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婚約者
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「サミュエル!」
突然の爆発音に驚いていると、大声で僕の名を呼ぶ声が聞こえ、アイザックが部屋に飛び込んでくる。
そして、僕とダリルの姿を捉えた瞬間、アイザックの顔が凄まじい怒りの形相へと変わる。
「この……くそ野郎がっ!!」
吠えるとともに駆け出したアイザックは、あっという間に距離を詰め、僕からダリルを引き剥がした。
その勢いのままアイザックはダリルの腹に蹴りを入れる。
「ぐうっ………!」
呻き声を上げて床を転がるダリル。
そんな彼に一瞥もくれず、アイザックは僕の身体を抱きしめる。
「サミュエル! 無事か!?」
「あぃだ…う……」
「どうした? 何をされた!?」
「う………」
僕の舌も身体も痺れたままで、この状況をうまく説明することができない。
「これは……おそらく魔法による麻痺でしょうね」
いつの間に現れたのか、アイザックの後ろからひょっこり顔を出したクライドが、代わりに僕の状態を説明してくれた。
「時間が経てば回復しますから、安心してください」
その言葉を聞いたアイザックが安堵の息を吐く。
すると、床に倒れていたダリルがゆっくりと起き上がり、アイザックを睨みつけながら口を開いた。
「どうしてここが……?」
「渡り廊下を歩くお二人をお見かけしたと、僕がアイザック様にご報告を差し上げた次第です」
掠れた声で問いかけるダリルに、クライドが淀みなく答える。
僕がこの宮殿に向かう理由は、母上以外にあり得ないだろう。
そう考え、慌ててこの部屋へ駆け付けたのだという。
その話を聞いたダリルがニヤリと笑みを浮かべる。
「ふふっ。君たちは何か勘違いをしているようだね」
「勘違いだと……?」
「サミュエルは僕の所有物になる。これは陛下のご命令でもあるんだよ」
ダリルの言葉が、僕の心に重くのしかかった。
これが父の命令であるとすれば、ダリルを咎めることはできない。
下手に邪魔をすれば、こちらが罰せられる可能性だってあるのだ。
「そもそも、叔母様の私室に入る許しは得たのかな? 扉を破壊して側妃の私室に侵入するだなんて前代未聞だよ?」
そう言って、ダリルはクスクスと笑う。
「だったら、君たちのやるべきことはただ一つ。サミュエルを置いて今すぐこの部屋を出ていくんだ。そうすれば、君たちのことは見逃してあげてもいい」
勝ち誇ったように口元を笑みの形に歪めるダリル。
そこへ、妙に落ち着き払った声が響いた。
「それは、おかしいな」
「え?」
その声の主が姿を見せると、途端にダリルの表情が固まる。
「あ、アルフレッド様……どうして貴方がここに……」
僕の異母兄であり、この国の王太子となったアルフレッド。
僕と同じ金髪碧眼で整った顔立ちをしているが、その冷ややかな視線で相手を萎縮させることから『氷の王子』だなんて渾名が付けられている。
(アルフレッド兄上……!?)
思わぬ人物の登場に目を見開くが、アイザックとクライドは驚く素振りを見せなかった。
まるで、アルフレッドが現れることがわかっていたような……。
「全く、派手にやってくれたな」
ボソリと呟いた後、アルフレッドはダリルに視線を向ける。
「レディング侯爵子息。陛下が連れ出す許可を出したのはディアナ妃のみだと聞いているが?」
「それは………」
アルフレッドの問いかけに、ダリルはバツの悪そうな表情で口籠る。
(どういうことだ……?)
父が僕の相手にダリルを選び、王城から連れ出す許可も得ているのだとダリルは言っていた。
それなのに……。
「さ、サミュエルが叔母様……いえ、ディアナ妃と共に暮らしたいと……」
なぜか、僕からの申し出があったと、ダリルは嘘をつく。
「ほう。サミュエルからの申し出だったと?」
「そうなのです!」
しかし、違うと否定しようにも、舌が痺れている今の状態では会話に口を挟むこともできない。
「だが、いくら本人の申し出だとして、勝手に連れ出すのはいささか問題ではないか?」
「それはその……い、いいではありませんか。すでにサミュエルは王族ではないのですから。それに、サミュエルのような問題児には管理をする人間が必要です!」
「問題児か……。たしかに、あのお粗末な婚約破棄騒動には呆れてものも言えなかったからな」
アルフレッドが同調する姿勢を見せると、ダリルの表情が目に見えて輝き出す。
「そんなサミュエルを辺境の地に置くのは殿下だって不安ではありませんか? でしたら、我が家が責任を持ってサミュエルをお預かりいたしましょう! スキンケアグッズだって、うちの商会に任せていただければさらに利益を……」
「なるほど、お前の言い分はよくわかった」
そう言って、アルフレッドはダリルの言葉を遮る。
「レディング侯爵子息。お前はそもそもの前提を間違えている」
「え………?」
「たしかにサミュエルの王位継承権は剥奪された。だが、今のサミュエルはオールディス辺境伯子息の婚約者という立場だ」
「は……? こ、婚約……?」
ダリルは信じられないといった表情で、アルフレッドを見つめる。
対する僕も、すでにアイザックと婚約しているのだと言われ、意味がわからず混乱してしまう。
「そう、婚約者だ。お前は他人の婚約者を管理するつもりなのか?」
「そんな……そんな話は聞いたことが……」
狼狽えるダリルの姿に、アルフレッドは口の端をつり上げる。
「知らなくて当然だ。二人の婚約は本日整ったばかりだからな」
「………っ!?」
「丁度いい機会だからと夜会で公表するつもりだったが……。まさか、サミュエルがこのような場所に連れ込まれているとは」
「う、嘘だ。サミュエルは僕の所有物になるはずで……そんな、どうして……」
「証拠なら後でいくらでも見せてやる」
そう言い放ったアルフレッドはダリルから視線を外すと、今度は僕の顔をじっと見つめた。
「さて、誘拐は未遂だったが……服を脱がせ、魔法を使用して身体の自由を奪った。さすがにこれは見過ごせないな」
そんなアルフレッドの言葉を合図に、騎士たちが部屋になだれ込む。
そして、あっという間にダリルは捕縛され、部屋の外へ連れていかれたのだった。
突然の爆発音に驚いていると、大声で僕の名を呼ぶ声が聞こえ、アイザックが部屋に飛び込んでくる。
そして、僕とダリルの姿を捉えた瞬間、アイザックの顔が凄まじい怒りの形相へと変わる。
「この……くそ野郎がっ!!」
吠えるとともに駆け出したアイザックは、あっという間に距離を詰め、僕からダリルを引き剥がした。
その勢いのままアイザックはダリルの腹に蹴りを入れる。
「ぐうっ………!」
呻き声を上げて床を転がるダリル。
そんな彼に一瞥もくれず、アイザックは僕の身体を抱きしめる。
「サミュエル! 無事か!?」
「あぃだ…う……」
「どうした? 何をされた!?」
「う………」
僕の舌も身体も痺れたままで、この状況をうまく説明することができない。
「これは……おそらく魔法による麻痺でしょうね」
いつの間に現れたのか、アイザックの後ろからひょっこり顔を出したクライドが、代わりに僕の状態を説明してくれた。
「時間が経てば回復しますから、安心してください」
その言葉を聞いたアイザックが安堵の息を吐く。
すると、床に倒れていたダリルがゆっくりと起き上がり、アイザックを睨みつけながら口を開いた。
「どうしてここが……?」
「渡り廊下を歩くお二人をお見かけしたと、僕がアイザック様にご報告を差し上げた次第です」
掠れた声で問いかけるダリルに、クライドが淀みなく答える。
僕がこの宮殿に向かう理由は、母上以外にあり得ないだろう。
そう考え、慌ててこの部屋へ駆け付けたのだという。
その話を聞いたダリルがニヤリと笑みを浮かべる。
「ふふっ。君たちは何か勘違いをしているようだね」
「勘違いだと……?」
「サミュエルは僕の所有物になる。これは陛下のご命令でもあるんだよ」
ダリルの言葉が、僕の心に重くのしかかった。
これが父の命令であるとすれば、ダリルを咎めることはできない。
下手に邪魔をすれば、こちらが罰せられる可能性だってあるのだ。
「そもそも、叔母様の私室に入る許しは得たのかな? 扉を破壊して側妃の私室に侵入するだなんて前代未聞だよ?」
そう言って、ダリルはクスクスと笑う。
「だったら、君たちのやるべきことはただ一つ。サミュエルを置いて今すぐこの部屋を出ていくんだ。そうすれば、君たちのことは見逃してあげてもいい」
勝ち誇ったように口元を笑みの形に歪めるダリル。
そこへ、妙に落ち着き払った声が響いた。
「それは、おかしいな」
「え?」
その声の主が姿を見せると、途端にダリルの表情が固まる。
「あ、アルフレッド様……どうして貴方がここに……」
僕の異母兄であり、この国の王太子となったアルフレッド。
僕と同じ金髪碧眼で整った顔立ちをしているが、その冷ややかな視線で相手を萎縮させることから『氷の王子』だなんて渾名が付けられている。
(アルフレッド兄上……!?)
思わぬ人物の登場に目を見開くが、アイザックとクライドは驚く素振りを見せなかった。
まるで、アルフレッドが現れることがわかっていたような……。
「全く、派手にやってくれたな」
ボソリと呟いた後、アルフレッドはダリルに視線を向ける。
「レディング侯爵子息。陛下が連れ出す許可を出したのはディアナ妃のみだと聞いているが?」
「それは………」
アルフレッドの問いかけに、ダリルはバツの悪そうな表情で口籠る。
(どういうことだ……?)
父が僕の相手にダリルを選び、王城から連れ出す許可も得ているのだとダリルは言っていた。
それなのに……。
「さ、サミュエルが叔母様……いえ、ディアナ妃と共に暮らしたいと……」
なぜか、僕からの申し出があったと、ダリルは嘘をつく。
「ほう。サミュエルからの申し出だったと?」
「そうなのです!」
しかし、違うと否定しようにも、舌が痺れている今の状態では会話に口を挟むこともできない。
「だが、いくら本人の申し出だとして、勝手に連れ出すのはいささか問題ではないか?」
「それはその……い、いいではありませんか。すでにサミュエルは王族ではないのですから。それに、サミュエルのような問題児には管理をする人間が必要です!」
「問題児か……。たしかに、あのお粗末な婚約破棄騒動には呆れてものも言えなかったからな」
アルフレッドが同調する姿勢を見せると、ダリルの表情が目に見えて輝き出す。
「そんなサミュエルを辺境の地に置くのは殿下だって不安ではありませんか? でしたら、我が家が責任を持ってサミュエルをお預かりいたしましょう! スキンケアグッズだって、うちの商会に任せていただければさらに利益を……」
「なるほど、お前の言い分はよくわかった」
そう言って、アルフレッドはダリルの言葉を遮る。
「レディング侯爵子息。お前はそもそもの前提を間違えている」
「え………?」
「たしかにサミュエルの王位継承権は剥奪された。だが、今のサミュエルはオールディス辺境伯子息の婚約者という立場だ」
「は……? こ、婚約……?」
ダリルは信じられないといった表情で、アルフレッドを見つめる。
対する僕も、すでにアイザックと婚約しているのだと言われ、意味がわからず混乱してしまう。
「そう、婚約者だ。お前は他人の婚約者を管理するつもりなのか?」
「そんな……そんな話は聞いたことが……」
狼狽えるダリルの姿に、アルフレッドは口の端をつり上げる。
「知らなくて当然だ。二人の婚約は本日整ったばかりだからな」
「………っ!?」
「丁度いい機会だからと夜会で公表するつもりだったが……。まさか、サミュエルがこのような場所に連れ込まれているとは」
「う、嘘だ。サミュエルは僕の所有物になるはずで……そんな、どうして……」
「証拠なら後でいくらでも見せてやる」
そう言い放ったアルフレッドはダリルから視線を外すと、今度は僕の顔をじっと見つめた。
「さて、誘拐は未遂だったが……服を脱がせ、魔法を使用して身体の自由を奪った。さすがにこれは見過ごせないな」
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そして、あっという間にダリルは捕縛され、部屋の外へ連れていかれたのだった。
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