ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね

ヒラヲ

文字の大きさ
2 / 26

オールディス辺境伯領

しおりを挟む
ついにオールディス辺境伯領に到着した僕たちは、辺境伯へ先触れを出し、ひとまず街の宿屋に泊まることになった。
なぜ王族の僕が先触れなど出さなくてはならないのかとクライドに噛み付くも、「これからお世話になるのだから当然です」と逆に諭さとされてしまう。
解せない……。

そして、オールディス辺境伯からの返事には、邸宅ではなく騎士団本部がある城砦へ向かうよう書かれており、翌日の昼過ぎに訪れるとすぐに応接室へ案内された。

「サミュエル殿下。はるばる王都から、この辺境の地までよく来てくださいました」

そう挨拶をするのは、デズモンド・オールディス辺境伯。
年齢は五十代前半くらいだろうか、白が混じった灰色の髪に琥珀色の瞳を持ち、その立派な体躯と堂々とした態度からは威圧感を感じる。

「本来であれば歓待の宴を……と言いたいところですが、王家からの通達でサミュエル殿下を王族として扱うことは禁じられておりまして。本日より我がオールディス騎士団の見習い騎士として精進していただきたく思います」
「み、見習い騎士……?」

たしかに、オールディス辺境伯のもとで鍛え直すようにと言われ、この地へ送られた。
だが、それは見聞を広めてこいという意味だと思っていたのに……。

(騎士……つまり、僕に戦えと?)

理由わけあって、僕はずいぶん前から剣術の稽古を禁じられており、もう剣の握り方すら覚えていない。
それは魔法も同じで、基礎魔法は使えるものの、攻撃魔法なんて一度も使ったことがなかった。

(そんなの無理に決まっている……)

呆然とする僕の耳に、応接室の扉をノックする音が聞こえた。

「失礼します」

扉を開けて入ってきたのは、騎士服を身に纏った背の高い一人の青年。

「ちょうどよかった。こちらがサミュエル第三王子殿下だ」
「はじめまして。デズモンド・オールディスの次男、アイザックと申します」

そう言って、頭を下げたアイザック。

黒髪に目鼻立ちがはっきりした精悍な顔立ち、弓なりの形のいい眉の下には紫の瞳が鋭く光っており、服の上からでもわかる鍛え上げられた肉体も相まって野性的な色気を放っている。

(この男がオールディス辺境伯の後継者か……)

クライドから事前に聞かされていた話によると、デズモンドの長男が数年前に病で亡くなり、現在は次男のアイザックが後継者となっているそうだ。

「これからはこのアイザックが殿下の指導係となります」
「指導係……?」
「ええ。息子はオールディス騎士団の団長を務めておりますので、適任でしょう?」
「いや、でも……」
「さっそく案内をさせましょう。頼んだぞアイザック」
「はい」
「待ってくれ! 僕が騎士になるなどと……」

しかし、有無を言わせぬ態度で、僕とクライドは応接室から退出させられてしまった。
どうやら、僕を王族として扱わないという話は事実のようだ……。

そのあとは、言われるがままアイザックの後ろを付いて歩く。

「こちらが我が騎士団の宿舎となっております」

騎士団棟の訓練場や食堂などを順に案内され、最後に連れて来られたのが王立騎士団と変わらない規模の宿舎だった。
その中の一室が僕の部屋として与えられたのだが……。

「こ、こんなところで僕に生活をしろというのか?」

震える僕の前には、一人用の小さなベッドと備え付けのクローゼットにサイドテーブルが置かれているだけの狭い部屋。

「でも、この部屋にはバスルームがありますよ。よかったですね、殿下」

ずかずかと入り込んだクライドが、勝手に部屋の中を物色している。

「ちっともよくないだろ! こんな狭くて固そうなベッドじゃ寝不足でまた隈ができてしまう! 肌のツヤだってこれ以上失われたらどうしてくれるんだ!」
「子守唄でも歌いましょうか?」
「必要ない!」
「ふふっ………」

その時、クライドと言い争う僕の耳に、アイザックの唇から漏れたあざけり混じりの笑い声が届く。
反射的にアイザックを睨みつけるも、彼は余裕な表情で僕の視線を受け止めた。

「殿下、これでも見習い騎士に与えるには破格の待遇なのですよ?」
「破格……?」

本来であれば、見習い騎士たちは相部屋で、風呂も共用だというのだ。

「そんなところへ殿下を放り込めば、周りが戸惑ってしまいますからね」

やれやれと言いたげなアイザックの態度に苛立ちを覚える。

(何なんだこの失礼な男は……!)

すると、アイザックが僕に近づき、じろじろと値踏みするような視線を向けられた。

「それに、こんな貧弱な身体じゃどうせ訓練でボロボロになって、寝不足どころか泥のように眠ることになりますよ」
「なっ! 貧弱だと!?」
「腕だって細くてヒョロヒョロじゃないですか。ほら」

そう言って、アイザックは服の上から僕の左腕を軽く掴む。

「触るな! 僕の身体は貧弱なんじゃない! しなやかで美しくあるように計算し尽くされた……」
「うわっ、肌も真っ白!」
「だから、なんでそでめくるんだ! 触るなと言ってるだろう!」

だが、僕の声なんてまるで聞こえていないかのように、アイザックは無遠慮に僕の左腕に触れてくる。

(力強いな、コイツ……)

手を振り払おうにもびくともしない。

それに、僕の腕を撫でるごつごつとした掌の感触、間近で見る逞しく太い腕に、僕とアイザックの体格差をまざまざと感じてしまう。

すると、アイザックが眉間にシワを寄せながら何事かを小さく呟いた。

「これは……個室にして正解だったな……」
「はあ? どういう意味だ!?」
「いえ、こちらの話です。それより、明日の訓練に備えて今夜はさっさと寝てくださいね」

アイザックはようやく僕の左腕から手を離すと、ひらひらと手を振りながら立ち去っていく。

部屋の前には、僕とクライドの二人だけが残された。

「アイツは一体何なんだ! 不敬過ぎるだろう!」
「これが見習い扱いってことじゃないですか?」
「むぅ………」

クライドも不敬ギリギリの発言が多い奴だが、アイザックはそれ以上だ。

「まあ、殿下のお気持ちもわかりますが……。アイザック様の言う通り、早く寝たほうがよろしいですよ。明日から殿下の生活はがらりと変わるのですから」
「………わかっている」
「私は隣の部屋におりますので、子守唄が必要になればお呼びください」
「だから、いらないと言っているだろう!」

結局、その日の夜は固いベッドと湧き上がる怒りのせいで熟睡することはできなかった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

なんでも諦めてきた俺だけどヤンデレな彼が貴族の男娼になるなんて黙っていられない

迷路を跳ぶ狐
BL
 自己中な無表情と言われて、恋人と別れたクレッジは冒険者としてぼんやりした毎日を送っていた。  恋愛なんて辛いこと、もうしたくなかった。大体のことはなんでも諦めてのんびりした毎日を送っていたのに、また好きな人ができてしまう。  しかし、告白しようと思っていた大事な日に、知り合いの貴族から、その人が男娼になることを聞いたクレッジは、そんなの黙って見ていられないと止めに急ぐが、好きな人はなんだか様子がおかしくて……。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。

時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!? ※表紙のイラストはたかだ。様 ※エブリスタ、pixivにも掲載してます ◆4月19日18時から、この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」を1話ずつ公開予定です。そちらも気になったら覗いてみてください。 ◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

ドジで惨殺されそうな悪役の僕、平穏と領地を守ろうとしたら暴虐だったはずの領主様に迫られている気がする……僕がいらないなら詰め寄らないでくれ!

迷路を跳ぶ狐
BL
いつもドジで、今日もお仕えする領主様に怒鳴られていた僕。自分が、ゲームの世界に悪役として転生していることに気づいた。このままだと、この領地は惨事が起こる。けれど、選択肢を間違えば、領地は助かっても王国が潰れる。そんな未来が怖くて動き出した僕だけど、すでに領地も王城も策略だらけ。その上、冷酷だったはずの領主様は、やけに僕との距離が近くて……僕は平穏が欲しいだけなのに! 僕のこと、いらないんじゃなかったの!? 惨劇が怖いので先に城を守りましょう!

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

【完結】腹黒王子と俺が″偽装カップル″を演じることになりました。

Y(ワイ)
BL
「起こされて、食べさせられて、整えられて……恋人ごっこって、どこまでが″ごっこ″ですか?」 *** 地味で平凡な高校生、生徒会副会長の根津美咲は、影で学園にいるカップルを記録して同人のネタにするのが生き甲斐な″腐男子″だった。 とある誤解から、学園の王子、天瀬晴人と“偽装カップル”を組むことに。 料理、洗濯、朝の目覚まし、スキンケアまで—— 同室になった晴人は、すべてを優しく整えてくれる。 「え、これって同居ラブコメ?」 ……そう思ったのは、最初の数日だけだった。 ◆ 触れられるたびに、息が詰まる。 優しい声が、だんだん逃げ道を塞いでいく。 ——これ、本当に“偽装”のままで済むの? そんな疑問が芽生えたときにはもう、 美咲の日常は、晴人の手のひらの中だった。 笑顔でじわじわ支配する、“囁き系”執着攻め×庶民系腐男子の 恋と恐怖の境界線ラブストーリー。 【青春BLカップ投稿作品】

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

処理中です...