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密談(Side.アイザック)
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オーレリアへの謝罪の場は、思っていたよりも和やかな雰囲気のまま終わった。
右隣に座るサミュエルも見るからに穏やかな顔つきをしている。
(始まるまではあんなにガチガチに緊張してたのにな)
オーレリアから手紙が届いて今日までの数日間、サミュエルは「どうしよう」を一日に何十回も呟いていた。
半泣きで俺に縋るような目を向けるサミュエルが可愛いくて……いや、そんなサミュエルが心配になり、結局俺も同席をすることに決めたのだが……。
シリルとオーレリアがソファから立ち上がる際、俺はちらりとクライドへ目配せをする。
「それでは、俺は見送りに行ってきます」
サミュエルに声を掛けると、予想通り自分も行くと言い出した。
それをクライドがやんわりと引き止めている。
「サミュエル様、スキンケアグッズが完成しましたら、ぜひわたくしにもご連絡くださいね」
「ああ! もちろんだ!」
満面の笑みを浮かべるサミュエルが今日も可愛い。
そのままサミュエルとクライドを応接室へ残し、俺はオーレリアたちと共に退室した。
「こちらへ……」
そして、案内したのは別館の貴賓室である。
部屋に入ると、今度は俺一人がシリルとオーレリアの二人と向かい合う形となって座った。
赤髪の護衛騎士は二人の背後に控えている。
実は、謝罪の場に同席を申し入れた際、一つの条件が付けられたのだ。
それが、俺個人との話し合いの場を設けること。ただし、サミュエルには内密に……。
そのため、クライドがサミュエルを騎士団の宿舎へ連れ帰る手筈てはずになっている。
(一体、何が望みだ……?)
オーレリアの生家であるキャクストン侯爵家は、表向きにはサミュエルの厳罰を望んでいるように見える。
しかし、我が家への手紙にはサミュエルを擁護するような要望が書かれていた。
そして、今回のオーレリアを見るに、サミュエルに対して怒りの感情はあるのだろうが、その根底には全く別の想いがあるように感じた。
「単刀直入にお伺いいたします。オールディス辺境伯子息様はどうして謝罪の場に同席を申し入れられたのですか?」
オーレリアの深い青の瞳が、じっと俺を見つめる。
(さて、どうするか……)
貴族とは腹の探り合いが常である。
その点に置いては、俺よりも亡くなった兄のほうが得意だった。
そんなどうしようもないことを考えながらも、当たり障りのない答えを口にする。
「サミュエル殿下が心配だったからです」
「心配?」
「ええ。キャクストン侯爵令嬢から手紙が届くと、殿下は毎日毎日『どうしよう』と連呼しておりましたので」
「まあ!」
そう言って、オーレリアはクスっと小さく笑みを零す。
「そこで、事情を知っている私が微力ながら殿下の側に付いていようと思った次第です」
言い終えると、しばしの沈黙が流れた。
「その事情はどこからお聞きになられたのです?」
「サミュエル殿下本人からです」
「どこまで?」
「どこまで……とは?」
すると、オーレリアがふっと息を吐いた。
「このままでは埒が明きませんわね」
「…………」
全くの同感だった。
兄だったなら、このような場でも自分の手の内は見せずに、相手から必要な情報だけを引き出していただろう。
本当に、兄の背中が遠すぎて嫌になる。
「キャクストン侯爵令嬢、申し訳ないが腹を割った会話を希望してもいいだろうか?」
そう口にすると、オーレリアが軽く目を見開いた。
俺の頭の中には『脳筋め』と揶揄う兄の声が響いたが、こればっかりは仕方がない。
「ええ。わたくしのことはオーレリアとお呼びください。口調も崩していただいて構いませんわ」
「ああ、助かる。俺のことも名前で呼んでくれ」
俺は首元のタイを指で緩めながら、さっそく素の口調に戻した。
シリルからの視線が痛い気もするが、俺だってサミュエルが関わることで引くつもりはない。
「それで、さっきの質問の答えだが……」
過去のオーレリアに対する態度や卒業パーティーでの出来事など、俺はサミュエルから聞いた内容を端的に話して聞かせた。
「王城での暮らしについてサミュエル様から何か聞かれましたか?」
「スキンケアグッズを自作していたことくらいしか……。ああ、そういえば菓子を食べさせてもらえなかったとは言っていたな」
だからチョコレート一粒をあんなに喜んで食べていたのだ。
「……それを、どう思われましたか?」
妙な質問だ。
そう思いながらも、素直な感想を口にする。
「菓子が禁止だなんて不思議だとは思った。それに、スキンケアグッズを自作するのも王子の趣味にしては変わっているなと……」
普通なら剣術や馬術に狩り……いや、それすらもサミュエルはほとんど経験がないようだった。
「ええ。剣も魔法も学ばず、スキンケアグッズを自作する第三王子……おかしいとは思いませんか?」
「まあな。一体どんな教育を受けてきたんだ」
すると、オーレリアの表情が苦々しいもの変わる。
「あんなもの教育ではありませんわ。あれは……虐待です」
そう吐き捨てるように言ったオーレリア。
全く予想もしていなかった言葉に、俺は思わず息を呑む。
「虐待? 誰がそんなことを?」
「……ディアナ妃ですわ」
オーレリアが告げたのは、サミュエルの母の名前だった。
右隣に座るサミュエルも見るからに穏やかな顔つきをしている。
(始まるまではあんなにガチガチに緊張してたのにな)
オーレリアから手紙が届いて今日までの数日間、サミュエルは「どうしよう」を一日に何十回も呟いていた。
半泣きで俺に縋るような目を向けるサミュエルが可愛いくて……いや、そんなサミュエルが心配になり、結局俺も同席をすることに決めたのだが……。
シリルとオーレリアがソファから立ち上がる際、俺はちらりとクライドへ目配せをする。
「それでは、俺は見送りに行ってきます」
サミュエルに声を掛けると、予想通り自分も行くと言い出した。
それをクライドがやんわりと引き止めている。
「サミュエル様、スキンケアグッズが完成しましたら、ぜひわたくしにもご連絡くださいね」
「ああ! もちろんだ!」
満面の笑みを浮かべるサミュエルが今日も可愛い。
そのままサミュエルとクライドを応接室へ残し、俺はオーレリアたちと共に退室した。
「こちらへ……」
そして、案内したのは別館の貴賓室である。
部屋に入ると、今度は俺一人がシリルとオーレリアの二人と向かい合う形となって座った。
赤髪の護衛騎士は二人の背後に控えている。
実は、謝罪の場に同席を申し入れた際、一つの条件が付けられたのだ。
それが、俺個人との話し合いの場を設けること。ただし、サミュエルには内密に……。
そのため、クライドがサミュエルを騎士団の宿舎へ連れ帰る手筈てはずになっている。
(一体、何が望みだ……?)
オーレリアの生家であるキャクストン侯爵家は、表向きにはサミュエルの厳罰を望んでいるように見える。
しかし、我が家への手紙にはサミュエルを擁護するような要望が書かれていた。
そして、今回のオーレリアを見るに、サミュエルに対して怒りの感情はあるのだろうが、その根底には全く別の想いがあるように感じた。
「単刀直入にお伺いいたします。オールディス辺境伯子息様はどうして謝罪の場に同席を申し入れられたのですか?」
オーレリアの深い青の瞳が、じっと俺を見つめる。
(さて、どうするか……)
貴族とは腹の探り合いが常である。
その点に置いては、俺よりも亡くなった兄のほうが得意だった。
そんなどうしようもないことを考えながらも、当たり障りのない答えを口にする。
「サミュエル殿下が心配だったからです」
「心配?」
「ええ。キャクストン侯爵令嬢から手紙が届くと、殿下は毎日毎日『どうしよう』と連呼しておりましたので」
「まあ!」
そう言って、オーレリアはクスっと小さく笑みを零す。
「そこで、事情を知っている私が微力ながら殿下の側に付いていようと思った次第です」
言い終えると、しばしの沈黙が流れた。
「その事情はどこからお聞きになられたのです?」
「サミュエル殿下本人からです」
「どこまで?」
「どこまで……とは?」
すると、オーレリアがふっと息を吐いた。
「このままでは埒が明きませんわね」
「…………」
全くの同感だった。
兄だったなら、このような場でも自分の手の内は見せずに、相手から必要な情報だけを引き出していただろう。
本当に、兄の背中が遠すぎて嫌になる。
「キャクストン侯爵令嬢、申し訳ないが腹を割った会話を希望してもいいだろうか?」
そう口にすると、オーレリアが軽く目を見開いた。
俺の頭の中には『脳筋め』と揶揄う兄の声が響いたが、こればっかりは仕方がない。
「ええ。わたくしのことはオーレリアとお呼びください。口調も崩していただいて構いませんわ」
「ああ、助かる。俺のことも名前で呼んでくれ」
俺は首元のタイを指で緩めながら、さっそく素の口調に戻した。
シリルからの視線が痛い気もするが、俺だってサミュエルが関わることで引くつもりはない。
「それで、さっきの質問の答えだが……」
過去のオーレリアに対する態度や卒業パーティーでの出来事など、俺はサミュエルから聞いた内容を端的に話して聞かせた。
「王城での暮らしについてサミュエル様から何か聞かれましたか?」
「スキンケアグッズを自作していたことくらいしか……。ああ、そういえば菓子を食べさせてもらえなかったとは言っていたな」
だからチョコレート一粒をあんなに喜んで食べていたのだ。
「……それを、どう思われましたか?」
妙な質問だ。
そう思いながらも、素直な感想を口にする。
「菓子が禁止だなんて不思議だとは思った。それに、スキンケアグッズを自作するのも王子の趣味にしては変わっているなと……」
普通なら剣術や馬術に狩り……いや、それすらもサミュエルはほとんど経験がないようだった。
「ええ。剣も魔法も学ばず、スキンケアグッズを自作する第三王子……おかしいとは思いませんか?」
「まあな。一体どんな教育を受けてきたんだ」
すると、オーレリアの表情が苦々しいもの変わる。
「あんなもの教育ではありませんわ。あれは……虐待です」
そう吐き捨てるように言ったオーレリア。
全く予想もしていなかった言葉に、俺は思わず息を呑む。
「虐待? 誰がそんなことを?」
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オーレリアが告げたのは、サミュエルの母の名前だった。
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