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アイザックの要求
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「殿下、ここで何をしてらっしゃるのです?」
地を這うようなアイザックの低い声が、研究室内に響いた。
「何って、化粧水の研究を……」
対する僕は突然現れたアイザックに驚き、ポカンとしながらも正直に答える。
「へぇ……。化粧水の研究で男と抱き合う必要が?」
そう指摘され、ようやくノアの腕の中に抱き留められている現状に気がついた。
「ああ、これはノアの肌を確認をしようとして……」
しかし、説明を終えるより先に、ずかずかと研究室に入り込んだアイザックが後ろから僕をぐいっと引っ張る。
そのまま、今度はアイザックの腕の中に抱き留められる形になってしまった。
「おい! 何をする!」
そのままぎゅうぎゅうとアイザックに抱きしめられ、抗議の声を上げ身体をモゾモゾと動かすも、腕の中から抜け出せない。
僕は助けを求めてクライドに視線を送るが、こんな騒ぎでもまだソファで眠りこけていた。
いや、クライドのことだから、面倒で寝たフリを決め込んでいる可能性が高い。
「あの男とは抱き合っていたのに、俺とは嫌ってことですか?」
「はあ? さっきはバランスを崩して倒れただけだ。いいから離せ!」
アイザックを睨みながら、僕を抱きしめる腕をペシペシと叩いて訴える。
「そんな可愛いことをしてもダメです!」
「意味がわからないことばっかり言うな!」
すると、アイザックはこれ見よがしに大きな溜息を吐いてみせた。
溜息を吐きたいのは僕のほうなのに……。
「それより、何をしに来たんだ?」
ようやくアイザックの腕の中から抜け出せた僕は、気になっていたことを尋ねる
「ただの見学ですよ」
「見学……?」
先日、アイザックとシュークリームを食べながら、ノアの研究を手伝うことになったと話をした。
どうやらそのことがきっかけで、ノアの研究内容に興味を持ったらしい。
そういうことならと、僕は化粧水だけでなく乳液や美容液の試作品をアイザックに見せ、詳しい説明を行う。
「すごいですね……。思ったよりも本格的で驚きました」
「僕の美しい肌を保つためのものを、いい加減に作るはずがないだろう」
そう言いながらも、普段から僕を褒めることのないアイザックの褒め言葉に、内心は嬉しい気持ちが湧き上がる。
「化粧水を筆頭にスキンケアアイテム一式を商品化したいと考えております」
眼鏡をかけ直し前髪を下ろしたノアが、説明を付け加えた。
すると、アイザックはノアをジロリと睨みつけ、ノアはビクリと身体を揺らして口を閉じてしまう。
「こら! ノアを睨むな!」
「別に睨んでなんていませんよ。それより、商品化を目指しているなら俺の手伝いも必要になりますよね?」
「え……?」
商品として販売したいのなら、材料の仕入れや製作に関わる人員と場所の確保など、やらなければならないことが山のようにあるらしい。
「そうなのか……?」
「ええ。それに、どんなにいいものを作ったとしても売れなければ意味がありません。ただ出来上がった商品を店頭に並べているだけで売れると思いますか?」
「むぅ………」
残念ながら商品の研究開発に協力することはできても、販売となると僕にはさっぱりわからない。
しかし、オールディス辺境伯の次期後継者であるアイザックならば、いくつものコネクションや人脈を使ってフォローをすることが可能だという。
「話はわかったが……。どうしてお前が協力をしてくれるんだ?」
「この領地が潤ういい商売だと思ったからですよ」
そう言って、にっこりと笑うアイザック。
「どうです? 殿下にもいい話でしょう?」
「ああ………」
アイザックの話を聞き、とてつもなく有り難い申し出であることは僕にもわかった。
ただ、目の前のアイザックが、いつもの胡散臭い笑みを浮かべていることが気にかかる。
「ただし、協力をするには条件があります」
「条件?」
やはり僕の勘は当たったようだ。
一体どんな無茶な要求をされるのかと身構えている僕に、アイザックが顔を寄せ、周りには聞こえない小さな声で囁く。
「これから毎日、俺と二人きりの時間を作ってください」
「は?」
意味がわからず、僕はパチパチと瞬きをしながらアイザックの顔を見つめる。
すると、アイザックはそっと僕の手を握り、唇を僕の耳元に寄せた。
「今までと同じように、訓練のあと殿下に会いに行ってもいいですか?」
距離が近いのはいつものことだが、耳元で囁かれるアイザックの声に、腰の辺りがゾクゾクとする感覚が生まれる。
「もちろん、美味しいお菓子も用意しますから」
「んっ………」
アイザックの吐息が耳に触れ、たまらず逃れようと腰をねじるも、うっかり変な声が出てしまう。
「わ、わかった! わかったから!」
恥ずかしさに耐えきれず、それを誤魔化すように了承の返事をしてしまっていた。
「では、これからよろしくお願いします」
こうして、僕とノアが開発を手掛けるスキンケアグッズの商品化への道が拓けることとなる。
それと同時に、僕とアイザックの関係にも徐々に変化が現れ始めたのだった。
地を這うようなアイザックの低い声が、研究室内に響いた。
「何って、化粧水の研究を……」
対する僕は突然現れたアイザックに驚き、ポカンとしながらも正直に答える。
「へぇ……。化粧水の研究で男と抱き合う必要が?」
そう指摘され、ようやくノアの腕の中に抱き留められている現状に気がついた。
「ああ、これはノアの肌を確認をしようとして……」
しかし、説明を終えるより先に、ずかずかと研究室に入り込んだアイザックが後ろから僕をぐいっと引っ張る。
そのまま、今度はアイザックの腕の中に抱き留められる形になってしまった。
「おい! 何をする!」
そのままぎゅうぎゅうとアイザックに抱きしめられ、抗議の声を上げ身体をモゾモゾと動かすも、腕の中から抜け出せない。
僕は助けを求めてクライドに視線を送るが、こんな騒ぎでもまだソファで眠りこけていた。
いや、クライドのことだから、面倒で寝たフリを決め込んでいる可能性が高い。
「あの男とは抱き合っていたのに、俺とは嫌ってことですか?」
「はあ? さっきはバランスを崩して倒れただけだ。いいから離せ!」
アイザックを睨みながら、僕を抱きしめる腕をペシペシと叩いて訴える。
「そんな可愛いことをしてもダメです!」
「意味がわからないことばっかり言うな!」
すると、アイザックはこれ見よがしに大きな溜息を吐いてみせた。
溜息を吐きたいのは僕のほうなのに……。
「それより、何をしに来たんだ?」
ようやくアイザックの腕の中から抜け出せた僕は、気になっていたことを尋ねる
「ただの見学ですよ」
「見学……?」
先日、アイザックとシュークリームを食べながら、ノアの研究を手伝うことになったと話をした。
どうやらそのことがきっかけで、ノアの研究内容に興味を持ったらしい。
そういうことならと、僕は化粧水だけでなく乳液や美容液の試作品をアイザックに見せ、詳しい説明を行う。
「すごいですね……。思ったよりも本格的で驚きました」
「僕の美しい肌を保つためのものを、いい加減に作るはずがないだろう」
そう言いながらも、普段から僕を褒めることのないアイザックの褒め言葉に、内心は嬉しい気持ちが湧き上がる。
「化粧水を筆頭にスキンケアアイテム一式を商品化したいと考えております」
眼鏡をかけ直し前髪を下ろしたノアが、説明を付け加えた。
すると、アイザックはノアをジロリと睨みつけ、ノアはビクリと身体を揺らして口を閉じてしまう。
「こら! ノアを睨むな!」
「別に睨んでなんていませんよ。それより、商品化を目指しているなら俺の手伝いも必要になりますよね?」
「え……?」
商品として販売したいのなら、材料の仕入れや製作に関わる人員と場所の確保など、やらなければならないことが山のようにあるらしい。
「そうなのか……?」
「ええ。それに、どんなにいいものを作ったとしても売れなければ意味がありません。ただ出来上がった商品を店頭に並べているだけで売れると思いますか?」
「むぅ………」
残念ながら商品の研究開発に協力することはできても、販売となると僕にはさっぱりわからない。
しかし、オールディス辺境伯の次期後継者であるアイザックならば、いくつものコネクションや人脈を使ってフォローをすることが可能だという。
「話はわかったが……。どうしてお前が協力をしてくれるんだ?」
「この領地が潤ういい商売だと思ったからですよ」
そう言って、にっこりと笑うアイザック。
「どうです? 殿下にもいい話でしょう?」
「ああ………」
アイザックの話を聞き、とてつもなく有り難い申し出であることは僕にもわかった。
ただ、目の前のアイザックが、いつもの胡散臭い笑みを浮かべていることが気にかかる。
「ただし、協力をするには条件があります」
「条件?」
やはり僕の勘は当たったようだ。
一体どんな無茶な要求をされるのかと身構えている僕に、アイザックが顔を寄せ、周りには聞こえない小さな声で囁く。
「これから毎日、俺と二人きりの時間を作ってください」
「は?」
意味がわからず、僕はパチパチと瞬きをしながらアイザックの顔を見つめる。
すると、アイザックはそっと僕の手を握り、唇を僕の耳元に寄せた。
「今までと同じように、訓練のあと殿下に会いに行ってもいいですか?」
距離が近いのはいつものことだが、耳元で囁かれるアイザックの声に、腰の辺りがゾクゾクとする感覚が生まれる。
「もちろん、美味しいお菓子も用意しますから」
「んっ………」
アイザックの吐息が耳に触れ、たまらず逃れようと腰をねじるも、うっかり変な声が出てしまう。
「わ、わかった! わかったから!」
恥ずかしさに耐えきれず、それを誤魔化すように了承の返事をしてしまっていた。
「では、これからよろしくお願いします」
こうして、僕とノアが開発を手掛けるスキンケアグッズの商品化への道が拓けることとなる。
それと同時に、僕とアイザックの関係にも徐々に変化が現れ始めたのだった。
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