は、精神的に相当な無理をしている。
前世の記憶がもたらすのは、精神の成熟だけではなく、トラウマも然りである。
ガラテヤ様は前世で俺を目の前で失ったことを、酷く悲しんでいると言っていた。
今まさに、動きを固められている家族の姿が目の前にあるのだ。
「そうね。また、理不尽に家族を失うのは御免蒙るわ」
屋敷の扉を開け、光の元へ。
入ってすぐ、大広間の階段から立ち上がっている光、その元に立っていたのは。
「やあ、久しぶりだネ。ジィン君」
「……光の柱を見た時から、そんな感じはしてましたけど。何故あなたが、こんなことを」
かつて、神の別人格を名乗った、中性的な子供のような、老人のような……人間とも天使ともつかぬ何か。
クダリ仙人、その人であった。
一週間やそこらで王都へ来た時のことが、もはや懐かしく感じる。
道中で保存食は底を尽き、人間同様に動きが止まっている魔物や動物を狩って食べることもあった。
そして、辿り着くはベルメリア子爵邸。
全てが薄気味悪く止まった世界で、俺達だけが動いているのは、ベルメリア領でも変わらないようだ。
「みんなも、固まってる」
屋敷へ着く少し前に、かつてファーリちゃんを育てていた猟兵連中の面々を見たが、まさに出撃準備をしているといった様子のまま、動きが止まっていた。
「ファーリちゃん……。改めてだけど、一刻も早く、解決しないとな」
「うん。ジィンお兄ちゃん。これは、おいら達だけの問題じゃないと思う。『獣道』のみんなも大ピンチ。だから……おいらも……!」
ファーリちゃんは拳を握りしめる。
もうすぐ光の柱、その下へ辿り着く。
近づけば近づくほど、光は間違いなく、視界の中で大きくなっていくベルメリア邸から出ているのだと思い知らされる。
「……大丈夫ですかな、ジィン様」
後ろから、ムーア先生が声をかけてきた。
「な、何がですか」
「身体が震えていますぞ」
「なっ……ああ、何だか……ほぼ実家みたいな家が、とんでもないことになってると考えると……緊張するんですよ」
「ふぅむ、ジィン様にもあるのですな、そんなことが」
「ありますよ。若い頃しか過ごしてないせいですかね」
「ホッホッホ。そんなことは無いんじゃあないですかな?」
「どうしてそう思うんです?」
「私も、実は緊張しきっているのです。ジィン様と私、生きてきたと感じる年数はほぼ同じでありましょう」
「ま、まあそうですけど」
「戦場において、相手の気迫に圧倒されないように、鍛錬は積んできたハズです。しかし、こちらを向いていない巨大な魔物を前に、私には目を向けてさえいないというのに、圧倒的な圧力感じるような……そんな緊迫感が、あるのです」
「……やっぱりわかります?この感じ」
「そうですな。他の皆様も……」
「ジィン、何か……変じゃないかしら?
「あっ、ガラテヤ様も気づきましたか」
殺気とは違う、別の何か。
しかし確実に気迫であると断言できるそれに、俺達は全員、心の臓を手の内に収められているような感覚を覚えていた。
意識すればする程、鼓動が全身を駆け巡るように騒がしくなる。
俺とガラテヤ様、そして俺達の始まり。
有無を言わさず導かれたかのような帰郷に。
それは決して、心が落ち着くようなものではない。
光の柱、その元に見えるは、ベルメリア邸。
「……み、皆!」
久しぶりに姿を見た、ベルメリア子爵家の皆も、世界に起こった異変の例外では無い。
ガラテヤ様の父であり、ベルメリア領の騎士団長を勤めているランドルフ様は、訓練場で兵士達の訓練をしている最中。
長女のリズ様と次女のカトリーナ様は、二人で魔術の本を開きながら。
長男のバルバラ様は、自らの槍を磨いたまま。
そして領主であり、ガラテヤ様の母であるロジーナ様は異変を一足先に察知したのか、槍を抱えていた。
止まってしまった家族を前に、絶望がガラテヤ様を襲う。
「ガラテヤ様……」
膝をついて息を荒くしているガラテヤ様は、ゆっくりと上へ首を向け、こちらへ視線をやる。
「ジィン。光は屋敷の中よ。行きましょう」
「……ええ、分かりました。勝手に家に入ってくる不届き者を、ブッ倒しに行きましょう」
ガラテヤ様は、一瞬で額から脂汗を垂らしていた。
きっと彼女は、精神的に相当な無理をしている。
前世の記憶がもたらすのは、精神の成熟だけではなく、トラウマも然りである。
ガラテヤ様は前世で俺を目の前で失ったことを、酷く悲しんでいると言っていた。
今まさに、動きを固められている家族の姿が目の前にあるのだ。
「そうね。また、理不尽に家族を失うのは御免蒙るわ」
屋敷の扉を開け、光の元へ。
入ってすぐ、大広間の階段から立ち上がっている光、その元に立っていたのは。
「やあ、久しぶりだネ。ジィン君」
「……光の柱を見た時から、そんな感じはしてましたけど。何故あなたが、こんなことを」
かつて、神の別人格を名乗った、中性的な子供のような、老人のような……人間とも天使ともつかぬ何か。
クダリ仙人、その人であった。
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