ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね

ヒラヲ

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ざまぁされた王子様

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「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」

王立学園の卒業パーティーにて、この国の第三王子である僕……サミュエル・ラシャフィールドの朗々たる声がホール中に響き渡り、集まった卒業生たちの視線が注がれている。

(完璧だ……)

僕の右腕にはエイミーが寄り添い、左腕は真っ直ぐに伸びて目の前のオーレリアを指さしている。
その顔の角度も表情も指をさすポーズも……全てが完璧だった。

この日のために発声練習からポージングの選定、髪と肌の手入れはいつもより念入りに、もちろん爪の長さと形にもこだわって、数週間前からコンディションを整えてきたのだ。

──おそらく、今の僕は過去最大級の輝きを放っている。

普段からまばゆい輝きを放つ僕が過去最大級というのだから、その破壊力はいかほどだろう。

それなのに、目の前のオーレリアは僕に見惚れることなく、呆れたような表情で深いため息を吐く。

(オーレリアめ!)

淡い水色の長い髪に深い青の瞳を持つオーレリアは、才色兼備な僕の婚約者だ。

まあ、美しさは僕のほうが上だが……。

そんなオーレリアは、僕の容姿を褒めるより、お小言ばかりを口にする。
それに比べ、エイミーは僕の美しさを理解してくれていた。

エイミー・ゴレッジ男爵令嬢。

元は平民だったが、ゴレッジ男爵の隠し子であることが発覚し、今年に入ってから王立学園に編入してきた。
礼儀やマナーに疎いところもあるが、エイミーの素直な称賛の声に僕は幾度も救われてきたのだ。

そんなエイミーは、オーレリアから陰湿な嫌がらせを受けているのだという。

「エイミーに嫌がらせなどと……見損なったぞオーレリア!」

オーレリアを改心させるためにも、エイミーから聞いた数々のいじめを暴露し、婚約破棄という罰を与えよう。
そう考え、実行に移したのだが……。

「サミュエル殿下、見損なったのはわたくしのほうですわ」

凛とした佇まいのまま、動じることなくオーレリアは口を開いた。

「わたくしがゴレッジ男爵令嬢に嫌がらせをしたという事実はございません。それとも、そのような証拠がどこかにあるのでしょうか?」
「証拠だと? それならばエイミーの教科書が破られ、形見のネックレスが盗まれて……」
「ですから、その犯人がわたくしであるという証拠は?」
「それは、エイミーが……」
「まさか、ゴレッジ男爵令嬢の証言のみなどということはありませんわよね?」
「…………」

エイミーの証言のみなのだが……。

「で、でも、エイミーはあんなにも涙を流して悲しんでいたのだぞ!?」
「涙を流して悲しむフリくらい、いくらでもできますわ。ねえ?」
「え?」

オーレリアにつられるように僕もエイミーを見ると、彼女はあからさまに視線を逸らす。

「さあ、茶番はそこまでにしてもらおうかな?」

そこに、見知らぬ男が割り込んできた。

背はすらりと高く均整の取れた体格、輝く銀の髪に青紫の瞳を持ち、少し冷たい印象を与えるが綺麗な顔立ちをしている。

まあ、僕のほうが美しいが……。

「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢、あなたに婚約を申し込みたい」

そう言って、銀髪の男はオーレリアの前にひざまずいた。

「幼い頃からあなただけを想って生きてきた。そんなあなたが婚約を破棄すると聞いて、居ても立ってもいられなかったんだ!」
「シリル……!」
「オーレリアを幸せにすると誓う。どうか私と生涯を共にしてほしい!」

すると、オーレリアの頬はみるみる赤く染まっていく。

「わ、わたくしもシリルのことがずっと忘れられなくて……」

僕に見せたことのない表情で、シリルと呼ばれた銀髪男と見つめ合うオーレリア。

(………は?)

そして、そんな二人を祝福するように、周りの卒業生たちから拍手が沸き上がる。

(………はぁぁあ?)

この日、過去最大級に輝いていたはずの僕は一瞬でその光を失い、転落してしまったのだった。


◇◇◇◇◇◇


卒業パーティーから一ヶ月が経った今、僕は従者とともに馬車に乗り、辺境の地へ向かっている。

「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」
「自業自得だからだと思いますけど?」
「むぅ………」

もう何度目になるかわからない自問自答に、呆れた表情を隠すことなく僕の従者……クライド・グレシャムは答える。

薄茶色の髪に焦げ茶色の瞳を持つクライドだが、その目は細すぎて閉じているのか開いているのかよくわからない。

(こんなことになるなんて……)

厳正な調査の結果、エイミーが嫌がらせだと訴えていた件は、彼女による自作自演のものだと決定づけられた。

いや、厳正な調査というより、エイミーがすぐに自供したと言ったほうが正しい。
僕があまりにも簡単にエイミーを信用するものだから、調子に乗って第三王子妃の座を狙ってしまった……ということだった。

そして、オーレリアとの婚約は無事に破棄されることとなる。浮気をしたという僕の有責で……。

母上は半狂乱で泣き叫び、二番目の異母兄からは罵られ、父には呆れられてしまう。
その時になって、ようやく自分のしでかした事の重大さに気づくも、すでに手遅れであった。

僕との婚約が破棄されたあと、すぐにオーレリアは銀髪男と婚約を結び、隣国フォーラス王国へ旅立ったそうだ。
なぜなら、オーレリアに求婚をした銀髪男が隣国のシリル第一王子だったから……。

オーレリアの母は隣国の出身で、その縁もあり、彼女は幼い頃からシリルと交流があったらしい。

せない……)

もっと解せないのは、僕の王位継承権が剥奪され、オールディス辺境伯のもとで鍛え直すよう父から言い渡されたことだ。
この処罰に関しては、キャクストン侯爵家からの強い要望があったそうで、母上がいくら抗議をしてもくつがえされることはなかった。

そのような事情により、僕はクライドと二人きりでオールディス辺境伯領へと向かっている。

「どうして僕が浮気をしたことになるんだ!」
「婚約者でもない異性と二人きりで何度も過ごすからですよ」
「あれは相談に乗っていただけなのに……」
「もうここまで来たのですから、いい加減諦めてください。それより、目の下にくまができているようですが?」
「何っ!?」

僕は慌てて手鏡に自身の顔を映す。

柔らかな金の髪にシミ一つない滑らかな白い肌、そしてぱっちりとした大きな青の瞳には長い睫毛が影を落としている。

(どうしよう。今日の僕もすこぶる顔がいい……)

だが、顔の造形に変わりはなくとも、クライドの言う通り目の下にはうっすらと隈ができていた。

「信じられない!」

宿屋の固いベッドと慣れない環境のせいで寝付きが悪く、夜中に何度も目覚めてしまい寝不足気味だった。
食事だって、以前のように美しさを保つための工夫されたメニューが毎食用意されるわけではない。
そんな影響がもろに現れてしまったのだろう。

「はぁ……」

このままじゃ、僕の美しさがどんどん失われていってしまう。

(オールディス辺境伯領へ到着すれば、王城と同レベルとは言わないまでも、宿屋よりはマシな待遇が受けられるだろう……)

そんなことを考えながら、僕は馬車に揺られ続けたのだった。
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