婚約破棄するのは私

大森蜜柑

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第二章・和の国

冬の清野浜

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 藤堂様の領地、清野浜に向う道中は何とも言えない沈黙が続き、荷を運んでくれている村人達は紹介もされない私の事が気になるのか何度も目が合いますが、話し掛けてはきません。私から話し掛けようとすれば目を逸らされ、タイミングを逃してしまうのです。
 藤堂様は木島様から何を聞かされたのか、宿を出るときに「では行こう」の一言のみで私達への説明は何も無く、とても厳しい顔をして丹羽様、木島様と先を歩いています。まだ何か話しているので誰も近づく事ができません。

「ナタリー、本当に何があったのかしら? 私達に聞かせたところでどうにもならない事なのでしょうけれど。帰国してすぐに戦に出るなんて事無いわよね?」
「それは何とも言えませんね。もう何百年も領地を奪い合う戦が続いていると仰っていましたし、敵が攻めて来ているという事もあるかもしれませんよ」

 藤堂様が仕えている鮫島勝成様はこの和の国を三分の一ほど掌握しており、今、飛ぶ鳥を落とす勢いの戦国武将なのです。ですから奪われた領地を取り戻そうとする残党との小競り合いが後を絶たず、それを平定するために奔走しているというのが今の現状なのだそうです。
 清野浜は戦場になる可能性の低い土地だと聞きましたが、戦況によってはどうなるかなど誰にもわかりません。

 到着した清野浜は海に面した漁業や農業が盛んな村と聞いていましたが、冬を迎えたこの時期はシンと静まり返っており、少々物寂しい雰囲気です。気候は母国の秋に似た寒さで、極寒の冬に慣れた私達には暖かくさえ感じました。木島様と丹羽様は自宅へ戻り、先頭にいた藤堂様は私達と一緒に並んで屋敷に向いました。何か問題が起きたのかと聞きたかったけれど、ピリピリとした空気を纏っていたので聞ける雰囲気ではありませんでした。

 私達は道中、戦の心配をしていたのですが、問題はまた別の所にあったのだと知るのは藤堂様の屋敷に着いてすぐの事でした。


「兄上! お帰りなさいませ、無事に戻られて安堵いたしました。寒かったでしょう、すぐに温かい汁物を用意させます。早く中へ! お母上が首を長くしてお待ちですよ!」
「兄上お久しぶりです、是非旅の話をお聞かせてください」
「おお、セツ、雅高、今帰った。お前達も息災であったか。土産話は後ほどな」

 藤堂様の妹のセツ様と弟の雅高様です。セツ様は18歳。雅高様は16歳と年の近いご兄弟は大変仲が良いのだそうで、私としては羨ましい限りです。

「清雅、やっと帰って来たのですね。無事で何よりです。……その娘ですか、あの異人が押し付けてきた娘というのは。はぁ……こちらは世話をした立場だというのに間の悪い……」
「母上! 止めて下さい。彼女に聞こえてしまいます」
「聞こえたところで意味など分からないでしょう」

 ああ、やはり心配は的中したようですね。藤堂様はご家族と何度も話し合いをしたから大丈夫だと仰っていたけれど、裏を返せば何度も話し合わなければならないほど私の嫁入りを反対されていたという事ですもの。会う前からこんなに嫌われてしまって、どうやって私という異分子を受け入れて頂きましょうか。

「来てしまった者を今更放り出す訳にも行きませんから、あの娘の父親に使わせていた離れを整えてあります。そこに住まわせてどこかに嫁の貰い手を捜しましょう」

 今、藤堂様のお母様は何と言ったのですか? 聞き間違いでなければ、どこか他の家に嫁に出すと仰ったのでは? 私は藤堂様の妻になるためにこの国へ来たと言うのに、どうなっているの?

「母上、私はユーリア殿を妻に娶ると決めたのです。母上も納得して彼女が来るのを楽しみにしていたではありませんか」
「今はあの時と事情が変わったのですよ」

 藤堂様のお母様は困った様な視線を私に送り、屋敷の奥へ行ってしまわれました。私とナタリーは誰からも相手にされず、敷地の隅で荷物が母屋でなはく隣の小さな建物に運び込まれて行くのをただ黙って見ていました。そんな私達に気が付いた藤堂様はこちらにやって来て言いました。

「ユーリア殿、すまぬ、母が申した事は気にせずとも良い。すでにお館様の許可も頂いて年が明けたら祝言を挙げると決まっておるのだ。部屋はしばらく離れを使ってもらうしかないが、祝言を挙げたら母屋に移らせる。それまで我慢してくれるか」

 この方に着いてくと決めたのです。信じて従いましょう。

「はい。わかりました」

 私と藤堂様がそんな話をしていると、母屋の奥から綺麗な着物を着た若い女性が現れこちらに近づいて来ました。

「清雅様、お帰りなさいませ。お母上様からはもうお話しはお聞きになりましたか? 幼少の頃からのお約束がやっと果たされる時が来たのです。この時を待って、自害せず生きてきて本当に良かった。さぁ、いつまでもそんな所に居ないで温かい火の側へ参りましょう。セツ様が待っておりますよ」

 その女性はチラっと私達を見て会釈すると、藤堂様の手を取って母屋へ連れて行こうとしました。


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